新入部員達
月乃と早山との『剣の舞』から三日後。もう放課後で、パズル部の全員が部室に揃っている。
そんな時だ、
「頼もぉぉぉぉぉぉう!」
ガラガラパーン!!
大きな音と、それに負けない大きな声と共に扉が開かれた。声からして誰だか分かり、誰も驚くことなくパズル部全員がそちらを向く。
「……何の用?」
三夜子が聞くも、その月乃は何も言わず教室の中へと入って来て大和先生の前で止まり、
「これを」
一枚の紙を差し出した。大和先生はそれを受け取る。
「良いのか?」
「はい」
大和先生は受け取った紙を俺達に見えるよう机の上に置いた。それは入部届け、少しよれよれなところを見るに、俺に名前を書かせようとしていた奴か。
今その紙には月乃の本名とパズル部の文字……月乃がパズル部に入部する手続きが揃っていた。
「分かった、ようこそパズル部へ」
「みんな、よろしくね!」
手を腰に置いて胸を張る、何故か上から目線に見える姿勢で月乃は挨拶した。
「よろしくね~つきのん」
「……よろしく」
押川と三夜子が各々の言葉で歓迎するも、
「月乃が入部したってことは、町田もか?」
俺はふと思ったことを訊ねてみた。
「いいえ、花香は別の部活よ。元から入ってた方に集中するって言ってたわ」
そういや掛け持ちしてたんだったな。
「アタシは部活ここだけだからね、バッシバシ練習するわよ」
「そんなに練習がある部活じゃないぞ」
「てか、パズル部って大体何やってるの?」
「知らずに入部届け書いたのかよ」
「う、うるさいわね。別にいいじゃない!」
「はぁ……」
月乃らしい、といえばそうだが、
「押川、月乃に活動内容を説明してくれ」
「は~い。つきのん、とりあえず座って座って」
月乃は押川の前の席に座り、説明を聞き始める。それを見た大和先生は、
「さて……そこに立ってないで入ってきたらどうだ?」
入口へと顔を向けた。俺と三夜子もそちらを見ると、
「……」
いつの間にか、早山が入口の前に立っていた。
無言のまま部室内へと入ると月乃同様に大和先生の前で止まり、
「……これを」
月乃がしたように、入部届けを大和先生に手渡した。
「良いのか?」
同じように大和先生が聞くと、早山は頷いて、
「掛け持ちですので毎回は参加出来ませんが……部が休みの時は必ず来ます」
「OK、ようこそパズル部へ」
「よろしくお願いします」
俺達の方を向いて深く一礼、礼儀正しく挨拶をした。
「え、早山、アンタもなの?」
「よろしくね~、はやまん」
月乃は目を丸くし、押川はあだ名で早山を迎える。
「……よろしく」
三夜子は月乃にしたようにいつもの調子だ。
「これは賑やかになるな」
こうして『剣の舞』から三日後の今日、月乃と早山がパズル部に、俺達の仲間になった。
月乃が早山に勝ち。
三夜子が月乃に勝ち。
俺が月乃と早山に勝った。
……となると、俺と三夜子はどうなるだろう。いずれ戦うのは定めだが、それはまだ先の話。
何故このような話をしたかと言うと、三夜子と月乃についてだ。
あの河川敷での戦い、勝ったのは三夜子だった。負けた本人である月乃は最初からケンカ腰でかかっていたので負けたショックはかなりのものだと思う。
現にあの時、2人を待っていると三夜子が一人で先にこちらに来て。
「……勝った」
と言った、無表情で。
もう少し嬉しそうに言ってもいいんじゃないか? と言ったところ、
「……勝った」
全く変わらず答えられた。
そして月乃は、
「はぁ……また負けたわ」
見て分かる程に落ち込んでいた。下手に慰めの言葉は月乃に合わないのは分かっていたので黙っておいたが、そのショックが無ければもしかしたら、もう少し早く月乃はパズル部の仲間になっていたかもしれない。逆に、負けたからというのもあるかもしれないが。
ということもあって、2人の仲はあまり良くないと思っていた。
だが、それは間違いだったことを知ったのは、2人が入部してから更に三日後のこと。
用事を済ませ、少し遅れて部室へと行った俺は、扉についた窓で中を見た時。
三夜子と月乃が何故か向かいあって座っている所を目撃した。
それを見た俺は慌てて窓から見えない扉の下へ隠れて、そして、何故隠れたのか考えた。
実際そんな必要は無い筈なのだが、あの2人のあの状況を見たら何故か隠れずには居られなかった。
出ていきにくくなったな、と思いながら扉に頭をつけると、人の声が聞こえた。
数は2つ、もちろん誰のものかはっきり分かり、部室の中の三夜子と月乃の。2人の会話が聞こえてきた。




