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すべての生きとし生けるモノ達へ  作者: みゃ~むら
オニカド編

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出撃の時 sideアレン(part33)

底冷えするような声だった。

まるで今まさに宿敵と刃を交えているかのような冷徹な響きが、広い講道館の隅々まで鋭く染み渡っていく。


「留意点、ですかな……? それは一体……」


セツナの全身から放たれた張り詰めた気迫が伝播したのか、猛者揃いの鬼の将たちまでもがごくりと喉を鳴らし、広間に重苦しい静寂が落ちる。俺の額からも、ツッと冷や汗が伝い落ちた。

「これまで遭遇してきた敵とは、根本から次元の違う魔人が……この島に潜伏している可能性があります」

セツナの言葉に、座していた鬼たちがざわりとどよめいた。

俺の脳裏にも、かつて死闘を繰り広げた魔人ユーグの禍々しい姿が強烈にフラッシュバックする。

「それは……一体どのような存在でありましょうか」

ナタクが厳めしい片眉を跳ね上げ、怪訝そうに問いを投げかけた。

「ただの魔素の塊で動いているような、有象無象の魔物とは根本から異なる存在です。……言わば、奴らを統率する上位種、幹部と呼ぶべき化け物です」

それを聞いて、周りの鬼達を含め、温度感が上がったのを肌身で感じる。

「幹部、ですか。なれば我らが討つべき真の仇敵でしょう。悲願を果たす好機ではありませんか。敵将の首級を挙げることこそ、武人の誉れ……」

「なりません」

セツナはナタクの勇み足を、遮るような容赦のない一言で切り捨てた。

広間の空気がさらに一段、凍てつくように張り詰める。


「万が一遭遇した場合は、交戦を固く禁じます。可能な限り被害を抑え、即座に退却しなさい。……相手をするのは私か、あるいはエデン殿とデンドロビウム殿に任せてもらいます」


その冷厳な命令に、鬼の戦士たちから抑えきれない憤りの声が一斉に爆発した。

「な、なんですと……!?」

「我らに背を見せて逃げろと仰るのか!?」

「島を荒らされ、同胞を殺められ、族長までも奪われたのですぞ! 憎き敵将を目の前にして引くなど……承服しかねます!」

彼らの激情はもっともだった。誇り高き鬼族の戦士として、故郷を蹂躙した元凶を前に退くことなど、死よりも耐え難い屈辱に違いない。

だが、感情論だけで埋まるほど、戦場の現実は甘くないのだ。

俺たちは身をもって知っている。あの圧倒的な暴力と、絶望的な実力差を。

思い出すだけで無力感と苦々しさに苛まれ、奥歯がギリリと音を立てて軋んだ。

「決して感情論で言っているのではありません。私一人が刺し違える覚悟で挑んで、ようやく相打ちに持ち込めるかどうかの化け物なのです。……ヤシャ殿や兄上の力が揃って、初めて討伐の道筋が見える相手だと言えば、理解していただけますか?」

「なっ……其奴は、それほどまでに強大なのですか……!?」

セツナの悲痛なまでの真剣さに、ナタクが絶句する。


「そもそも兄上が停戦協定を結ぶために交渉へ赴いた相手も、恐らくその幹部で間違いありません。力でねじ伏せられる相手なら、兄上もその場で斬り捨てていたはず。……そうしなかったのは、何故か?」

「勝てる算段が、無かったから……? あの、ラセツ様が……」


ハバキリが小さな両手で胸元をぎゅっと握りしめ、青ざめた顔で息を呑んだ。

「ええ。だからこそ、私やエデン殿たちを頼ってください。……私は、あなたたちを誰一人として無駄死にさせたくないのです」

突き放すような命の裏にあったのは、同胞の命を何よりも尊ぶ族長としての深い慈愛だった。

静まり返った広間で、ナタクが深く息を吐き出すと、ゆっくりと畳に膝を突き、深々と頭を垂れた。

「……承知、いたしました。セツナ様がそこまで仰るのならば、この意地、呑み干してみせましょう」

「我らの命をそれほどまでに重く案じてくださり、心より感謝いたします。この命、セツナ様にお預けいたします」

他の将たちも次々と腰の刀の鯉口を切り、若き主君へ忠誠の礼を捧げた。


「ええ。皆の命、確かに私が預かりました」


セツナの言葉に応えるように、鬼たちの瞳へ揺るぎない覚悟の炎が宿った。

互いの命を背負い、奪還と生存を賭けた総力戦が、いよいよ始まろうとしていた。


*******************


熱気に満ちた講道館を後にした俺たちは、里の外縁部に乗り捨ててあったバギーの鎮座する場所まで戻ってきていた。

吹き抜ける山風が樹々を揺らし、青葉の瑞々しい匂いを運んでくる。講道館から発せられた伝令により、各部隊がそれぞれの受け持ち地域へと配置につき始めていた。俺たちもまた、出撃の合図が下されるまでの待機時間を静かに過ごしている。

今回の作戦行動に同行するのはセツナではなく、どこか気恥ずかしそうに周囲をキョロキョロと見回している鬼の少女、ハバキリだった。

大勢の同族やセツナと一緒にいた時には元気溌剌といった印象が強かった彼女だが、異国の者ばかりに囲まれると流石に肩身が狭いらしい。自慢の耳を少し縮こまらせ、所在なさげに着物の裾を指先で捏ねていた。

だが、意外にもその重苦しい沈黙を破ったのは彼女の方だった。


「じ、自己紹介が皆様にはまだだったかと存じます! 名はハバキリ。我が家は代々、族長家にお仕えしてきた家系にございます!」


ぴんと背筋を伸ばし、両手をぶんぶんと振ってみせる。小さな身体を弾ませるようにして挨拶をしてくれる姿は、周囲の張り詰めた空気をふっと和ませてくれた。

少し面を食らいつつも、どこか納得している自分もいる。里に足を踏み入れ、殺伐とした視線を浴び続けてきた俺たちに対し、最初から分け隔てなく接してくれていたのは彼女だけだったからだ。

それに対して笑顔で返すことにした。

「俺はアレンだ。よろしくな、ハバキリ」

「セシルです。女の子同士、仲良くしてね」

「フェリクセンだ! いや〜、矢文の件は本当に助かったぜ」

俺が友愛の印として右手を差し出すと、ハバキリは目を輝かせ、予想以上の勢いでガシッとそれを掴んできた。そして上下にぶんぶんと激しく揺らす。

(ちょっと痛いな……!?)

彼女の肌も例に漏れず、鬼族特有の堅牢な「赫皮かくひ」で覆われている。厚手の革手袋越しだというのに、まるで万力で締め上げられたかのような圧力が伝わってきた。俺は必死に顔を引きつらせないよう耐えた。

「はいっ! 少しの間ですが、お世話になります!」

静かに歩み寄ってきたエデンが、上空からの陽光を遮るように大きな影を落とした。

「ハバキリ、貴女は我々を疎ましくは思わないのだな?」

鉄面皮な精緻の義顔は相変わらずで、ハバキリが怖がりはしないかと冷や冷やしたが、彼女は怯むことなく大きな瞳を瞬かせた。

チョイスされた話題は思ったより触れづらい物だが、これから命を預け合う事になる。

それを「君は出来るか」と遠回しに聞いている様だった。

「……初めましての方ばかりですので緊張はしておりますが、そのような忌避感は持っておりませぬ! どうしてそのような疑問を?」

逆に目を輝かせながら、エデンさんに聞き返した。意外と、いや鬼ならばこの様な少女でも立派な胆力を持っていると言う事だろうか。

「他の鬼の人たち、私たちのことあんまり良く思ってなさそうだったし〜……特にあのナタクって人!」

デンドロビウムが「私、あの人キラーイ」とでも言いたげに、イーッと白い歯を剥き出しにして顔を顰めた。

「ずっとこっちを鋭い目つきで睨んでましたもんね……」

セシルも困り切った苦笑いを浮かべ、肩をすくめる。

「長年閉ざされた島で生きてきたんだ。突然異文化の人間を受け入れろと言われても、そう簡単には割り切れないだろ」

俺の言葉を聞きながら、ハバキリはふむふむと深く首を縦に振った。頭頂部からピコピコと伸びた二本の触角のような癖毛が、彼女の感情に同調するように可愛らしく揺れている。

「確かに、我が父は最後まで『外部に救援を求めるなど断じて…』と大反対しておりましたねぇ」

「えっ、あのおじさん、ハバキリちゃんのお父さんなの!?」

デンドロビウムが素で驚いた声を上げた。そう言えばさっき自己紹介で族長家に使えてるって言ってた様な……。

その声があまりに響いたため、遠くで出陣の準備を進めていた鬼の戦士たちが一斉にこちらへ鋭い視線を向けた。「何でもない」と手でジェスチャーを送ってその場を宥めたが、正直、俺もデンドロビウムと同じ気持ちだった。

「はい! 正真正銘の我が父にございます。似ているでしょう?」


ハバキリは誇らしげに胸を張り、着物の裾をひらりと翻して軽やかにくるりと回ってみせる。健康的で年相応の可愛らしい少女だが、あの厳めしい強面のナタクと「似ているか」と言われると、少々目のやり場と返答に困ってしまう。

「いや、見た目というか……思想の違いにびっくりしてるんだよ、どっちかっていうと……」

フェリクセンが困惑気味に頭を掻くと、ようやく事態を察したのか、ハバキリの触角状の髪がびびーんとピンと立ち上がった。

「あー! 我が父は確かに、ずーっと……というか今でも反対派の筆頭ですからねぇ」

「その、ハバキリさんは……」

「呼び捨てで構いませぬよ!」

「じゃあ……ハバキリは、お父さんと同じ考えじゃなかったのか?」

俺の素朴な問いかけに、彼女は少しの澱みもなく、咲き誇る花のような満面の笑みを返してくれた。


「ええ! そのまま自分たちの誇りだけに拘って戦っていては、一族皆が全滅していたでしょう! 使えるものは何でも使わねば。やはり、生きてこそですからね! ……そして私、外の世界のこと、いーっぱい知りたいです!教えてほしいのです!」


その笑顔には、閉塞的な一族の驕りも、ちっぽけな矜持も一切なかった。

そこにあったのはただ、厳しい現実の中で生き抜くために模索を続ける一族への深い愛と、未知の世界へ向けられたみずみずしい好奇心だけだった。

みなさま、どうも&初めまして。

みゃ~むら、でございます。

お読みいただき、誠にありがとうございました。

感想やレビューお待ちしております。


最近投稿が不安定で申し訳ないです。

毎日投稿からちょっと頻度を落とそうと試行錯誤中でして……。

楽しみにして下さってる方々にはご迷惑おかけいたしますがもうしばらくお付き合いいただければ幸いです。


いやー、もうめっきり涼しくなったんじゃないですか?

天気予報も中々過ごしやすそうな気候を示しておりますよ。

ここ最近はずーっと暑い時期が長かったと思うので、たまにはこう言うのもありがたや〜。

それに二週間後くらいにはシルバーウィークも控えてますからね。涼しやすくなった気候で連休を迎えられることの何と素敵なことか。

もうすぐ九月の上旬が終わろうとしておりますが、まだまだ気を抜かずにやっていきたいものですね。

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