22-増える保護者たち
穏やかで和やかな空気が流れる中――。
「世界を知りたい、とは言っていたが……具体的に何か考えていることはあるのか?」
レオンハルト様にそう尋ねられ、私はルミナリア様から“学園”へ通うことを勧められた話を打ち明けた。
「ルミナリア様が、そのようなことを……。確かに悪くはない案だが、その容姿では目立つぞ……?」
国王陛下が少し難しい顔をする。
「あ、それなら大丈夫です。髪や目の色を変えることもできますので」
そう言って、実際に茶色の髪と瞳へ姿を変えてみせる。
途端に、その場の空気が静まり返った。
皆、驚いたようにこちらを見つめている。
「……まぁ、確かにこれなら神秘性は薄れる。色も比較的ありふれているな」
国王陛下はそう言いながらも、なぜか眉間に皺を寄せたままだった。
「だが……そもそも、自分自身の容姿について分かっていないのだろうな……」
「?」
何やら小声で呟いているが、意味が分からず首を傾げる。
「おい、レオン。お前の娘も、今年から学園へ入れる予定だったな?」
「ああ。まぁ、俺と違って妻に似たからな。整った顔はしてると思うぞ」
「失礼な言い方だな……」
呆れたように返しながらも、レオンハルト様は否定しなかった。
すると国王陛下は深々とため息を吐く。
「その娘とリン様が並んで登校してみろ。学園内外問わず、確実に面倒な輩に目を付けられるぞ」
「あー……」
レオンハルト様が頭を仰ぎながら考え込む。
確かに、リーゼはとても可愛らしい。
きっと放っておいても注目を集めるだろう。
「えっと……リーゼなら、私が傍で多少は守れるかな、と……」
そう言うと、今度は王妃様がじっとこちらを見つめた。
「……リン様は、誰に守られるのですか?」
「え? 私ですか? ……精霊獣、とかでしょうか?」
そう言って、あの狼の精霊獣を呼び出してみせる。
姿を現した精霊獣に、その場の空気が一瞬張り詰めた。
けれど王妃様は冷静なまま問いかける。
「……その精霊獣は、人を傷付けることはできないのでしょう?」
「はい」
「では、複数人に狙われた場合、リン様を守り切れるのですか?」
「…………」
そう言われると、答えに詰まってしまう。
まだ生み出したばかりで、どこまで出来るのか私自身も分かっていない。
そもそも、私まで狙われることなんてあるのだろうか?
恩猫様の姿ではないし、今の見た目だって特別珍しいわけではないはずなのに……。
「……自覚がありませんのね……困りましたわ」
王妃様が小さく頭を抱える。
……そんなに問題があるのだろうか?
一人だけ状況が理解できず戸惑っていると、不意に国王陛下が「ああ」と声を上げた。
「ならば、我が子供達に学園生活の補佐を任せるとしよう」
「それは良い案ですわね。そうすれば学園内で不用意な虫も寄り付きませんもの」
王妃様も即座に賛同する。
「……おい。お前ら、そうやってリン様を囲い込もうとしてるんじゃないだろうな?」
レオンハルト様が半眼で睨む。
「まさか。純粋に守ろうとしているだけだ」
国王陛下はそう言ってから、ニヤリと口元を歪めた。
「……まぁ、うちの息子と仲良くなってくれても構わんがな」
「お前な……貴族の勢力図がひっくり返るだろうが」
「冗談だ、冗談」
全然冗談に聞こえない。
そんなやり取りを交わしながら、話はどんどん進んでいく。
……一体、どういう話になっているんだろう。
状況についていけず、内心で慌てていると、ひとりの使用人が国王陛下へ歩み寄り、耳打ちをした。
「……ほう。偶然にしては出来すぎているな」
国王陛下が喉の奥で愉快そうに笑う。
「よかろう。通せ」
戻っていく使用人を見送りながら、国王陛下は意味深にこちらを見た。
「……リン様よ。どうやら我が子供達が、あなたに会いに来たらしい」
「え?」
思わず間の抜けた声が漏れる。
次の瞬間――。
「父上。急な訪問にも関わらず、お許しいただき感謝いたします」
聞こえてきた声に振り返る。
そこには、国王陛下と王妃様によく似た面立ちの男女が立っていた。




