俺って・・・
ここは一体何処だろうか。俺は気づけば暗闇の中にいた。何もない、何も見えない、自分の姿すら見えない。それでも確かに俺はここにいた。俺という体の感覚だけは残っていたからだ。
しかし俺は今まで何をしていたのかさえわからなかった。そして俺は何者なのかということも・・・。如何せん自分の姿を確認しようにも出来ぬ状態なのだ。確認のしようがない。そして俺が俺であると言ってくれる者もいない。
俺だという証拠は何処にもなかった。
その時暗闇の中から何か映像のようなものが出てきた。それはどこかの公園の風景だった。子供連れの女の人が二人で砂場にいる。しかし女は子供には興味を見せない様子であった。どこかで見たことがあるような気がした。しかし俺はすぐにはわからなかった。
その映像が終わり、今度はブランコのシーンに切り替わった。そこでは高校生ぐらいのカップルがいた。女は楽しそうにはしゃいでいるが、男は興味がないような様子であった。
そうか。俺はさっきまで公園にいたんだ。そしてこれらの光景を目の当たりにしていたんだ。俺はもうカップルの光景を迷うことなく見つめた。
いや、違う。確かに状況は似ているが何処か違う。女の顔も違っているし、なんせ制服が全然違う。ただ記憶違いをしているだけかもしれないが、この光景も確かに何処かで見た気がするのだ。
そう思っているうちに公園の映像は消えてしまった。そして電灯でも付いたように急に辺りが明るくなった。俺はようやく自分の姿を見ることができた。
俺はジーパンにTシャツというとてもラフな格好をしていた。俺はいつもこんな格好で歩いていただろうか。俺は何かもっときちんとしたものを纏っていたはずだ。俺はいつも・・・。俺はいつも何をしていた。俺は今まで何をしていた?
徐々に頭の中に途切れ途切れの映像が流れてくる。公園にいた自分、昔の学生姿の自分、そしてスーツを纏っている自分。
そうだ。俺はつい先日まで毎日スーツを着て会社に行っていたんだ。毎日やりがいのある仕事を楽しんで行っていた。それなのに今の俺にはもう纏えるものが何もない。自信をもって言えるものが何もないんだ。俺はいつからこんな奴になってしまったんだ。
そうか。俺は何もかもを思い出した。この間まで俺が公園で見ていたもの。それは自分の姿だったんだ。だから俺はあんなにも心を動かし、食い入るように見つめていたんだ。俺もかつてはあの少女のような立場にいた。母親が大好きで、母親に気に入られようと努力していた。それでも結局母親は俺の方になど向いてくれず、俺は高校で家を追い出された。愛情を知らないまま育った俺は、せっかくできた彼女を愛することができなかった。愛情を注いでくる者にどう対応すべきか知らなかったからだ。俺はあんな日々を毎日彼女と続けていたんだ。最後はあいつの友達にぶん殴られて終わったな。あいつは俺と同じように俺を愛し続け、俺に気に入られようとしていた。それでもそれが叶わなかったあいつはどんな思いだったのだろうか。今ならあいつの気持ちを理解してあげることも出来るかもしれない。
そうか。人生が終わったように感じていた俺に、神様が過去と向き合わせてくれたんだな。
昔から俺は何ももっていなかったじゃないか。愛情を注ぐことも、愛されるという意味も知らなかったじゃないか。ただスーツという社会人である象徴を失っただけのことだ。
明日からまた俺は本当の俺として過ごせばいい。もっと気楽で、楽しく、そして恋愛でもしようか。
気づけば俺は家の中にいた。俺はまず部屋の掃除から始めることにした。明日へ進むために・・・。




