言ってくれれば
互いに間合いをとり、俺は柄を引いて剣に空気を送って軽くする。
月乃は刃をこちらに向けて俺を睨んだ。
月乃の剣、その能力は柄の先についた三日月型のもう一つの刃。それ自体が意思を持っているように相手に切りかかる。能力による攻撃だがそれ自体も刃だからか切られてもダメージは無いが、それはそれで感覚が無くて困る。
幸いなのは、剣と繋がった有線だということだろう。紐に多少なり伸縮はあるが見た限りせいぜい2メートルというところだ。
コレが現段階で分かる月乃の獲物の情報。月乃にもこれぐらいの情報があるだろう。それにより対策を考えて今に臨んでいる筈。
俺の場合、注意すべき点は一ヶ所。
「さすがね、創矢」
「そっちこそ」
もう何度目かのつばぜり合い、その度に互いに一言ずつ言って離れる……だが、今回は違った。
月乃の後ろから三日月の刃が現れ、俺へと直進する。この状態で迂闊に下がると、月乃に切られる。
なら、これでどうだ!
俺はそのまま剣を上に上げ、三日月を剣の腹で防いだ。
「甘いわよ!」
その途端、月乃は体制を下げてをがら空きになった俺の腹を横に切った。
「本当の剣はこっちよ!」
分かっている、これは想定内の攻撃だ。空いている場所を月乃がわざわざ切りに来ない訳が無いと読んでいた。
「はぁぁぁ!」
上に持ち上げた剣を、下にいる月乃に向けて降り下ろした。
ズバン!
「!?」
横に切られたのと縦に切られたの、どちらが威力があるのかは分からないが、切った範囲なら明らかに俺の方が長かった。
剣を降り下ろした状態のまま後ろに下がって間合いをとり、すぐさま剣を構える。
「……」
「……」
互いににらみ合う……この状況、体育館裏と同じだな。
あの時は早山が割って入り決着がつかなかった。しかし今は違う、早山が止める気配は無いし、何より決着の為に準備した戦いだ。決着は、必ずつけなくてはいけない。
……だが、
「なぁ、月乃」
俺は月乃に言っておかなくちゃいけないことがあった。
「……なによ?」
月乃が反応した為、俺は言葉を続ける。
「町田に聞いたぞ、お前が……いや、お前達が部活を作りたかった理由を」
「……」
月乃は動かなかった。もし聞きたくなければ剣を差し込んでくることも出来る、しかしして来ない。なので更に言葉を続ける。
「部活から疎外された町田を助ける為に自分も部活を抜けて、新しく部活を作ろうとして、俺や早山を勧誘していた」
「だから、なんだって言うのよ?」
「俺も早山も勧誘は断り続けた。ちゃんとした断る理由があったからな、けどお前は諦めなかった」
あの時とは違って言葉が続く、それは月乃が何も言わないからか、俺がある一件で話すことに慣れたからか、そう思った時だ。
「当たり前じゃない、アタシにだって理由があったんだから」
「そう、それだよ」
月乃の口から、重要な言葉が出た。
「理由があったのは分かってたんだから、何でそれを話してくれなかった?」
「……」
月乃が何か言うまで待つつもりだ。もしも剣を振ってきてもこの間合いなら月乃は前に出ないといけない。そうしたら俺はすかさず…
「………からよ」
「え?」
しまった、聞き逃した。
「言ったところでどうにもならないのが分かってたからよ」
繰り返し言った月乃は、笑っていた。
笑える状態でも状況でもない今で、月乃は笑って答えていた。
「だってそうでしょ? 理由なんて言ったところで誰がアタシみたいなのを助けようと思う? あはは、だから理由って大っ嫌いなのよ、言ったところで、はいそうですか、ってなるの、そんなムダに言うぐらいなら無理やりにでも説得した方が良いに決まってるじゃないの」
あの月乃が、そんな風に考えていたなんて……
「だからさ……」
剣の切っ先をこちらに向ける。
「アタシが勝ったら、部活に入ってもらうからね」
瞬間、右肩を何かが通った。
「な!?」
油断した、この距離も三日月の間合いだったのか。月乃が動かなかったのは言葉を聞いていたからじゃなく、意識を自分に集中させて三日月が近づいていることを悟らせないためだったんだ。
その隙をついた月乃が一足飛びに近づいてくる。すでに近くに三日月の刃、2つを同時に防ぐ術は……コレしかない!
剣の先を下に向け、柄を押し込んだ。
ブォン!
空気が押し出され、砂煙で視界を奪った。河川敷は前回のような砂地ではない為若干薄めだが、これで月乃も刃も俺を狙えない。
「くっ……ドコよ!」
叫んだ声を頼りに月乃の近くへ移動し、
「コッチだ!」
そしてあえて、場所を教える為に言葉を発する。
さっきの話の続きを、
「いくら理由を言ったところで意味がないのが分かってたとしてもな……言ってみなくちゃ分からないこともあるだろ!」
「じゃあなによ! 言ったらどうにかしてくれたの!?」
「いや、俺にも理由があって部活には入ってやれない……けどな、その手伝いぐらいなら、勧誘の協力ぐらいならしてやってたよ!」
「……っ!?」
砂煙が風に消され、互いの姿が見えた。
ただし、月乃に俺が見えてるかは分からない。
今俺は月乃の左側、眼帯をしてる方に回っていた。
町田に聞いた話で本当に目を怪我している訳では無いが理由としてつけていた眼帯、俺はそれにより出来た死角をついた。
「しまっ…!」
月乃は慌てて俺に向き合うが……遅い!
「くらえ!」
空気を放った状態のまま下げていた剣を切り上げる。
「えっ……そん、な…」
剣が通過した途端、月乃はその場に膝をついた。
「もう一回!」
俺はその隙をつき、振り上げている剣をそのまま下に、月乃目掛けて振り下ろした。




