↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺以外、全員Vtuberでした ~家族も幼なじみも上司も、配信で俺の話ばっかりしてる件~  作者: 深夜三時
第1章「妹はお嬢様Vtuber」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
6/18

第6話 閑話:白百合院ロゼは隠したい

今回は、妹・ミオ視点の閑話です。


本作に登場するVtuber・事務所・団体は、すべて架空のものです。

 ――side ミオ


「……はぁ」


 配信を終えた防音室で、私は椅子の背もたれに深く沈み込んだ。


 画面には、今日の配信のアーカイブ。

 コメント欄を遡ると、真っ赤なスーパーチャットが目に入る。


 『いつも元気をもらってます。これからも、ずっと応援してます』


 通りすがりの苦学生さん。

 デビュー配信の、同時接続三十人だったあの日から、ずっといてくれる人。


「……泣いちゃったし。恥ずかしいし」


 顔を両手で覆う。

 でも、口元が勝手に緩んでしまう。


 苦学生さん、大丈夫かな。一万円って、学生には大金だし。

 ……兄貴だったら、プリンふたつで財布が泣いてるのに。


   ◇


 私がVtuberを始めたのは、一年前。


 きっかけは、ほんの思いつきだった。

 子どもの頃から、お嬢様に憧れていた。縦ロールで、白いドレスで、「ごきげんよう」と微笑むような。

 現実の私は、語尾に「だし」がつく、ただの女子高生なのに。


 だから、画面の中でだけは、なりたい自分になろうと思った。


 ――でも、最初の配信は散々だった。

 緊張して噛みまくって、何を話せばいいかわからなくて。


 困った私は、とっさに、身近な人の話をした。


『わ、わたくしのお兄様が、今朝、寝癖のまま大学に行きましたの』


 それが、なぜか、ウケた。


 それからだ。

 兄貴の話をするたびに、コメント欄が盛り上がった。傘を忘れた話。ゴキブリに悲鳴を上げた話。靴下を左右間違えた話。


 ――兄貴は、ネタの宝庫だった。


「……べ、別に、兄貴のことが好きとかじゃないし」


 誰もいない防音室で、私は誰にともなく言い訳をする。


「ネタとして優秀なだけだし。あと、家族だし。家族の話をするのは普通だし」


 それに。

 兄貴は、なんだかんだ優しい。


 プリンを食べられたときは本気で怒ったけど、ちゃんと並んで買ってきてくれた。しかも、ふたつも。

 冷蔵庫に閉じ込められたって聞いたときは、本当に、心臓が止まるかと思った。……五分だったらしいけど。


「……兄貴にだけは、絶対バレたくないし」


 大丈夫。

 兄貴は、Vtuberなんて絶対に知らない。


 大学とバイトでいつも疲れた顔をして帰ってきて、ご飯を食べて、部屋にこもって、たぶんすぐ寝ている。オタクっぽい趣味の話なんて、聞いたこともない。


 ……電算研とかいう、パソコンのサークルに入っているのは知ってるけど。

 どうせ、真面目にプログラミングとかしてるんだし。


 だから、大丈夫。

 ――私の秘密は、完璧に守られている。


   ◇


 翌朝。


「ハル、起きてってば! また寝坊!」


 ユイちゃんの声と一緒に、兄貴がよろよろと階段を降りてきた。

 目の下に、ひどいクマができている。


「兄貴、また夜更かし?」

「……ちょっとな。配信……じゃなくて、レポートを」

「ふーん」


 夜遅くまでレポートなんて、大学生も大変だし。


 家族六人と、ユイちゃん。

 いつもの朝の食卓だ。


 母さんが、お味噌汁をよそいながら、何気なく言った。


「そういえば、最近、Vtuberっていうのが流行ってるらしいわね」


 ――ぴたり。


 食卓の空気が、一瞬だけ止まった気がした。


「……知らんな」と父さん。新聞から顔を上げない。

「へ、へえー。知らなーい。なにそれー」と姉ちゃん。トーストを持つ手が、なぜか小刻みに震えている。

「ばあちゃんには、わからんねぇ」とばあちゃん。お茶をすする音が、やけに大きい。

「し、知らないし」


 私も、即座に答えた。

 完璧な返しだったと思う。


「わ、私も、よく知らないです!」


 ユイちゃんまで、なぜか声が裏返っていた。


「……そうよねぇ。私も、よく知らないのよ」


 母さんも、にこにこと頷いた。


「ごふっ」


 兄貴が、お味噌汁で盛大にむせた。


「ちょっとハル、大丈夫!?」とユイちゃんが背中をさする。

「げほっ、だ、大丈夫……ちょっと、気管に……」


 兄貴は、なぜか涙目で、家族全員の顔を順番に見回していた。

 変なの。


「兄貴、むせすぎだし」

「……ああ。気をつける」


 兄貴は、何か言いたげな顔で、深いため息をついた。


 ――よし。

 今日も、我が家は平和だ。

 誰も、私の秘密には気づいていない。


   ◇


 ――side ハル


 その夜。

 俺は、自室でぐったりと机に突っ伏していた。


「なんで……誰も……気づかないんだよ……」


 今朝の食卓。

 あの、全員の、あまりにも見事な棒読み。


 ……いや、まさかな。

 ミオの件は確定したけど、他の家族まで、そんなはずがない。


 気分を切り替えよう。

 俺は、最近ハマっている歌い手Vtuber、月島(つきしま)うたの配信を開いた。透き通るような歌声が魅力の、個人勢の女の子だ。


『こんばんは、月島うたです。今日も歌っていくね』


 ああ、癒やされる。


『あ、そうだ。歌う前にちょっとだけ雑談。今日ね、幼なじみのAくんが、また寝坊してて〜』


 コメント欄が、一斉に沸いた。


『出たなAくん』

『Aくん今日も寝坊かよ』

『うたちゃん、今日も起こしに行ったの?』


『うん、起こしに行った。しかもね、朝ごはんのときにお味噌汁でむせてて。もう、ほっとけないんだよね』


 俺は、うんうんと頷いた。


「Aくんも、寝坊して味噌汁でむせたのか」


 今日の俺とまったく同じだ。


「気が合いそうだな、Aくん」


 ――画面の向こうで、月島うたが、小さくため息をついたような気がした。

お読みいただき、ありがとうございました!


次回は、第1章の締めくくりとなる掲示板回です。


「続きが気になる!」「Aくん鈍すぎ!」と思っていただけたら、

ブックマークや、下の【☆☆☆☆☆】から評価をいただけると、とても励みになります!


次回もお楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。