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パンデミック

 



 ストケシアから、アスター王国に帰国した二年生になる私は、さっそく魔法薬の調合をはじめ、許可がおりたと連絡が来てからすぐに魔法薬を送った。


 ありがたいことに、もう予約が殺到しているようだった。さすがのカールトン商会。としか言いようがなかった。





 そんな順調だった私は、ある見落としをしていた事に、最悪のタイミングで気づいた。



 桁違いの優れた治癒魔法使い、リリー・レジェノが聖女だと呼ばれるようになったあの大きな事件。



 ――王都に新種の病が大流行した。



 前世でもあったそれは、今世だってあってもおかしくはない訳で。忙しくしていたせいですっかり忘れていた。


 それに気づいたのは、もう感染者が出ていて騒ぎになりだしてからだ。



 特効薬のレシピは頭の中にあるが、今から材料を集めて大量につくり、前世で作り出した時期に間に合うのか。前世で使用した、大量にストックしてあった材料を使いきってしまったばかりだし、感染する病が蔓延すると、輸入や輸出が、一時的にストップする。


 その前になんとか集めるだけ集めないと。


 リリー・レジェノがいるといっても、彼女が行うのは大規模治癒魔法 で、それを王都中を回って大量に魔力を消費して行うのだ。命懸けである。


 それだけやっても、感染者がゼロになる事はなく、私の特効薬が役立ったんだ。




 とりあえず、まだ学園は普通に通っているため、学園でフォーレンに協力して貰えるように頼んでみようと思う。









 ☆







 リリー・レジェノによる、一回目の大規模治癒魔法が行われた。


 その威力は消費魔力に相応しく、効果は絶大だった。


 だけど、魔力が枯渇するほど消費すると恐ろしく辛いのだ。リリーは今それに耐えながら努力しているだろう。


 前世と違わず、ダレン第二王子も感染して、重症だった。

 この事がきっかけで、リリー・レジェノは大規模治癒魔法を決意したのだ。死の覚悟をして。そしてかなりの感染者を治癒し終えた頃にダレンの意識が戻り、リリーの話を聞いたダレンは更に深く聖女リリーを愛してしまうのだ。



 私が、特効薬を作れるかもしれないとフォーレンにいうと、もう!? と驚いていたが、深くは聞かず、材料の調達に尽力してくれた。


 王国中と、ギリギリ規制のかかってなかった魔法国家から集めるだけ集めてくれた。その量は、前世の二倍ほどある。


 リリーとは文化祭の時からそこそこ喋るようになっていたし、前世の殺人未遂の罪悪感から、何か返したいと思い、多少無理をしてでも早く大量に作りたかった。


 前世よりスタートは遅れたが、レシピの研究の時間を省けるので、なんとかなると思ったのだ。




 しかも。




 前世の記憶がある事を知っていて、今ではもう普通に信じてくれているエリアスが――なんで俺になんも言わないの――といい協力してくれることになったのだ。



 魔法薬学とは、知識と魔力がものを言う。なので、魔力を流すだけならば、エリアスは百人力だった。


 法的にはまあアウトなのだが、そんなことを言っている場合ではない。 言わなければバレないし、死者が出るよりは、ましだろう。





「前世では死者はいたの」

「それが、奇跡的にでなかったんです。だから今回も出す訳にはいかない」


 エリアスと共に必死に特効薬を作っていた私は、そう自分に言い聞かせながら言った。



「こうして、がんばってるあんたに言うのもなんだけど、記憶があるからってここまであんたがやる必要あるの。これは本来国の仕事でしょ。あんたは資格を持っていると言っても学生だし。レシピを渡して国の連中にやらせればいいんじゃないの」

「それは、もっともなんですが、私は自分で研究したので別ですが、すぐに理解して調合できる魔法薬師っていうのは、本当に少ないんです。時間が残されていないので、仕方ないんです」

「この特効薬の材料費だって、あんたのお金でしょ」

「ああ、それはいいんです。カールトン商会での売上が凄くいいらしくて、思った以上の収入だったので、私は持っていても使いませんし。どこかに寄付しようとおもっていたので」

「本当にそういう事に関して欲がないね」

「……他の事に関しては欲だらけですけどね」



 ロイの事とか。



 それをわかっているらしい、エリアスは、何も言わずに魔力を流し続けた。









 ☆







 聖女リリー・レジェノという声が大きくなってきていた、三回目の大規模治癒魔法。



 なんとかそれが終わった頃に、特効薬を全て作りきった。正直、こんなに早く終わるとは。前世でも五回にわたる大規模治癒魔法が終わってからだったから。


 どう考えても、エリアスのおかげに他ならなかった。やはりエリアスは天才で、魔力を流すのに量や濃さに慣れるまで少しこつがいるのだけど、説明しながらやってみせると、一発で成功させた。


 あの時は開いた口が塞がらなかった。



「俺って実は有能だったんだよ」



 と少し照れくさそうにいったエリアスだったが、有能とかいうそんな次元じゃないと思う。




 レオナルド殿下に協力してもらい、王国の感染者に特効薬を無償で配布してもらい、レシピも公開してもらった。


 特効薬の素早い配布により、五回だった筈の大規模治癒魔法が四回に減り、リリー・レジェノも少し早く負担から解放された。


 特効薬の余りにも早い開発に、私が、金儲けの為に病気を自分で流行らし、自分で特効薬を作ったんじゃないかと意見が出る事は予想していたが、私が無償で配布したのと、レシピを公開した事により、その話はいつの間にか消えていた。







 ☆







「あんた、いつにもまして疲れてるね」

「ええ、あの新種の流行病の特効薬のレシピの作成者は私ですから、その元となる研究の論文を書かなくてはいけなくて。合間に取材だったり、カールトン商会に卸す魔法薬の材料を採取しにいったりと、学園の休みは全て消えました」



 流行病が収束し、臨時の休みが続いていた学園だったが、行事は予定通り開催されるらしく、毎年恒例のパーティの時期がもうすぐ迫っているので、バタバタと休む暇がなかった。

 そうして、今現在もランチタイム返上で、生徒会室にて、軽食片手にペンを動かしている所だった。



 去年と同じく、エリアスと二人でせっせと招待状を制作していた。




「この招待状の制度、生徒分だけでも廃止にならないかな。来賓はともかく、各クラスで出席取ればいいのに」

「……確かに、それが無くなるだけでも大分と時間が節約出来ますよね。でも、招待状を貰う機会の少ないらしい平民の生徒に人気があるんですよね。生徒会長もそれがわかっているから申し訳なさそうにこの仕事を振ってくれるんです」

「……わかってるよ。レオは本当に人がいいのかなんなのか。まだ人気取りの為にやってる方が納得いくよね。素だからね素」



 そう、レオナルド殿下は、そういう人なのだ。だからこそ、それを現実に出来る能力も相まって、身分に関わらず、絶大な人気があるのだ。



「そうですね。でも人がいいというのは、エリアスさんもそうじゃないですか」

「……は? ……俺のどこが」

「特に私の事ですよ。エリアスさんに何の得もないのに、いつも快く助けてくれるじゃないですか。私に用意出来るものがないからか、なんの見返りも求めませんし」

「あのさ……。俺はレオみたいな、そんな高尚な人間じゃないから。どちらかと言うと自分の欲に素直なタイプだし、それに、あんたにも用意出来る見返りだってあるよ」



 エリアスのその言葉に驚いてしまう。いつも先回りしてなんでもやってくれて、お金すら受け取ることもないのだ。

 そんなエリアスに返せるものがあるのなら、是非とも教えて欲しい。



「ええ! あるんですか? なら、教えて下さい。一度もまともに何も返せてないんです」

「……そう言えば、一度返って来た事はあるね」

「私が、エリアスさんに? ありましたっけそんな事」

「あんたって、馬鹿じゃないのに馬鹿だよね。たまに本気で腹立つ時あるよ。さっきのがヒントだから自分で答え見つけたら聞かせてよ。そん時にそれを見返りとしてもらうから」



 馬鹿じゃないのに馬鹿ってなに。本気で腹立つって私、そんなに失礼な事したことあるかな。 むしろ失礼な事されている事の方が多い気がする。


 ……今考えても答えが出る気がしない。エリアスも急かしているわけではないし。

 こういう謎が多い時は、突然答えが浮かんだりするもんなんだ。と、信じよう。



「とにかくですよ、この前の特効薬の件も本当にありがとうございました」

「ん、それくらいならいつでも協力するよ」



 と、最後はやっぱり優しいエリアスだった。









 ☆






 今年もダンスパーティーは無事開催出来たのだった。むしろ、みんな新種の流行病に怯えて自宅に篭っていた為、大いに盛り上がった。


 その熱に当てられ火照った体を冷まそうと、会場を出て、学園内にある庭園に囲まれた噴水の方まで歩こうと思った。

 近づくにつれ、何か人の話し声のようなものが聞こえてきた。



 ――あ、もしかして。



 そう思い、こっそり声の聞こえた方を覗いてみると、やっぱりそこには、こっそり抜け出していたダレン第二王子と、聖女リリーが、キスをしている姿があった。



 ……前世でこれをみた私は、怒りと屈辱に震え聖女の暗殺を決意したのだ。


 今はもちろんそんな感情はこれっぽっちもない。むしろ早く婚約して、幸せになればいいんだ。



 ぼーっと二人を見ながらそんな事を考えていた私の耳元で、突然囁くようにルーシーと私を呼ぶ声がした。


 驚きすぎて身が縮みあがった。声をあげなかった事を褒めて欲しい。




「すごいリアクションだね、あんた。いつから人の逢い引きを盗み見する趣味があるの」

「誰でもあんなリアクションになりますよ。それに人聞きの悪いこと言わないでください」

「完全に覗いているように見えたんだけど」

「いえ、まあそうですけど、この場面は前世でも見たんです。エリアスさんなら言わなくてもこの先の言葉はわかると思いますが」

「まあ、俺がわからないで誰がわかるのって感じだよね」

「……はい。それで色々思い出しちゃって」

「じゃあ、俺達もする?」

「じゃあ? 俺達も?」

「前世と同じようにならなかった記念に、キス」



 この人は、こういう事を普通のテンションと普通の表情で言うのだ。



 酷くつっこみ辛い。


「エリアスさん」

「なに」

「最近欲求不満なんですか?」

「……なんで」

「いや、なんか言動とかあと、えっと、匂いとか」

「あんたって、本当にそういう所ばっか鋭いよね」



 欲求不満らしいエリアスは、心底呆れたというふうに私を見た。

 これは勝手に身についた特殊能力なので、文句を言われても困る。



「諸事情により、遊びを控えてるから」

「え? そうなんですか? なんだか気になりますね」

「いつかわかるかもしれないね。というか、レオやみんながあんたとダンス踊りたいって言ってるから探しにきたんだった。今年最後だしね、いこう」





 そういって手を引かれ会場に戻った私は、生徒会の人達と順番にダンスを踊り、最後までパーティを楽しんだのだった。




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