5-フルーツ飴と優しい時間
「なるほどなぁ……果物に飴を被せるのか……」
「はい。ただ、しっかり水気を拭き取らないと、飴がうまく固まらないんです」
「ほぉ……じゃあ果汁の多いもんは工夫が要るってわけか」
果物屋の店主が感心したように何度も頷く。
この世界には、クッキーやカップケーキ、クレープのようなお菓子は存在していた。
けれど、果物は基本的に“そのまま食べるもの”。
お菓子に使われることは少なく、添えられている程度だった。
どうやら、“果物を加工する”という発想自体が、あまり根付いていないらしい。
「作り方もそこまで難しくねぇし、こりゃ売れるかもしれねぇなぁ」
「飴なら子どもも好きだしな!」
店主は嬉しそうに笑い、勢いよく私の手を握った。
「ありがとな、お嬢ちゃん!」
「い、いえ……お役に立てたなら良かったです」
少し戸惑いながらも答える。
私はただ、知っていたものを話しただけだ。
うまくいくかどうかは、まだ分からない。
「また来てくれよな!」
元気な声に見送られながら、私たちは店を後にした。
◇◇◇
王都の屋敷へ戻り、一息つく。
……国王陛下との謁見。
明日は、そのための作法や礼儀も教わる予定になっている。
けれど、不安は消えなかった。
失敗したらどうしよう。
迷惑をかけたら。
“無能”だと、見放されたら――
「……違う」
小さく呟き、頭を振る。
あの人たちは、そんなことをする人じゃない。
分かっている。
分かっているのに、不安だけが胸に残っていた。
考え込んでいると、不意に扉が叩かれる。
夕食にはまだ早い。
不思議に思いながら返事をした。
「はい、どうぞ」
入ってきたのは、エルリックさんだった。
「エルリックさん?どうかしましたか?」
その手には皿が乗っている。
近付いてきて、ようやく中身が見えた。
「……フルーツ飴?」
「買った果物、料理長に頼んで作ってもらった」
淡々とした口調で答える。
「……え?」
「ずっと身体が強張ってた」
「街を歩いてる時も、少し上の空だった」
静かな声。
けれど、ちゃんと私を見ていてくれたのだと分かる。
「フルーツ飴の話をしてる時だけ、少し緊張が解けてた」
そう言って、一本差し出してくれる。
……気付かれていたんだ。
王都へ来てから、ずっと張り詰めていたこと。
エルリックさんは、それを察して街へ連れ出してくれていた。
そして今も、こうして気を遣ってくれている。
胸の奥が、じんわり温かくなる。
「……ありがとうございます」
「一本、いただきます」
そう言って受け取り、口に運ぶ。
ぱりっと飴が割れ、果物の甘酸っぱさが広がった。
その味が、前の世界で食べた記憶を思い出させる。
懐かしい。
そう感じながら、私は小さく目を細めた。
その後は、二人で静かにフルーツ飴を食べ進めた。
不思議と、その時間は心地良かった。
――後に。
フルーツ飴は王都で爆発的な人気を博し、“果物を加工して食べる文化”を広めるきっかけとなる。
もっとも。
その発端が、自分だったと志乃鈴が知るのは、もう少し後の話である。




