変化ナシと変化アリ?
最初にこの河川敷で、まだ共に剣じゃなかった時だ。
七ヶ橋が傘で俺が木刀だった時、2人の剣技は剛と柔で真逆だった……今もそれに変わりはなく。2人が手に入れた剣もまた、それぞれに適していた……つまり何が言いたいのか。
どちらも、一太刀も入らないのだ。
俺は守り。七ヶ橋は避ける。前とは違う獲物、七ヶ橋に至っては二刀流だが、俺は縦横共に拡大した剣で守る、七ヶ橋が能力の風を吹かせれば、空気砲で壁を作って防ぐ。
お互い一向に当たる気配はなく、
「2人共ストップ!」
ついに大和先生が止めに入った。
「もう暗くなるぞ、今日はそれぐらいにしておけ」
辺りを見ると、すでに日は落ちていた。
帰る方向の違う大和先生と河川敷で別れ、俺と七ヶ橋は寮への道のりを歩いてく。
「……」
「……」
……うん、静かだ。
回りに人はいないし、元より車の通りは少ない。吹き抜ける風が一番響いた。
マズイな、この空気。
声を出してないと、身が持たなくなるような時がないだろうか? 今はまさにそれだった。
七ヶ橋が自分から何かを話す事はおそらく無い、となれば俺が何か話題を見つけて…
「……創矢」
…ふいに、名前を呼ばれた
もちろん、七ヶ橋にだ。
「な、なんだ?」
「……明日、勝てるよね」
意外だった。
話しかけてきたことではない。顔に表情こそないが、七ヶ橋が弱気な発言をしたことにだ。
何でそんな事聞くんだ?
と言うのは野暮だと思った。俺だって、不安が無いと言えば嘘になる。必ず勝てるそんな確信は俺にも、もちろん七ヶ橋にも無かった。
確かに相手には体力、剣術共に勝っているだろう。だがそれだけで勝てるのなら、七ヶ橋はあの時にああはならなかった。
剣という獲物を上手く扱い相手の戦う意思を切る。それが、剣による戦い。
別名『剣の舞』
必ず勝てる、という根拠はこの戦いにおいて全く存在しなかった。
だからこそ、俺はこう言った。
「勝つんだ、必ず」
「……え?」
七ヶ橋がきょとんとする。した、と思う。首を傾げたから、したんだと思う。
「勝つという気持ちが無ければどんな勝負でも絶対に勝てない、だったら勝てると思いながら全力で挑めばいいんだ」
俺はそう言われて育った。その言葉を七々橋に、そして自分自身に言い聞かせた。
「……そっか、そうだよね」
「そう、必ず、勝つんだ」
「……ありがとう、創矢」
そう言った七ヶ橋の顔は、恐らく、笑っていたんだろう。




