能力の使い方
沈黙を破った帽子の男の開始宣言と同時に動いたのは俺だった。
一足で近づき、横に振るう。とっさに守った飯田の剣と触れ、この音が本当の開始音となった。
「僕は……あの人の為に!」
飯田は柄を回して上に振り上げ、そのまま下へ。俺はバックステップで避ける。
「助けられた礼には、礼で返す……その為に、僕は!」
飯田が前へ出る、バットのように構えて振り被る。ブォン! と空を切って剣が振られた。
能力が来る、とっさに防御の構えを取るがそれは不味かった。
「うわっ!」
剣の能力が発動し、俺は後ろへ吹き飛ばされた。小石が転がる不安定な足場に何とか足をつけて止まると、そこへ飯田が先ほどと同じ構えでの二撃目。
「二度もくらうか!」
後ろへ移動し、攻撃を避ける、飯田の剣は空を切った。
「もらった!」
柄を強く握り、左足に力を入れて前へ飛び出す、飯田の腹を横に薙いだ。
飯田に痛みの表情は無く、俺に切った感覚は無い。つまりは、すぐに次の行動へ移れる。
「くっ!」
飯田が剣を振り上げ、そのまま下へ。
しかし一方の俺は横に薙いだ力のまま、力の向きはそっちにあり、剣の重さもあってすぐに動けない……それがただの剣ならば。
柄を伸ばして刀身に空気を送る、それにより軽くなった剣で飯田の一撃を防いだ。
ギギン!
よし、吹き飛ばされない。飯田の能力は横に振った時だけにしか発動しないようだ。
そんな分析をしていると、
ギン! ガキン!
鉄と鉄がぶつかる音が聞こえた。
音のした方向に目だけを向けると、双剣どうしの『剣の舞』が行われていた。
「へっ、なかなかやるじゃねぇか」
「……負けない」
「だが、お前とは扱ってる期間が違うんだ。剣も、そして、能力もな!」
原良の双剣が伸ばされた。七ヶ橋はその場に立ち、伸びてきた刃を避ける、
「甘ぇぞ!」
瞬間、刃が円を書いて横に流れ七ヶ橋の手に触れた。
あの時と一緒だ、ただ伸びるだけがあの剣の能力じゃないらしい。
「っ……」
七ヶ橋は剣を交差に構え、風を放った。
「うぉ!?」
傷つける刃ではなく、ただ吹き飛ばすだけの強い風を浴びた原良が後ずさる。
刃の長さを戻しつつ、
「はっ、これが最近まで隠れてた奴の力かよ。いくら何でも手強すぎねぇか」
七ヶ橋を称賛していた。
「だが、だからといって俺は仕事をこなすだけだ……行くぞ!」
……出来ればこのまま見ていたいが、今はそれどころじゃなかった。
飯田が手を返して剣を横に構える。能力の発動条件が揃ったまま、
「はぁ!」
横に振る。俺はそれを防ぐ。
ガキン!
音と共に剣の能力が発動。俺は後ろへと飛ばされた。
「二度はくらわないと言ったじゃないですか?」
分かっている、自分で言った事だからな。
だが、これでいい。後ろへと飛ばされる中、俺は軽くなった剣の刀身を背中に回す、ちょうど刀を鞘に納めたような形になる。左手で柄の中心部分を持ち、右手は柄の頂点を持つ。
考えた事があった。七ヶ橋のような魔法のようなことが出来るわけではないこの剣、しかしこの能力を使って技を考えることは出来るのではないか?
考えはまとまった。
結果は……今試す。
吹き飛ばされ地面に落ちる寸前、俺は右手で柄を押し込んだ。
ガコン!
最初に使った時には飯田を、誤作動で出た時は俺と大和先生が宙に浮いたこの空気砲の威力。
それを、利用する。
ブォン!
空気の塊が地面へと放たれた反動で、俺は宙に舞い押し出される形で、吹き飛ばされた距離を詰めた。
「なっ!?」
驚いた飯田の顔を見つつ、俺は再び柄を伸ばして軽くなった剣を振り上げる。
飯田は咄嗟に剣を上に持ってきて防御の姿勢をとるが、
「隙ありだ!」
振り上げた剣を降ろしつつ手首を返して剣を横に、押し出された勢いのままで飯田の腹を横に薙いだ「え……? 今、のは?」
遠くからの飛び込み面、に見せかけた飛び込み胴。
剣道で使われる技の一つで。いかにして相手へ面をうつように思わせるかがポイントだな。
熟練者だと効かないんだよな、コレ。飯田が初心者で助かった。
「……僕は……僕は…」
着地して飯田の方を見ると、何か呟いていた。
今の一太刀が強力ではあっただろうが、剣の斬撃には痛みは無い筈だ。しかし何故か飯田は剣を杖代わりにつき、足をふらつかせていた。
「あの人の……為に、役に……礼には……礼は……剣を、望んだ……あの人…」
だ、大丈夫かコイツ?
次の瞬間、
「僕は……僕はぁぁぁ!」
飯田はその場で、剣を横に構えた。
能力か!
だが近づいてくることなく、つまりその場から動くことなく剣を振った……地面に向かって。
ガッ!
地面に触れた剣は、足元の小石を巻き上げ、それらがこちらへ飛んできた。
そういう使い方もあるのか! けどあの小石は飛ばされたもの、なら防げるだろうと防御の姿勢を取る。
カン! カンカン!
小石が剣に当たる、なるほど、あの能力にはこういう使い方もあるのか。
こちらに飛び道具は無い。となると遠間はダメだな、近づいてもう一度飛び込み胴を当てるか…
防御の姿勢を解いて前を見ると、飯田は俺の前にいた。
「!?」
まずい、懐に入られた! と驚く俺を横目に、飯田は俺の横をすり抜けていった。
その先には…




