珀露の決意
「黄に染まりし我が半身、その身戻したくば、外に放つがいい」
横に振られた白塗の剣から雷が走った。
さっきまでは守っていたが、今は違う。切っ先を差し込むように剣で雷を突くと雷は剣に吸い込まれて消え、刃が黄色に染まった。
それを見た三夜子が前に飛び出し、剣を交差させる。
「……かまいたち」
剣を一気に振るう、鋭い風が飛ぶのと同時に俺は柄を押し込み、雷を放った。雷の一線と鋭い風が同時に白塗に迫る。
白塗は回避行動を取るが、風が腕と足にかすった。水は炎で消されてしまったが、やはりああいう混ぜられたのには防御方法が無いみたいだ。
しかし、これだけを見たら剣の舞って呼べないな。互いに刃の届かない位置にいるし、雷とか風とか飛ばしている。
「でもま、タイミングは良かったのかもしれないね」
白塗が語り出した。
「特にキミ、オレの板がなかったら勝負にもならなかったよね?」
確かに、珀露のあの行動がなければ今の状況にもならず負けていただろう。
「この体、ついた時からおかしいとは思ってたけど、まさかあそこまで動かされるとは思わなかったよ。おかげで、久しぶりに剣の舞が出来てる訳だし」
白塗は少しずつ歩を進め、少し進んだところで剣の切っ先を向けた。
「でも、多分どちらも後一太刀くらいだから。あの時みたいにいかない?」
あの時……そう、場所は社。状態は二対一で互いに剣、違うのは頭に紙風船が無くて、手に持つのがおもちゃの剣ではなく剣だということ。
昨日のチャンバラとほとんど似た状況になっている。そこで白塗が、あの時みたいに、ということは……
「……創矢?」
提案に乗るかどうかを確かめるよう、三夜子は俺を見る。
「……」
提案に乗るかどうか……いや、それ以前の問題か。
「勝つぞ、三夜子」
「……うん」
俺達は剣を構えた。
「……相手が、キミ達で良かったよ」
白塗が何か呟いたような気がしたが、社に吹いた強風で聞き取れなかった。
自然の風が社を吹き抜け、更に昨日と似た状況になり、
そして風が―――
―――止んだ。
瞬間、俺達は動き出した。
どこまでもあの時と同じように、俺は体勢を低く、三夜子は飛ぶように上から白塗へと迫る。
白塗の狙いもあの時と同じで、まずは俺らしい。
剣が降り下ろされる、狙いは頭だ。あの時は遊びだったがその考えではマズイ。相手を見つつ、首を動かして避ける。
白塗の剣は早く、肩を刃が斬りつけた。だがそれだけで、俺は倒れない。
肩に刃を当てたまま、白塗の頭を狙う……必要は無い。あの時もそうだった、俺は狙いを集中させるオトリ役で、三夜子が紙風船を狙う役だった。
今回も白塗は俺を狙い、しかし負かし損ねた。
ここからはあの時とは違う、今の勝敗が決する時だ。
ズバッ!
まず三夜子の剣が白塗の両肩を斬りつけた。さすがに頭は遠慮したんだろう。
ドスッ!!
そして俺の剣が白塗の腹を貫いた。もちろんこれらの攻撃で血を流すことはないが、
「…………あーあ」
俺が剣を抜いた瞬間、白塗は剣を落として、仰向けに倒れた。
……社に沈黙が流れ、俺と三夜子は互いを見合った。
「勝った……のか?」
倒れている白塗を見る。白塗はぴくりとも動かず、ひょっとしたら珀露の中に戻ったのかもしれない。
だとしたら……
「……やった、ね」
「あぁ……俺達の勝ちだ」
……side 珀露
『どうやら勝ったみたいだぞ』
そ、そうなの?
『その証拠に』
「……やぁ、こうして揃うのは久しぶりだね」
『アイツがここにいる』
本当だ。もう一人の稲影珀露が僕の目の前に現れた。
え? ちょっと待って、ここに僕が全部揃ってたら、体はどうなってるの?
「倒れたままにしてきたけど」
えぇ!? それは色々まずいんじゃ……
「大丈夫だよ、今はまだ剣の舞で倒れたように見えてるから。長く続くと心配されるだろうけどね」
じゃ、じゃあ早く戻らないと。
「待って、その前に言っておきたいことがあるんだ」
言っておきたいこと?
『なんだ?』
「キミ達、剣が無くなればオレがいなくなると思ってるだろうけど……それ、ムリだから」
え……?
『どういうことだ、お前はあの剣の中身じゃないのか?』
「そうだよ、でもキミ達のせいで戻れなくなったんだ。原因はオレじゃない、キミ達の体質だ」
『つまり、この状況は変わらないということか』
そ、そんな……
「大丈夫だよ」
『何が大丈夫なんだ、お前は戻れないんだろ』
「でも剣はあの人達が持っていく、戻れないオレじゃ何も出来ないし、なら、ここに留まるだけだよ」
『っ……お前、ふざけた事言ってるんじゃ…』
珀露、いいよ。
『珀露? だがコイツ…』
珀露は……
「区別が大変だから、白塗って呼びなよ」
……白塗は、ずっとあの中にいたんだよね?
「まぁね、年月を数える気はないけど、造られたからずっとだよ」
なら、これからは人として僕の中にいるといいよ。
『お、おい、珀露?』
「いいの? オレは急に何するかしらないよ?」
大丈夫、それは今までもそうだったら、対して差はないよ。
「……ふぅん」
けど、僕達の声を聞いて、やめてほしいことはやめてもらいたいけどね。
「初めて会ったよ。キミみたいな人」
え?
「すでに人格がもう一つあったり、オレを受け入れたり、今まで入った誰よりも優しさがある。ここに出れなくなって、良かったかもしれないね……これから、よろしくね。珀露」
……うん、よろしく白塗……いいや、もう一人の稲影珀露。
「でも、オレはオレのやりたい通りにするけど」
あ、あはは……
『心配するな珀露、本当にマズイときはさっきみたいに俺が体を止める』
うん、ありがとう、珀露。
さっきまでの戦いを見ていて、分かったことがある。
白塗も言っていたけど、今まで彼はずっと誰かに乗り移って戦っていて。それを受け入れてくれた人というのはいなかったみたいで。
白塗はきっと、さびしかったんだと思う。
だから勝手に僕の身体を使って、チャンバラの時に出てきてはその力を使っていた。そもそも気付くべきだったんだ、白塗が出てくるのがチャンバラの時が多かったことに。ただ一緒に遊びたかったのかもしれないことに。
それにどういう訳か、白塗は僕の中から出られなくなってしまったらしい。でもすでに僕は二重人格だ、だったらもう一人増えるぐらいどうってことはないさ。
だから僕は、新たな稲影珀露を受け入れることを決めたのだ。
稲影珀露。彼らは一年後高校生となり、三重人格となった自分よりも更に変わった人物との出会いを果たすのであった……
すでにお気づきの方もいるかもしれませんが、彼らは自分の別作品の主人公です。年代的には丁度一年前、彼らがまだ中学三年生で、高校受験を控えていた時ですね。
高校一年生となった珀露の物語は『ヒトリナナイロ七変化』として置いてありますので、よろしかったら、ご拝読を。




