番外編 星より輝く二人
私がエリアスに告白し、そしてエリアスからプロポーズをされた日から少し経った、よく晴れたその日の夜。
エリアスから、今日は星が綺麗にみえるだろうから、見に行こうと誘われ、王都の森を抜けた先にある丘に、二人で星を見に来ていた。
「わあ。本当によく見えますねえ。綺麗」
「うん。なんか掴めそうだね」
「ほんとそうですよ! ていうかこんな場所あるなんて知らなかった。よく知ってましたね、エリアスさん」
「……まあちょっとね」
ちょっとってなんなの。と思わなくもないが、本当に掴めるんじゃないかというほど近く感じる星がたまらなく綺麗で、エリアスの言葉が気にならなかった。
王都の中心であってもそこそこ見えるが、レベルが違った。
「あ! 流れ星!」
「ほんとだ」
「ああ……願い事するの忘れてました……」
滅多に見られない流れ星に興奮して願い事をするのを忘れた私はしょんぼりとする。
「願い事ってなにするつもりだったの」
「え? あ、はい。エリアスさんとずっと一緒にいられますようにって。二人で幸せになれるようにと……」
エリアスにあまりに自然にそう聞かれたので、普通に答えてしまった。
……かなり恥ずかしいし、口に出せば叶わないかもしれないと聞いた事あるのに、何してるんだ私。
そんな事を思って一人で目を泳がせる私にエリアスが何も言わないので、隣に目をやる。
「……あのエリア――」
私の発言に驚いたのか、目を見開いて固まっているかと思えば、急に動きだし、私の唇を奪った。
「……んっ……」
外でするには少し濃厚過ぎるんじゃないかというキス。
「あんた俺に不意打ちすんのほんとに得意だよね」
「……エリアスさんは不意打ちでキスするのが得意ですね」
「してるんじゃなくて、させられてるの」
「はい? ……ていうか、エリアスさんが聞くから口に出しちゃったじゃないですか。叶わないかもって聞いた事あるんですよっ」
「じゃあ俺が流れ星よんであげるから願いなおせばいいよ」
「……え? まさか魔法ですか? そんな魔法あるのですか?」
「うん。来たらいうから目を瞑って。俺がいいよって言ったら目を開けて心の中でお願いして」
目を瞑る必要があるのかは謎だが、とりあえず大人しくしたがって上を向いて目を閉じる。
エリアスの合図があった瞬間に願い事しよう。
……正直愛する人とずっと一緒にいられなかった過去を持つ私だからこそ、真剣だった。
「いいよ」
その声が聞こえた瞬間、目を開きいた。
ずっとエリアスさんと一緒にいられますように…
ずっとエリアスさんと一緒にいられますように…
ずっとエリアスさんと一緒にいられますように…
そして、そう心の中で三回唱えた。
「……え?」
唱えるのに夢中で気がつくのに遅れたけど、私の視界に星ではない輝く何かが映っていた。
「なんてね。星を呼ぶ魔法なんてないよ。……だけどその願いは必ず叶うよ」
「あの、どういう」
どういうことですか、と聞こうとした私をエリアスは立たせた。
そしてそんな私の前にエリアスは跪く。
「俺はルーシーの全てがほしい。俺だけのルーシーになってほしい。生まれ変わってもそばにいて、ルーシーを守り幸せにする権利がほしい」
そういって私の左手をとった。
「改めて言わせてほしい。俺と結婚してください」
エリアスはそう言って、私の薬指にダイヤモンドが輝く指輪をはめてくれて、そのまま私の手にキスを落とした。
私はこの予想してなかった出来事に、驚きと感動で言葉が出ず、代わりに涙が出てきた。
「ありきたりかもしれないけど、これ以外に選択肢はなかった。ダイヤモンドの宝石言葉は、永遠の絆、変わりない愛。他にも沢山あるけど、どれも当てはまるよ」
その言葉にさらに深く感動して、涙が止まらなくなる。
目を開けて願い事をしていた私の瞳に映っていたのは、エリアスが用意してくれたダイヤモンドのエンゲージリングだったのだ。
「……ほん、とに嬉しいです……よろしくお願い、します……」
やっとの思いで出した声が酷く掠れていたけど、今は許してほしい。
そんな私に蕩けるような甘い瞳をむけたエリアスは立ち上がり、私を抱き上げた。
「覚悟してね」
「か、かくご……?」
「うん。俺に愛されまくる覚悟」
そんな言葉のあとに続いたそれは、甘く、そして深い愛情のこもったキスだった。
☆
「この度エリアスさんと婚約、結婚をさせて頂くことになりました、ルーシー・ハワードと申します。まだまだ不束なわたくしではありますが、これからはウィーラー家の皆様の一員として、よろしくお願い申し上げます」
そう丁寧に挨拶してくれたのは、弟のエリアスが連れてきた、婚約者である女性だ。
上位貴族の令嬢としては、珍しいほど着飾っていないが、高級感があり品性を感じるその淡い色のドレスを身にまとったその人は、驚くほど腰が低く、そしてとても綺麗な顔立ちをしていた。
兄である俺がいうのもなんだが、あの事件を引き起こす原因になった程、エリアスの容姿は怖いぐらいに整っている。
そんなエリアスと並んでもなんの違和感もない、というか物凄くお似合いにみえた。
そんな綺麗な容姿の二人だが、話を聞いてみるとお互いその容姿に惹かれた訳ではないのが良くわかった。
「ええ、本当によろしくお願いしますね。私たち家族は、エリアスを救ってくれたあなたに心から感謝しています。本当にどうもありがとう。そしておめでとう」
母のその言葉に、ルーシーさんは涙ぐんでいた。
そして座っていても離さないぞ、というふうにぴったりとくっついていたエリアスが、ルーシーさんの瞳に溜まった涙を拭い、優しく頭を撫でていた。
そんな姿に家族一同ふわっとした。
「ルーシーは、俺の恩人である以上に愛する人だよ」
エリアスは真剣な表情で、この場にいる両親や俺やミシェルにそう言った。
ルーシーさんの紹介が終わると、母とミシェルがいつから想いあっていたのか、と興味津々で根掘り葉掘り聞いていた。
「え、えっとですね。……お恥ずかしいし、失礼かもしれませんが、実はエリアスさんのお兄様が参加出来なかったパーティーで……」
「ええ、あの時初めてお会いしたわね。それでそれで?」
俺が参加出来なかったパーティーとは、ミシェルと結婚してすぐにあったパーティーだろう。急に重要な仕事が入ってしまい、エリアスに急遽付き添いを頼んだあの日の事だろう。
「……実は、ミシェルさんとエリアスさんが結婚したのだと、勘違いしてしまいまして、それがきっかけでエリアスさんを愛していると自覚してしまったんです…」
「ま、まあ! そうだったのね。ごめんなさい、私がややこしい言い方したからね。本当はすぐにライアスと結婚したというつもりだったの。この子の義姉になったと」
ライアスとは俺の事だ。
まさか、そんな事があったのかと驚いてしまう。ミシェルもどんな挨拶をしたのか。……後で詳しくきこう。
「いえ、とんでもありません。勝手に勘違いして、ショックで戻らなかったのは私の方です。それに……」
「それに?」
「その勘違いがなければ気づけなかったかもしれないのです。だからある意味良かったといいますか……」
恥ずかしいのか、徐々に語尾が小さくなるルーシーさん。
そしてそんなルーシーさんの喋る横で、エリアスは反対を向いて唇を噛んでいた。
その表情はいつもと変わらないが、ルーシーさんの言葉を噛み締め、嬉しくて悶えているのか、にやけてしまわないようにしているらしかった。
ルーシーさん以外は全員気づいており、みんな肩を震わせていた。そして俺も。笑ってしまわないように、自分の足をさりげなく抓ったぐらいだ。
「ほ、本当にエリアスは、ルーシーさんの事を愛しているのね」
「うん。毎日どんどん好きになるから底が見えないくらいね」
そう真顔で即答するエリアスに、抓る指に更に力を込めなくてはならなくなった。
「ほ、本当によかったな、エリアス。ハワード公爵閣下にはもうご挨拶は済んだのかい?」
「うん、無事に許可をもらったよ。俺、緊張したの後にも先にもあの時だけだと思う」
笑いをこらえてそう聞いた父に、エリアスはそう答えた。どんな風だったのか是非聞きたい。
「ルーシーさんのエンゲージリング、凄く立派で綺麗ね。やるわね、エリアス」
「まあね。俺が考えて一から作ってもらったから世界にひとつしかないよ」
「……え? エリアスさん、そうだったんですか?」
「言ってなかったっけ」
「いってませんよ! ……その、凄く嬉しいですし、エリアスさん、ほんとにセンスがいいですね…」
なんでもない風にそういうエリアスに、驚くルーシーさんがつけたエンゲージリングは、中央に大きなダイヤが嵌め込まれており、両サイドにも外側に向かって徐々に小さくなっていくダイヤがみえた。
少々複雑な造りになっているその指輪は、かなりの費用が掛かっているだろう事もわかり、エリアスの本気度が伝わった。
「二人とも本当におめでとう。結婚式、楽しみにしてるからな」
俺がそういうと、幸せそうに見つめあった二人は、本当にキラキラとしていて、星より輝いてみえた。




