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盾にされた私、異世界ではただの猫です  作者: 蛇目菊 欲狐
第2章
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5-フルーツ飴と優しい時間

「なるほどなぁ……果物に飴を被せるのか……」


「はい。ただ、しっかり水気を拭き取らないと、飴がうまく固まらないんです」


「ほぉ……じゃあ果汁の多いもんは工夫が要るってわけか」


果物屋の店主が感心したように何度も頷く。


この世界には、クッキーやカップケーキ、クレープのようなお菓子は存在していた。


けれど、果物は基本的に“そのまま食べるもの”。


お菓子に使われることは少なく、添えられている程度だった。


どうやら、“果物を加工する”という発想自体が、あまり根付いていないらしい。


「作り方もそこまで難しくねぇし、こりゃ売れるかもしれねぇなぁ」


「飴なら子どもも好きだしな!」


店主は嬉しそうに笑い、勢いよく私の手を握った。


「ありがとな、お嬢ちゃん!」


「い、いえ……お役に立てたなら良かったです」


少し戸惑いながらも答える。


私はただ、知っていたものを話しただけだ。


うまくいくかどうかは、まだ分からない。


「また来てくれよな!」


元気な声に見送られながら、私たちは店を後にした。


◇◇◇


王都の屋敷へ戻り、一息つく。


……国王陛下との謁見。


明日は、そのための作法や礼儀も教わる予定になっている。


けれど、不安は消えなかった。


失敗したらどうしよう。


迷惑をかけたら。


“無能”だと、見放されたら――


「……違う」


小さく呟き、頭を振る。


あの人たちは、そんなことをする人じゃない。


分かっている。


分かっているのに、不安だけが胸に残っていた。


考え込んでいると、不意に扉が叩かれる。


夕食にはまだ早い。


不思議に思いながら返事をした。


「はい、どうぞ」


入ってきたのは、エルリックさんだった。


「エルリックさん?どうかしましたか?」


その手には皿が乗っている。


近付いてきて、ようやく中身が見えた。


「……フルーツ飴?」


「買った果物、料理長に頼んで作ってもらった」


淡々とした口調で答える。


「……え?」


「ずっと身体が強張ってた」


「街を歩いてる時も、少し上の空だった」


静かな声。


けれど、ちゃんと私を見ていてくれたのだと分かる。


「フルーツ飴の話をしてる時だけ、少し緊張が解けてた」


そう言って、一本差し出してくれる。


……気付かれていたんだ。


王都へ来てから、ずっと張り詰めていたこと。


エルリックさんは、それを察して街へ連れ出してくれていた。


そして今も、こうして気を遣ってくれている。


胸の奥が、じんわり温かくなる。


「……ありがとうございます」


「一本、いただきます」


そう言って受け取り、口に運ぶ。


ぱりっと飴が割れ、果物の甘酸っぱさが広がった。


その味が、前の世界で食べた記憶を思い出させる。


懐かしい。


そう感じながら、私は小さく目を細めた。


その後は、二人で静かにフルーツ飴を食べ進めた。


不思議と、その時間は心地良かった。


――後に。


フルーツ飴は王都で爆発的な人気を博し、“果物を加工して食べる文化”を広めるきっかけとなる。


もっとも。


その発端が、自分だったと志乃鈴が知るのは、もう少し後の話である。

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