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文武平等  作者: 風紙文
第一章
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決意の休日

帰り道の途中、すでに部活帰りの生徒も帰り切ったのか周りに他の生徒は見当たらない。なので先ほどの話をしていた。

「さっきのアイツ、あの時のいじめられっ子だったんだ」

「……そしてもう一人は、あの時の剣狩り」

「ふむ……なぁ、七ヶ…」

「……三夜子」

「……」

今分かった。七ヶ橋は二人きりの時に名前を呼ぶように強制してる。あの時は大和先生がいたし、その前は校内で生徒が沢山いた。だから七ヶ橋と呼んでも何とも言われなかった訳だが、今はその必要が無い訳で。

「三夜子」

「……何?」

だから名前を呼べ、か。変な拘りだな。

まぁそれはともかく。

「あの剣狩りの男が倒れてた三夜子を見たって言うんだが、確かか?」

「……確か」

こくり、と頷いて答えた。

「じゃあ、何で倒れていた三夜子の剣じゃなくてあの飯田とかいう一年の剣を狙いに来たんだ?」

「……分からない」

「だよな……」

「……でも」

「なんだ?」

「……あの人、本当に悪い人ではないかもしれない」

「……」

何とも言えないな。

最初に会った時は七ヶ橋の剣を狩りに来た訳だが、先ほどは簡単に狩れたにも関わらずスルーした。

本当に悪い人で、本当に七ヶ橋の剣を狙っていたならそんなチャンスを逃す訳が無い。

あの男……確か原良と名乗っていたよな。

一体、何者なんだ。

「……創矢」

ふいに、七ヶ橋に話しかけられた。

「どうした?」

「……明日は、暇?」

「明日?」

今日は金曜日、つまり明日は土曜日で、学校は休み。

そうなると寮生の3分の1。この辺りに家がある者は家に帰る事が多い。俺もそんな一人だ。

だからといって必ずしも帰る訳ではない。道場も流石に土日は休みだからただ帰るだけになるので、無理に帰る必要はないのだが……

「まぁ、明後日でいいか」

「……明後日がどうしたの?」

「いや、明日は暇になっただけだ」

「……そう」

「それで、何か用事か?」

「……手伝って」

七ヶ橋は右手に持っている傘を示した。

「今度は戦いの、か?」

「……」

こくり、と頷いた。

「OK、時間はどうする」

「……いつでも、創矢の自由な時間でいい」

「じゃあ…」





キン! カキン! キンキン! カキン!!


曜日は土曜日。時刻は15時24分。

場所はいつかの河川敷にて、俺と七ヶ橋は戦っていた。

俺は前のように七ヶ橋が持ってきた木刀で、七ヶ橋は鍵を解いた剣だ。双剣になった事により七ヶ橋の動きが更に速くなり、柔の剣に更に磨きがかかっている。今は何とか攻撃を防いでいるが油断をしたらその瞬間にアウトだ。まあ剣に切られても怪我はしないようだが。

そして何より……来る!

七ヶ橋が双剣を交差させて両脇に隠す。形だけを見れば抜刀術に似ているが、それを二本同時、それに今俺と七ヶ橋との間には刃が届かない距離が開いている。

アレは抜刀術であって、抜刀術とは少し違う。

フォン……

二つの剣が交差に振られた瞬間、突風が向かってきた。

木刀で防ごうにも形の無い風を完璧に防げる訳なく、俺はその風を浴びて吹っ飛ばされた。

というか、一瞬足が地面から離れて後ろに押されただけだが、それだけでバランスを崩して尻餅をついた。

「いて」

河川敷の地面は小石の集まりなので、声に出たように少し痛い。

「……大丈夫?」

七ヶ橋が首を傾げて聞いてくる。やった張本人が何言ってんだか。

今のが、七ヶ橋が持つ剣の能力だ。

風を操り、今のように風を産み出して飛ばす事ができる。

昨日みたいに刃のような鋭い風も、今みたいにただ風圧の強いだけの風も出せるように……今さっきなった。普通ならこんな変わった物を扱うには何日間もの練習が必要になるものだろうが、七ヶ橋はこの数時間で風を操れるようになっていた。

流石と言うべきか……いや。これはアレだ、感情から来るもの。

それは、怒りと悔しさ。

剣で吹っ飛ばされた時、七ヶ橋は悔しかったのだ。あんな意図も簡単に、しかも相手はあの時のいじめられっ子で……いやそれは関係無いか。初めての剣での戦いに半場負けかけた事、そこが重要だ。

完全なる負けではないが、自らの願いの為に自己を犠牲にしてまで得た剣での初試合で。つまりそれは夢への一歩を挫かされた事になる。

一度の負けが全ての終わりではないにしろ、それはとても悔しい事だ。

俺にも経験がある、その時は死に物狂いで練習して、再戦の時に勝つ事ができた。

今の七ヶ橋もそれと同じだ。その結果が、あの驚くべき能力習得の速さになったという事か……

「よっと」

俺は立ち上がり、木刀を構える。七ヶ橋も前で双剣を構えた。

良いぜ、その感覚。経験のある俺からしたらそれはかなり上達の糧になる。

だから今日はとことん付き合ってやるんだ。

悔しいのはよく分かった。


俺だって、そうなんだから。





「俺、部活に入りたい」

日曜日、実家に帰ってきてそう告げた。相手は両親、場所は食卓で、今は昼御飯の最中。

「何部にだ?」

予想通りの質問を親父が聞いてくる。

「名前は……まだ分からない。でも俺が入らないとその部活自体が作れないんだ、友達に誘われてな、部活に入ってないのは俺ぐらいなもんだからさ」

「……」

「……」

食卓に沈黙が響く。

少しして、それを壊したのは親父の一言。

「確か、剣道部には入った所で大した事が出来ないという理由で入らなかったよな」

「うん」

「では、その部活に入ったら大した事が出来るのか?」

これも想定内。親父の性格はよく理解しているし、どのような答えを求めているのかも。

「そんなの分からない、部活の名前も知らないんだからな。でもこれだけは言える……後悔はしない」

「……」

母さんは何も言わない。こういう時の決定権は全部親父だからだ。

「……そうか、後悔しないんだな。だったら別に構わない」

「ありがとう、親父」





そして月曜日。

「部活、入ります」

朝のホームルーム終了と共に大和先生を追って伝えた。

「お、決めてくれたか。いやー助かるぜ、後一人いないと申請出来なかったからさ」

「後、一人?」

部活の申請には顧問になる先生と最低でも3人の生徒が必要になる。一人目は七ヶ橋だとして、

「2人目は?」

「予想はつくだろ?」

「あー、一応は」

「じゃあ良いだろ、ほれ」

大和先生は俺に入部届を渡し、それに年組番氏名を書いて返す。

「オッケ、これでパズル部が成立だ」

「パズル部ですか?」

そんな名前だったのか。

「ああ、パズル部だ」

「具体的内容は?」

「パズルの研究、及び剣の持ち主を集める事」

「後者が主で、前者が建前ですか?」

「内緒な」

「はい」

「で……話を変えるが、武川お前、剣が欲しくないか?」

「え……」

剣……確か前に、剣が欲しいと言った覚えがある。

「手に……入るんですか?」

「一応な。だが…」

大和先生は一拍置き、

「何か、叶えたい願いはあるか?」

「願いですか」

「はっきり言ってな、剣を持つ者で願いを叶えたいと思ってない奴はいない。むしろそんな奴がいたら怒られるからな」

確かに、願いを叶える方法を持ちながら使わないのは宝の持ちぐされだ。

「だからもし剣を手に入れたいなら、叶えたい願いを考えておけよ。じゃ、放課後に職員室な」

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