風纏う白黒の剣
光が止んだ時、まず目に入ったのは七ヶ橋が持つ物。
白い刃、白い柄、鍔の無い真っ白な剣。それが右手に。
黒い刃、黒い柄、鍔の無い真っ黒な剣が左手に。それぞれ握られていた。
七ヶ橋が持っていた傘に納められていたのは、白と黒の双剣だった。
「な、何で、確かまだ鍵が解けてないって聞いたのに、何で剣を」
「……今さっき解けた」
「く……ですが、僕はなんとしてもその剣を持っていかなくてはいけないのです」
ガシン!
メガネの男、飯田は自らの剣を地面についた。
「コレをもらった方に恩返しをしなくては……僕は、本当にダメな奴になる……だから、恨まないで下さい!」
飯田は剣の先をこちらに向け、その体勢のまま突っ込んできた。
「……離れてて」
七ヶ橋は両手の剣を構える。確かに、剣の持ち主を相手に今の俺では何もできない。
「気を付けろよ」
なので俺は後ろに下がった。安全かは分からないが邪魔にならないよう『森の柱』の後ろに隠れて、そこから2人の戦い―――『剣の舞』を見た。
七ヶ橋の持つ二本の剣。色こそ真逆だが形は同じ、おそらくフリッサだろう。確か北アフリカの方では国民的な剣らしく、片刃で細く長いのが特徴だ。
一方の飯田。見た感じでは剣よりも棍棒みたいな印象があるが、多分アレはマクアフティルだ。北アメリカの方の物で両側に磨かれた黒曜石を取り付けて刃とするのが特徴で、本来なら刃が鋭く欠けやすい剣だ。そんな日の目を浴びないような形の物まであるのか、剣という物は。
おっと、剣の観察をしている場合じゃなかった。
今の所、
カッ カカカッ カシン!
「うっ……」
「……」
初めて剣を使っている七ヶ橋が優勢だった。
まあ元いじめられっ子とそれを助けた人物なら、剣を持った所で力の差は変わらないだろう。
その上飯田は一本に対して七ヶ橋は二刀流。使えるかどうかがあったが、七ヶ橋はあっさりと使っている。
「こ……これじゃ、ダメなんだ僕は……普通の…」
飯田は呻くように何か言うと剣を構え直し、
「だから……その剣を、持っていかなくちゃいけないんだ!」
刃の腹を向けてバットを振るうように、振るった。
対した七ヶ橋は、避ける事無く剣を横に構えて守りの構え。右で守り、左で切りかかるつもりか。
カキン!
予想通りに飯田の剣が防がれる。
しかし、
ブォン!
「っ……」
「な!?」
次の瞬間、七ヶ橋が飛ばされた。
特に強い力を加えられた訳では無いのだが、まるで急に横から突き飛ばされたように七ヶ橋が左側に吹き飛んだ。
ガサガサガサ ガシャン!!
吹き飛ばされた方向は木々が生い茂り、その先はフェンスだ。今の音はフェンスにぶつかった音だろう。それを考えたら右側の体育館の壁よりは良かったのかもしれない。
て、それどころじゃない!
「七ヶ橋!」
吹き飛んだ方向に声をかけてみるが、返事は無い。木々によって姿も見えない。
「ふぅ……なんとかなりましたね」
飯田は剣の先を地面について、額の汗を手で拭っている。
「お前……何て事を」
剣とは本来、切っても人を傷つけない物なのだが。今のは明らかに怪我をする一撃だ。
今のが恐らくあの剣の能力だと、考えが浮かぶ中。目に移ったのは足下にあった木の枝。
先程七ヶ橋が飛ばされた事により折れた木の枝で、長さが少し心許ないが今は贅沢言っている場合では無い。
このままでは剣を狩られてしまう。せっかく解けたばかりの剣を、手に入れたばかりの夢の第一歩を奪われてしまう。
そんな事……させる訳が無いだろ!
俺は枝を拾い上げ、七々橋を吹き飛ばした方向を見ていた飯田に向けて構える。
「おや?」
その異変に気付いた飯田がこちらを向いた。
「それは何の真似ですか? まさか敵討ちでもしようと考えてるんですか?」
「当たり前だろ……」
「止めといた方が良いですよ、そんな木の枝じゃ剣には勝てません」
「そんなの、やってみなくちゃ分からねぇだろ!」
明らかな挑発だと分かっていても、俺は前へと飛び出す。
「やれやれ……」
仕方ないと首を横に振った飯田は、先ほど同様剣を振るった。
ブォン!
真っ直ぐに突っ込んでいた俺はその只の一振りを受け、途端七ヶ橋の二の舞になり後ろへと吹き飛ばされた。
ガッ!!
「痛っ……!」
運が良いのか、はたまた悪いのか、吹き飛ばされた俺は『森の柱』にぶつかり吹き飛ばされる事はなかった。だが背中を強打し息が詰まった。
「分かったでしょう、これが剣の力です、木の枝では勝てませんよ」
「へ、先輩には……敬意を表するもんだぞ……」
「……そんな事知りません。僕はその先輩にいじめられたから、こうして剣で復讐をしているんですから」
そういえば、そうだった。
「さて、後は剣を回収すれば恩返しも完了ですね」
飯田が剣を肩にかけ、七ヶ橋が吹き飛ばされた方向へと歩き始めた。
「ま、待て……」
立ち上がる力が無く、手を伸ばして声を出す。
「悔しかったら、先輩も剣を使ったら良いんですよ、最も、持っていたら、ですけどね」
「く……」
剣なんて、持っていない。
そして……動けない。
このまま七ヶ橋の剣が狩られるのを、黙って見ていろって言うのか……
そんなのって……
その時だった。
ズササ!
「な……!?」
カキン!!
木々の中から現れた白い何かを、飯田は剣で防いだ。
「アレは……」
その白い何かは……刃。それも、つい先日も見たような。
「やっぱりここの生徒だったか」
木々の間から見覚えがある人が現れた。黒い服に身を包んだ、双剣の持ち主。七ヶ橋の傘を狙っていた剣狩りの男だ。
「お? お前どうした?」
男は倒れている俺に気づいて特に心配している風には見えず聞いてきた。
「な、何しに……来た」
「簡単に言や、剣狩り」
「まだ……諦めてなかったのか」
「大丈夫だ、あの子なら向こうで倒れてるだけで、怪我はしてねぇ」
「え……」
どういうことだ? 七々橋の剣を狙って来たんじゃないのか?
「安心しな、今日俺が狩りに来た剣は……アッチだ」
男は右手に持つ剣で飯田を、飯田の持つ剣を指し示した。
「アイツの、あの剣だ」
「な、なぜ……」
「さぁな、こっちのが狩りやすそうだからだろ」
「……あなたは、あの時の」
「そういやあん時は名前も言ってなかったな、俺の名前は原良だ。お前の名前はなんてんだ?」
「……飯田瀬戸。どうやって学校に入ったんですか?」
「ガシャンって音が聞こえたから、行ってみたらあの子が倒れててな。そこに空いてたフェンスの穴を通って入ったんだ」
「……大人が学生どうしの喧嘩に入るのは、どうかと思いますよ?」
「コレの何処が喧嘩だよ。それに俺はな…」
原良と名乗った男は、両手に持つ剣を飯田に向けて構えた。
「ここを2年前に卒業したばかりの、まだ未成年だ。OBは敬えよ」
「そ、そんなの知りません。僕は先輩にいじめられたからこうして剣を…」
「だからあんな事をしてたのかよ、良いか? 先輩ってのは増えないんだ。でも後輩は学校がある限り増え続ける、年上より年下の方が増えるのは当たり前だ。目上は敬まうもんなんだぞ」
「う……うるさい!」
飯田も原良に向けて剣を構えた臨戦態勢を取った。
「言っても無駄か。なら体に直接教えて、剣を狩るだけだ」
再び剣の持ち主が対峙する『剣の舞』が始まる……
「行きます!」
先手を取るべく、飯田が飛び出した。
その時、風が飛んできた。
「!?」
飯田は足を止め、剣を縦に風の飛んでくる方向に盾として置くと、
ガキキキキキキキキン!!
まるで細かい刃でも当たるように風の当たった剣が音を立てた。
やがて風が止み、風の吹いた方向を見ると。
「……」
見た限りは怪我の一つ無い、七ヶ橋が立っていた。
「もう平気なのか?」
「……」
原良の質問に、七ヶ橋こくりと頷いた。
「じゃあ、コイツを倒すの手伝ってくれ」
「……」
再び頷き、白と黒、両方の剣を胸の前で交差させ、振るった。
次の瞬間、
「!?」
ガキキキキキキキン!!
再び風が吹き溢れ、飯田の剣に当たり細かい音を鳴らした。さっきの風も七ヶ橋の仕業だったのか。
「さ、さすがに二対一では……ここは、退かせて頂きます!」
飯田は剣を肩にかけ、走り去ってしまった。
「やっぱり弱虫か……じゃあ、俺も帰るとするよ」
原良は剣を知恵の輪に戻すと七ヶ橋の方を向き、
「アレの次はそれだ……覚悟しとけよ」
それだけ言って、その場から去って行った。
「痛っ……」
一応、危機は去ったらしい。そう考えた瞬間に背中を打ち付けた痛みが蘇ってきた。
「……大丈夫?」
少し苦戦しながらも、剣を傘の形に戻した七ヶ橋が俺の元へ歩み寄って来た。
「一応な、背中は痛むけど対した事ない」
「……良かった」
「そっちこそ大丈夫か? フェンスにぶつかったんだろ?」
「ん……平気」
「そうか、じゃあ、すぐにここから動くぞ」
「ん……」
今の騒動を聞いて誰か来るかもしれない。鞄を拾い、俺達はすばやく体育館裏を後にした。




