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文武平等  作者: 風紙文
第一章
11/281

会わせたい人

パァン!


乾いた竹で叩かれる音が響いた。

「そこまで!」





ここは家の道場。あの後、七ヶ橋と別れて寮に戻らずこちらに来ていた。

家での手伝いというのは、道場へ剣道を学びに来ている人達と共に剣道をやる事。共にやっているのは小学生や中学生がほとんどで、大人はもう少し遅い時間に始めるのだがその頃には俺が寮に帰るように言われる。相手が年下なこともあり、年季も含め実力は俺の方が上だ、だからといって手を抜くと怒られるので本気でやっている。

今は稽古も終わり、皆片付けをしている。

「お疲れだな、創矢」

「おぅ、お疲れ」

そこに一人の男子が話しかけてきた。

彼の名前は高橋。共に稽古をしている人達の中で唯一の高校生だ。高橋はここの最寄り駅から電車で一駅隣にある高校に通っていて、ここには週2くらいで来ている。

俺と同じく昔から武道に取り組んでたらしく、かなり強い。今日も先程最後に一戦し、一本を食らってしまった。

「いやぁ、高橋は強いな」

「何を言っている、俺が剣道を始めたのは十年前だ。更に昔から行っている創矢の方が強いに決まっているだろう」

「ははは、ありがとな」

「しかしどうかしたのか? あんな一撃を許すとは、普段ならあり得ない事だろう」

確かにというのもなんだが、普段ならあんないい音を立てる一本はそうくらわない。

「ああ……悪い、ちょっと考え事しててな」

「考え事? 何だ?」

「あ……いや、気にするな」


『……明日、創矢に会わせたい人がいる』


この言葉が頭の中をぐるぐると回っていた。

一体、誰だろうか……

「創矢? 一体どうしたんだ? 悩みなら聞くぞ?」

「いや、大丈夫さ」

「そうか。では、俺は帰るとする」

「おぅ、じゃあな」





時刻は18時34分。俺は寮へと向かっていた。

家から寮までの間には河川敷と学校、そして今通っている商店街を進む必要がある。ここはこの辺りに住む人の買い物スポットで、今の時間は賑やかだ。

少し歩くと、本屋が見えてきた。この本屋は俺もよく来る場所の一つだ。他に本屋が近くには無いのも理由ではあるが、ここには本以外にキャストパズルも扱っているからだ。

「そういや……新作が出たとか聞いた気がするな」

寄ってみる事にした。

因みに、鞄の中にはまだ解けていないキャストパズルが五個も入っている。

棚の前につくと、NEWと書かれた物が2つ並んでいた。

「2つも出たのか……」

俺は財布を確認した……結果、どちらか一つしか買えない事が分かった。

「どちらか……か」

こういった場合、俺はパズルの見た目で判断するようにしている。

一つは溝のついた大きな輪に小さな輪がつき、恐らく溝に小さな輪を通して外すタイプの物だろう。

もう一つは銅のような色をした多角形の物。ただそれだけで鎖や溝等は見当たらず、解き方がいまいち分からない物だ。

「……」

しばし長考。まだ解けてない自らの鞄の中の物を解けよ、と言うセルフツッコミは聞かない。

「……よし」

考えた結果、多角形の方を買う事にした。こちらの方が、謎を解くのに苦労しそうだからだ。

レジへと持っていき、会計を済ます。

そして本屋を出て、再び帰路へとついた。





次の日、今はもう放課後だ。

俺は今、七ヶ橋に連れられて会わせたい人の所へと向かっていた。

「なぁ七ヶ橋」

「……三夜子」

どうしてそこまで名前呼びを強要するのか。ただ、これからも関わるなら慣れておかないといけないかもな。

「なぁ三夜子、そろそろ教えてくれてもいいんじゃないか? 一体俺を誰に会わせようとしてるんだよ」

「……来れば分かる」

今の七ヶ橋は左肩に鞄をかけ、右手に傘を持ち、

カッ カッ カッ カッ

床を叩きながら歩いていた。

来れば分かる、ね……

そしてたどり着いた場所は、まさかの職員室だった。

周りを見ると他にも生徒はいる。授業やら部活やらで先生や顧問に用がある生徒達だろう。

七ヶ橋は職員室に入るなり、目的を目指して真っ直ぐに進んでいった。

あ、さすがに職員室では傘はつかないな、持って入るのは変わりないが。

俺はその後に続く。一人の先生の机の前につき、そこで俺は気付いた。

「あれ? 大和先生?」

そこは俺達のクラス、2年C組の担任である大和先生の机だったのだ。

「おぅ、武川に三夜子か、2人揃ってどうしたんだ」

大和先生が気さくに話しかけてきた。

その時、

カツン

七ヶ橋が傘で、床を叩いた。

俺にははっきりと聞こえて、その行動も見えた。恐らく大和先生にも。

だが周りの先生方には聞こえていないのか。こちらを見る人はいなかった。

「……」

七ヶ橋は大和先生に何も言わず、ただ見続けた。

「へぇ、そうなのか……分かったよ」

大和先生はそれだけで理解したらしく、

「2人共先に正門に出ててくれ、俺も後から行く」

ただ、それだけ告げた。





学校の正門。今の時間だと帰宅部が出た後で、人気は少ない。そこで俺と七ヶ橋は大和先生を待っていた。

「……なぁ、会わせたかった人ってもしかして…」

七ヶ橋はこくりと頷き。

「……大和先生」

やっぱりか。

「何でまた」

「……直ぐに分かる」

その時、

「おっす、待たせたな」

大和先生が現れた。

「あれ? その格好は」

大和先生はワイシャツとズボンという夏向きの格好で、今から帰るような姿だ。

「先生って、もう少し遅くまで学校にいるものじゃないんですか?」

「そんなの部活の顧問か、仕事が残ってる人だけさ。俺はどっちでもないからな、こうして帰れる訳さ」

「はぁ……」

「そんじゃま、行くか」

大和先生が歩き出した。

その瞬間、

ガッ!

「ぐぇ……」

七ヶ橋が傘の柄の部分、丁度フック状になっている部分を大和先生の首に引っ掛けて歩みを止めさせた。

「な! おい七ヶ橋! お前一体何がしたいんだよ!?」

「……三夜子」

七ヶ橋は呼び方を訂正しながら傘の柄を大和先生の首から外して、手に持った。

「うぇ……まぁ落ち着け武川、今のは俺が悪いんだから」

「はい?」

今のはどう見たって七ヶ橋が百パーセント悪い気がするのだが。

「しっかし、もう少し優しく止めてくれよ、三夜子」

「……やだ」

そういえば、大和先生は七ヶ橋の事を、三夜子と下の名前で呼んでいる。てっきり親しみを込めてのことかと思ったが、先生は他のクラスメイトで名前呼びの生徒はいない。

「えっと、三夜子がいつも世話になってるな。武川、俺の名前は分かるよな?」

「大和……先生」

「そうだ、大和だ。名前はな、因みに名字は、七ヶ橋だ」

「な……」

苗字が七々橋? ということは、

「本名は、七ヶ橋大和だ」

「なな……」

驚きを隠せぬまま、七ヶ橋の方を向くと、

「……兄さん」

更に驚きを追加され、

「なぁぁぁぁ!?」

正門に俺の声が響いた。

「ちなみに今聞いた事は内緒な、バレたら俺、学校に入られなくなるから」

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