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文武平等  作者: 風紙文
第一章
22/281

お前はなんだ

部活の終了時間になったが。パズルは解けなかった。

適当に板を動かしてみては森の柱が抜けるかどうか引っ張ってみたが一切変化無し。地面に刺さっているだけなら実は抜けるんじゃないかと思って一度力任せに引っ張ってみたが、全く変化は無く疲れてしばらく手が止まってしまった。

そうこうしている内に部活の終了時間となったので、部室へと戻ってきた。

「あ、武川君おかえり~」

「お、どうだった」

「動かし方は分かりましたが、無理でした」

「そうか、まあ一日そこらで出来る訳無いからな。地道に頑張れよ」

「はい」

「そんじゃま、帰るか」

部室前で大和先生と別れ、俺達3人で正門を出て帰路に付いた。

周りには他の部活帰りの生徒がちらほらと見える中、パズル部の3人で並んで歩いていく。

そこでふと、思った。

「そういえば、良かったのか、押川」

「ん? 何が?」

「確か、他の部活に入ってたよな?」

「うん、ボクは陸上部所属だから行けない日があると思うけど、なるべく行くように頑張るよ」

「いやそうじゃなくてな」

こちらの言葉より先に、押川が。

「だってボクとみゃーさんと武川君は友達じゃないか、友達が困ってたら助けてあげなくちゃね」

「そっか」

「……ありがとう。リリ」

「いいってみゃーさん」

押川は七ヶ橋の手を取り、

「ボク達は友達だもん」

「……ありがとう」

心なしか、お礼を言う七ヶ橋の顔に喜びを感じた気がした。





一夜明け。いつも通りの時間に登校の途中、

「ちょっといいか?」

俺はふいにかけられた声に振り向いた。

それが俺にかけられた声だと確信は無かったが、どこか聞いた事のある声だったので振り返って見ると、俺の予想は当たり。振り向いたそこには声の主である。

「少し話がしたい。まだ始業には時間が早いだろ?」

高校のOBだと言った原良という剣狩りの男がいた。

「七ヶ橋ならいませんよ」

探す為に早く寮を出たのだが、見つかっていなかった。

「いや、話があるのはお前にだ」

俺に? 剣を持っていない俺に話?

「なんですか?」

「まあ落ち着けよ。ここは人が多い、この先に確か公園があったな、そこへ行くぞ」

原良という男は横道に入っていった。

別に追う必要は無いだろうだが……七ヶ橋を狙う人物に変わりはないからな。警戒しつつ、俺は後を追った。

さすがOBだからか地理を知っており、少し行った所あった公園で先に向かった原良がベンチに座っていた。

「まあ座れよ」

「……」

座らなかった。

「そんなに警戒しなくても大丈夫だ、俺の今の狙いはあのメガネの奴の剣だからな」

「その後に七ヶ橋を狙うんでしょう」

「まぁ、多分な」

「……」

「よし、少し関係ないバカな話をしよう」

「は?」

「お前、アナグラムっての知ってるか?」

アナグラム、言葉の並びを変えて別の言葉を作る事だ。

「俺があの高校に行ってた時に流行ってたんだ。自分の名前をローマ字にして、並び変えてどれだけカッコいい感じの名前を作れるかって」

「はぁ……」

急に何を言い出すんだ? この男。

「でな、それをする際にはいかに多くの字を作る事が出来るか、つまりは母音が幾つもある方が有利なんだ……でもな」

急に、原良の声のが小さくなった。

「お前、名前は?」

「……武川、創矢」

原良は落ちていた気の枝を拾うと、地面にローマ字で俺の名前を書いていった。

「母音はaが四つ、eとuとoが一つずつ……と、なかなか言葉が作れるな」

原良は続けてローマ字を書いていく。最初は大文字のH、続けて小文字のa……恐らく自分の名前だ。

「俺の名前は原良正忠(たださ)。つまりは……こうなる」

Harara Tadasa

「うわ……」

思わず声が出た。

母音がaしかない、これではアナグラムにも限界が早く来るだろう。

「悲しいだろ? 初めてアナグラムに使おうとして書いた時に気づいてな、クラスが静まったんだぜ」

ローマ字なんて今となっては小学生が習うもので、自分の名前なんて最初に書かされるローマ字の並びの筈なのに……

「大変でしたね」

思わず哀れみの言葉を送ってしまった。

「そうでもないぜ、これに気づいてからは皆にオールAって呼ばれるようになって毎日楽しかったしな」

オールA……凄い人に聞こえるが、意味を聞いた今では笑い話でしかないが、笑うに笑えない。

「さて、ようやく言葉が交わるようになったな」

「あ……」

今のは俺の警戒を解かせるためだったのか。

「そんじゃま、俺が聞きたい事に答えてもらうぜ」

こうなっては仕方ない。だが、

「……ものによりますよ」

「あの傘を持った女子がいるだろ」

「七ヶ橋ですか?」

「そうだ、そいつだ。で……お前は、アイツのなんだ?」

「え?」

俺は七ヶ橋のなにか?

「なんだって……友達です。俺と七ヶ橋はクラスメイトで、友達です」

「それだけか?」

「……と言うと?」

「初めてお前達と俺が会った時にお前達がしていたのはなんだ? あれがただの友達どうしがする事か? それだけじゃない。俺が学校でお前達に会った時にお前は何をしてた? 剣の持ち主と戦おうとしてたよな? なんでだ? ただの友達を助けようとする為にか? ただそれだけの為に、自らの命を危険にさらせるのか?」

「……」

「はっきりと言う。アイツと一緒に居続けるならお前は絶対に大怪我をする、怪我ですめばまだいい、最悪お前は死ぬぞ、ただの友達の為に」

「そんな事は……無い」

もはや敬語など使う気になれなかった。

「いや、あるね、じゃあ聞くが、お前はアイツのなんだ?」

「七ヶ橋は……友達。いや、そんな簡単な言葉じゃ言えない」

強いて言うならば、

「友達、以上……」

「へぇ、なるほどな。友達じゃあり得ねぇ事も友達以上ならあり得てもいい、そういう事か。はは、お前は面白い奴だ。お前も剣持ちなら、いい戦いが出来たかもしれねぇな」

原良はベンチから立ち上がり、そのまま行ってしまった。

「……」

今の言葉、要は俺の身を案じて言ってくれたんだよな。

わざわざそんなことを言ってくるなんて。あの人……何で剣狩りなんてしているんだろう。





俺が学校についたのは、始業の3分前だった。

「おっす創矢」

「ああ」

浜樫の挨拶に返しながら、ふと七ヶ橋の席を見る。さすがに始業3分前だけに席に座っていて、俺が見ている事に気づいてないのか前を向いたままだ。

ふいに、先ほどの原良の言葉を、そして自分が言った言葉を思い出す。


お前はなんだ


友達、以上……


「……はぁー」

席に座り、大きなため息をついた。

今思い出してみれば、俺はなんて恥ずかしい言葉を口にしていたんだろうか。

あの時は、あの場を乗り切る為に言っただけに過ぎない。その時の勢いというやつであんな言葉が口から出はしたが、実際にはどうなんだろう。

七ヶ橋は、俺の事を友達だと思っているだろうか。


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