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ホースから放たれる水しぶきは空へと向かって放物線を描きたどり着いた先は緑の木々や芝生、そして色とりどりの花々。

チームとの契約もあと一年を切ったところで買うかな?

普通、家って買わないんじゃないかな???


主寝室に子供部屋、リビング、ダイニング、キッチン、バス、トイレどれもが広々としている上に小さな別棟にはゲストルームが3つ。

3つもある。


持病があって体が弱く食事制限のある飛鳥さん、まだ小さいたく兄のところのすみれちゃん――――

二人のことを思えば各家族で来るより、父さんと母さんも一緒の3家族で遊びに来た方が心強いし楽しいことは分かる。


「でも買うもの?」


その時だけホテルやコンドミニアムを手配してもいいんじゃないのって聞いたら


「不要になって売った時との差額は賃貸に住むより安くなるかもしれない。」だって。


本当に?

甚だ疑問ではあるけれど、そもそも何を買っても泰のお金なので泰が買いたいものを買えばいい、私が口出しすることではないことに気づいて、それ以上は何も言わなかった。









泰とお泊りした翌日、泰はウチの両親に挨拶に行くと言い出した。

でもその前に連れて行かれたのはホテル近くのジュエリーショップ。

どうやら沢井さんと婚約していたことを早く上書きしたかったらしい。

そのせいなのかダイヤの指輪以外にそれと同じデザインのネックレスまで買ってもらってしまった。

そこまでしてもらう必要を感じなかったので、「ネックレスは買わなくていい。」って言ったけど泰の方は「買っておけ。」の一点張りでそのやり取りをしつこくしたものだから、それが後々騒ぎの元となってしまった。


実家に行く前に泰のご両親のお墓にお参りしてから夕方ウチへ行った。

何故か要兄さんとたく兄が来ていた。

泰は土下座で「操さんと結婚させて下さい。」って言うからびっくりした。

両親はもろ手をあげて大喜びで、沢井さんが挨拶に来た時よりはしゃいでいるお父さんにはかなりムカついたわ。

そりゃ泰のことを息子のように可愛がっていたからそういう意味でも嬉しいんでしょうけど、何か引っかかるものがあった。

そもそも私が生まれる時も「男の子」って思っていたらしく「すぐる」という名前を考えていたらしい。


「チームの要」「匠を凝らす」「優れた技術」ってなんのキャッチコピーよって感じでしょ。


「良かった。良かった。」と泰に声をかけるお父さんに引いていたら、私の気が変わらない内に「泰が日本にいる間に急いで入籍しろ」と言い出した。

何寝ぼけたこと言っているのよって思っていたら翌日大原さんが知り合いの弁護士だか行政書士だかをしている人を連れて来て、婚姻届に署名捺印させられた。

泰本人が行くと騒ぎになるかもしれないので、って委任状とかも書いて極秘に入籍してしまった。


大原さんに挙式はどうするんだ?って聞かれて、つい最近まで沢井さんと色々な式場を見て回っていた後だから、今度は泰と行くの?それって嫌だなぁって思って返事を曖昧にしていたら、ジュエリーショップにいた時を写真に撮られていたらしく


「奥寺選手、恩師の愛娘と極秘婚約!!!」と報じられてしまった。


あの時泰の買いたいものを素直に買わせてさっさと帰っていれば良かったと、悔んでも悔やみきれない。


せっかく働いていた派遣先がかたい企業だったこともあって騒ぎが発覚すと即契約終了、っていうか他の人と交代になった。

派遣元の営業さんには「有名人との結婚が近いって話しておいてくれてたら良かったのに」って言われて「そんな話はありませんでした。」って言っても既に入籍までしているから信じてもらえなかった。


「これからどうなるのよ!」って泰に噛みつこうとしたら「休暇が終わるから」って一人日本を出て行った。

その上良く知らない近所のおばちゃんが「あの二人は小さい頃から仲が良かった。」って触れまわって、「泰の知り合い?だったら黙らせてよ!」って文句を言おうと思っても、目の前にいないからメールとか電話で「早く引退して、世の中から忘れられた存在になれ!」吠えまくったけど、「そう言う時間も俺に提供しているって思って」とか言って取り合ってくれなかった。


毎日家で悶々と過ごしていたら泰からまたエアーのチケットが届いた。

今度は帰りの分がなくて「向こうで自分で手配しろ」ってことかなって思っていたら、また大原さんと知り合いの弁護士かなんかの人が書類を持ってやってきて、署名とハンコって言われて今度はなんの書類だって見たら、泰のいる国への転居(ってことになるのかしら?)の書類だった。

友達もいないし言葉も分からないから行きたくないってごねたけど義姉と姪を含めた家族全員に「泰、可哀そう~」って言われた。


向こうで買いそろえればいいからと手荷物一つで飛行機に乗って行ったら、今度はホテルじゃなくて私達二人には無駄に広過ぎる家に迎えられた。

買ったっていうから本当にびっくりした。


働いていないから毎日ボーっと過ごしているようなものだったけど、言葉に不自由していたので近くの語学学校に入った。

ところがこの語学学校、転勤族の奥様達のたまり場みたいになっていて「奥寺選手の奥さんいる!」って騒ぎ出したからすぐに辞めました。

結局、泰のチームの同僚の奥さんで日系人の人と学生時代に日本文化を勉強していたという人に教わることになった。

けどこの二人が旦那さんに尽くすタイプで、その所為でいつも練習を見に行ったり、チームの雑用を手伝っているから、語学レッスンのはずがチームの雑用処理になっちゃって、子供の時に合宿の手伝いに駆り出されたことと一緒じゃないってムクれてしまった。


一日も早く言葉に不自由しない日々を獲得して泰のチームとの関わりを失くさなきゃと毎日励んでいます。

おかげで学生時代よりも習得が早いかも。










今夜の飛行機でお父さんとお母さん、要兄さんと飛鳥さん、たく兄と絢子さんと菫ちゃんが泰の試合を見に遊びに来る。

ゲストルームを掃除しながら空気を入れ替えてベッドメイキングしたところで泰が帰ってきた。


「ただいま」


「おかえり」


挨拶しながらキスされる。もうこれが毎日の日課となっている。

私を抱きしめた腕を解かないまま「準備は進んだ?」と聞いてきた。


「うん、ゲストルームの方はOKだよ。」

夕飯の準備や掃除以外の家事の続きがあるからと泰の腕から逃れようとしたら、さらに締め付けが強くなって耳元で「ふう」とため息をつかれた。


「何かあった?」試合に出られなくなったとか?


「・・・・あのですねー。来季また3年くらいで契約してもらえそうなんです。・・・」


なんですって――――――!!!


嘘つきー!契約期限が切れたら日本に帰るからって言ってたくせに。

黙ったまま睨みつけていた。


私にとっては大変どうでもいいことなんですが、泰は今チームにとってはなくてはならない存在のようで、でも最近私という日本人の妻を娶り、しかもこの奥さんが「日本に帰りたがっている。」とか「泰の仕事に無関心。」という情報をキャッチしたチーム上層部は本日泰に軽~くプッシュしてみた、ということらしい。

「契約」という名のお金も絡むことだから結局は契約書を正式に交わすその時まではどうなるか分からないけどね。


「直前で契約しない、日本へ帰るって場合は怒らなそうだけど、ギリギリで再契約って言ったら次の日には操日本に一人で帰ってそうだから―――。」


心の準備をしておけということらしい。


「怒ってる?」


神妙な面持ちで私の顔を覗き込むように聞いてくる。


「怒ってもいい??でも私の今の時間は泰のものでしょ?」嫌味いっぱいにニッコリとほほ笑んで答えた。


「それでいい?・・・」


「仕方ないでしょ。」


「ありがと。・・・でも終わりの日は確実に来るから・・・」そう言った泰の顔は寂しげだった。




泰と暮らすようになって、あの自分の中にある音にならない騒がしい声が何を訴えていたのか分かった気がした。



あれは祈りだった。


一日でも長く泰の挑戦が続きますようにと―――――――


あれは願いだった。


泰が私のそばにいてくれるようにと――――――――


あれは想いだった。


泰を愛していると――――――



泰の胸の音を聞きながら囁いた。


「引退する前に死んだりしないでね。」


「分かってる。」


苦笑いするような声で泰は答えてくれた。

それからもう一度ぎゅって抱きしめられた。


「・・・・でないと『好き』って言えないじゃない。」


小さな声でぼそっと呟いたはずなのに泰に聴こえてしまったようで、泰の腕の力が緩んだ。

そのとき反射的に泰の顔を見上げて見たら嬉しそうに微笑んでいた。


「今ので十分。あと3年はやっていけるかな。」


!!!

あと3年て、契約する気満々なんじゃないのっ!!!

頬を膨らまして睨みつけてやった。


やっぱりスポーツマンは嫌いだと思った―――――――――。






fin


最後までお付き合い下さってありがとうございます。


本編(操×泰久編)は終了です。


脳内企画で操×泰を弄る要兄ちゃん&たく兄視点とか、要×飛鳥、匠×絢子もあるので、またいつかその辺りを投稿できたらと思っています。

でもその前に藤沢家と泰が関わっているスポーツの競技のを決めないとダメかもしれないかなぁ。



ゆほ。

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