10話
太陽燦々、いい天気。
南風が穏やかに吹き、春の花々の蕾も膨らみ始めた、この良き日。
絶好のピクニック日和である。
父の休暇最終日、私たちは王立公園に来ていた。
婚約の話が一件落着したということで、今までのストレスを存分に癒そうと、麗しきアロイスお兄様をぺろぺろ、もといお兄様ときゃっきゃうふふしようと密かに計画していたのだが。
「アロイス様!こちらで一緒にお茶でもいかがですか?」
「今度私の家のサロンにおいでくださいませ!」
「あぁ、アロイス様、今日も美しいですわ…。」
これである。
さすが美ショタ、可愛らしい令嬢たちに囲まれていた。もはや身動きが取れないレベルに。
ここで「私のお兄様を取らないで!」なんて年相応に喚くのもありかもしれないが、やはり今後のためにも、淑女の外面は守っておきたいので
なので、お兄様が戻ってくるまでは父と遊ぶことにした。何度も言うけど精神年齢のことは気にしないでほしい。わーい、高い高いたーのしー!
…ちなみに遊具などはないので、小高い丘を父と駆け下りたり、美少年をチラ見したり、花などの植物の種類を調べたり、美ショタを眺めたり、野ウサギを抱っこしたりした。ちなみにママンはママ友たちとウフフオホホ、と笑顔で(目が死んでる)、腹の探り合いみたいな会話をしてた。女社会怖い。
___そんなこんなしてるうちに、いつのまにか時間は過ぎて、もう午後三時。
帰り時に、最後に見せたいものがあると言われ、パパンにヒョイっと抱き上げられた。
そして、パパンの腕に抱かれ、歩くこと約十分。
この公園名物の大樹の前にたどり着いた。
ふつーにでかい樹だなー、何メートルあるんだろう、と考えてた矢先、父が説明をしだした。
「この木はね、創造神ガイア様がこの王都を作るときに一番最初に作った樹だって言われてるんだ。だから、この樹に触れたり、落ちた葉を持ち歩いていると、創造神様の加護がもらえるって言われているんだよ。もちろん迷信にすぎないけど…。」
なるほど、結構大層な樹でごさんしたのね。
風が吹き、さわさわと黄緑の葉が揺れ、赤い花弁が散る。
___そう言われてみると、なんだか暖かいような、神聖なような。そして、
「…少し懐かしいような。」
小さな声で呟いた瞬間、まるで私の言葉に呼応するように、大樹の花びらが、はらはらと私を包み込んだ。
「お父様、これは一体…。」
「…リア、私も初めてみたよ。まるで大樹が意思を持っているみたいだ。…もしかしたら、リアは、創造神様に気に入られているのかもね。いつか、創造神様の加護が貰えるかもしれないよ。」
冗談っぽくそう言って、父は私を両手で抱き上げた。
___創造神ガイア、か。
まぁ、慈悲神ニルヴァーナとか嫉妬神アテはゲームの世界にいたから、なんとなく他もいるかなー、とは思ってた。
だけど。
___なぜこんなにも、この名が懐かしいのだろうか。
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この日の夜、私は夢を見た。
私は一人、昼間の大樹の前にいた。
「あれ…ここは、昼間の…。」
そう呟いた瞬間、目の前には、美しい真白の長髪を軽く結った、中性的な男性が現れた。
___不思議と、怖くない。
しばらくと、彼は形の良い、薄い紅色の唇を開いた。
「はじめまして、いや、さっきぶりかな、アメリア。
___君には僕が誰なのか、わかるだろう?」
彼はニコリと笑って、私にそう告げた。
大樹の花と同じ色の宝石のような瞳がこちらを向く。
その時、私の中に直感的な、何かが駆け巡った。
___貴方は。
「…私、わかるわ。多分だけど、…貴方は、創造神、ガイア。」
「…素晴らしい、正解だ。」
ぱち、ぱち、ぱち。
彼は笑顔を崩さぬまま、満足げに拍手をした。
そして、すっとわたしに近づき___
「はぁーい!僕は、君の魂をこの世界にぶっ飛ばした張本人、ガイアさんでーす!どう、この世界楽しんでるぅ〜〜?」
くるっと回って、どこぞの排球漫画の茶天パのように、至近距離でうへぺろダブルピースをかましてきた。
はぁい、落ち着いて。