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すべての生きとし生けるもの達へ  作者: みゃ~むら
オニカド編

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35/35

それぞれの実力 sideアレン

救助活動は無事に終わりを告げ、街は今、凄まじいスピードで復旧や再建の作業が進められていた。あれだけ破壊の痕跡が激しかった正門も、現在は以前より遥かに頑丈そうなものに取り替えられ、周囲の砲台を含めて一目見ただけでかなりの武装化が進められているのがわかる。住人たちもすでに元の暮らしを取り戻しつつあり、彼らのすべての物事に対する驚異的な決断力と復興スピードには、ただ舌を巻くばかりだった。


つまり、現状の俺たちにこの機械国で手伝えることは、もう殆ど残されていなかった。

だからこそ、今俺たちがやれることは一つしかなかった。


「はぁっ!」

「うおっと!」


広い訓練室に、かん高い金属音が激しく響き渡り、時折激しい火花が飛び散る。訓練室自体は無機質な長方形の作りで、家具の類は一切ない。灰色の床に、等間隔に引かれた黒い境界線が綺麗に並んでいるだけだ。どうやらここでは普段、新兵器などのテストを行っているようで、俺たちの申し出を聞いたギアが「好きに使うといい」と快く貸してくれたのだった。


俺とセシルは、鬼島への出発に向けて互いに刃を交え、訓練を行っていた。少しでも身体を戦いの感覚に慣らし、万全の状態で未知の戦地へ向きたかったからだ。

実際、自分たちがあの魔人ユーグに対して圧倒的な実力不足であることは、誰の目にも明らかだった。それに、こうして限界まで身体を動かしていないと、これからの不安や恐ろしい想像で、頭の中が色々と考え込んでしまいそうだったというのもある。


魔人、鬼島。一体この世界に何が起きているのか。これから何が起きようとしているのか。

――今は考え込んでいても仕方がない。その結論に至った俺たちは、出発の準備が整うまでのわずかな間、訓練室に籠もって泥臭く身体を動かし続けた。


「おらぁ!」

「わっ!?」


セシルの鋭い突きを見切り、迫っていた槍の穂先を機械剣の腹で強引に弾く。そのまま振り向き様の勢いを乗せ、セシルの胴体へ向けて強烈な蹴りを繰り出した。しかし、それはセシルの持つ盾によって完璧にガードされてしまう。ドン、と鈍い衝撃音が響き、後方へとセシルが吹っ飛んだ。俺はその隙を逃さず、一気に距離を詰めようと力強く地を蹴って足を前に伸ばす。


だが、セシルは体勢を崩しながらも、空中で盾の機構を滑らかに変形させ、そこから弓を展開して俺の追撃を阻んだ。着地と同時に俺の足元を正確に狙い撃ち、放たれた魔素の矢の風圧と衝撃で上手くこちらの前進を牽制してくる。


「ごほっ、ごほっ!……セシル、近接戦闘の訓練で飛び道具は無しって話じゃ無かったか?」


放たれた特殊矢の風圧で舞い上がった煙幕が、徐々に晴れて周囲の景色が戻っていく。無機質な訓練室の中央で、セシルは自身の愛槍をひょいと肩に担ぎながら、いたずらっぽく笑って待っていた。


「ごめんごめん! つい熱くなっちゃって!」


一旦小休憩ということだろう。先ほどの激しい動きから一変し、セシルはゆったりとした足取りでこちらに近づいてくる。


「やっぱりアレン、腕あげてるね! 一撃が鋭いし重く感じるな~」

「セシルこそ、中々ガードが固くて崩しづらくなったよ。その盾の装備、本当にいい感じに馴染んでるな」


セシルは腰のベルトにつけていた小さな金属製の水筒を外し、ごくごくと喉を鳴らして水分補給をした。ひと息ついて、じっと彼女を見つめていたこちらの視線に気づると、水筒を差し出してくる。


「……いる?」

「いや、俺の分あるから!?」


揶揄うように悪戯な笑顔を向けてくるセシルに苦笑していると、訓練室の重厚な自動扉が静かにスライドして開いた。カチ、カチと規則正しい足音を立てて入ってきたのは、エデンとセツナだった。


「二人とも、動きは悪くないな」

「日々弛まぬ鍛錬をされてきたのが、よくわかる見事な動きでした」


エデンもその背に巨大な武器を携帯している。二人も、ここで訓練でもしにきたのだろうか。


「お二人も一緒に身体動かしませんか?……あ、あとよかったら、色々戦い方のコツとか教えて欲しいです!」

「セシル、仮にも国のトップが……」


俺がジト目な視線を送っていると、セシルはてへっ、と笑って綺麗に受け流す。


「いいですよ」

「構わない」

「……いいんですね」


意外にも二人は快く了承してくれた。

セツナはセシルの様子を微笑ましそうに見つめながら、一歩前に出た。


「私から見ても、先ほどのセシル殿の槍捌きは目を見張るものがありました。……我が鬼族でも槍術を使う者はいますが、貴方ほどに槍を縦横無尽に回しながらのアグレッシブな連撃は、見ることはできませんね」

「そうなんです?」


俺が尋ねると、セツナは静かに頷いた。


「我々鬼族は、良くも悪くも生まれ持った力でねじ伏せてしまう傾向にありますので……。一撃で相手を屠ることを美学としているもモノが多くいます。ですから、槍と言っても『突く』というよりは、重量を活かして『叩きつける』用途に近くて……」

「じゃあ、私もその鬼族の戦い方、習ってみたいです! 結構この槍、軽くてしなやかな割に、限界まで力を込めてもビクともしないくらい頑丈だから! セツナさん、ぜひお願いします!」

「私でよければ、喜んで」


さすがはセシルだ。国の重鎮であり、圧倒的な強さを誇る鬼族のセツナさんに対しても、物おじせずにすっと懐に入り込み、挙げ句の果てに戦い方のコツまで引き出している。彼女のコミニケーション能力の高さには、いつも感心させられる。

気がつけば、その場には俺とエデンさんだけが取り残されていた。


「ふむ。じゃあ、お前は私が見てやろう」

「お、お願いします……!」


相変わらずエデンさんはあまり表情が読みにくい。彫刻のように整った綺麗な顔立ちであることは間違いないのだが、何せほぼずっと無表情に近い鉄仮面だから、何を話したらいいのか、どう接すればいいのかが今ひとつ掴みきれない。


目の前の機械国の上層部の一人である彼女は、おもむろに、自身の肩のハードポイントから機械で組み上げられた無骨な大剣をパージし、がしりと右手に持った。自分の背丈ほどもありそうな重量級の鉄塊を、彼女は片手でひょいと、まるで羽根でも扱うかのように持ち上げている。


「来ないのか?」


エデンさんは大剣を構え、じっと俺を見つめた。どうやら、俺が先制して仕掛けてくるのを待っているようだ。


「じゃあ……遠慮なく、いきます!」


俺は、本来なら到底敵うはずのない、圧倒的な格上の訓練相手に向かって、地を蹴り激しく駆け出した。


ーーーーーーーーー


感覚としては、そんなに経っていないだろう。

だが、俺はすでに床に大の字になって寝転がり、激しく胸を上下させて息を切らしていた。呼吸が苦しくて、喉の奥が焼けるように熱い。周りの強化床には、激しいバトルの名残である戦闘痕や、無数の切り傷が白く刻まれていた。


「やっぱ、すげ……」


エデンと死に物狂いで剣を結び合っていたが、地力のパワーとスピードが文字通り次元違いだった。

容赦なく振り下ろされる機械製の大剣の一撃一撃は、受けるたびに脳天まで響くほど重く、彼女自身の俊敏な踏み込みも相まって、防ぐ俺の腕にビリビリとした痺れが残り続けている。そしてデンドロビウム程ではないにせよ、彼女の背部にある一対の巨大なバーニアから噴射される推進力による超スピードは、目で追うだけで精一杯だった。


「少し休憩にしよう。立てるか」


冷徹に、しかしどこか気遣うように見下ろしながら、エデンさんが俺のそばまで近づき、すっと右手を差し伸ばしてくれた。

その手は彼女の肌同様に、陶器のような白に近い質感で、所々に機械国特有の幾何学的なラインが入っている。手首や指の関節には、どこか機械らしい精密なボールジョイントや機構が見え隠れしていた。だが、意を決して握ったその手は、冷たい鉄の塊などではなく、意外なほどに温かかった。

おそらく先ほどまで、俺を相手に戦闘訓練をする上で激しく動いていたため、彼女の内部ボディが熱を帯びて暖かくなっているのだろう。


「あ、ありがとうございます……。しかし、でも……やっぱり、めちゃくちゃ強いですね……」


俺は彼女の力強い引きに助けられながら、上体を起こして率直な感想を伝える。額から流れる汗を袖で拭いながら、弱音じみた問いが口を突いて出た。


「こんな実力で、俺……鬼島に行って本当に大丈夫ですかね?」

「人間族の身体にしては、よくついてきている」


エデンさんは表情を変えないまま、淡々と言葉を紡いだ。


「最初は私の速度に翻弄されっぱなしだったが、終盤は目も身体も、私の動きにしっかりと追いつきつつあった。……出発は二日後。まだ時間は残されている。怪我をしない程度に、次からはもう少し負荷を上げるぞ」

「マジっすか……。って、出発の日、決まったんですね」

「でなければ、我々もこの状況で呑気に訓練などしないだろう」


いかにも機械らしい、ぐうの音も出ないほどの正論。


「確かに、そうですね」


俺は苦笑いする。


「アレン。お前は、武器はそのままでいいのか?」


エデンさんが床に刺さっていた俺の愛剣を持ち上げ、まじまじとその刀身を見つめながら問いかけてきた。


「え、と言いますと?」

「この機械剣の使いこなし方は悪くない。手入れもしっかりしている。……だが、結局は一般的に兵士に支給されている標準武器だ。そんなありふれた物で、よくあれだけの立ち回りができるものだと思ってな」

「昔からずっと使ってますからね……。ただの支給品ですけど、それなりに愛着はあるんですよ」

「ふむ。少々、ラボで手を加えて改良しようか。流石にセシルの持つ武器のように、フルカスタムまでは行かないかもしれないがな」


エデンさんはそう言うと、ちらりと訓練室の一角に視線を移した。俺も釣られてそっちを見てみる。

その先では、セシルとセツナさんが、いよいよ凄まじい速さと威力で激しく切り結んでいるところだった。


「っし!」

「てぇい!」


セシルは槍の柄を床に突き立て、まるで棒高跳びのような滑らかなモーションでセツナの繰り出す鋭い刀身を鮮やかにかわした。そのまま空中で、ひねりを加えた勢いを乗せて槍を上段から叩きつける。セツナはそれを、右手で持っていた頑丈な棍棒で対抗するように激しく打ち上げた。

純粋なパワー、繰り出す一撃の威力はやはり鬼族のセツナが優ったのか、キィィンという激しい火花と金属音の炸裂と同時に、セシルの身体が大きく上空へ弾かれる。セシルは空中で激しく姿勢を崩しつつも、瞬時に盾から弓へと切り替え、落下しながら矢を連射した。

ここまでは先ほどの俺との訓練で見た流れではあるが。


「ふっ!」


俺とは違い、セツナは迫りくる矢を、流れるように無駄のない剣戟で全て正確に捌いていく。そして、セシルの着地点を見極めて一気に駆け抜けた。


「う、っそぉ!」


セシルは地面に着地すると同時に、姿勢を崩しつつもセツナさんの猛攻への対応を強いられる形になった。

数巡の激しい攻防ののち――。


ガギィン!


一際甲高い金属音が室内に響き渡ると同時に、セシルの手から離れた槍が宙を舞い、少し離れた床に鋭く突き刺さった。

セツナの的確な一撃が、セシルの武器を綺麗に弾き飛ばしたのだ。セシルはその場に、完全に全ての力が失われたかのようにぺたんと座り込んだ。


「はひぃ〜……。今度は結構、良い線まで行けると思ったんだけどなぁ……」


セシルは降参の意思表示のように両手をフリフリとさせた。


「いえいえ、セシル殿もお見事でした。最後の方は、私も危なかったですよ」


セツナは美しい動作で刀を納刀しながら、息を切らすセシルに優しく声をかけている。


「まさか、槍を手元で回転させてる一瞬の隙を突かれるなんて、思いもしなかったぁ」

「というより、セシル殿の守りを崩すなら、そこしかありませんでした。純粋な『速さ』だけで言えば、私といい勝負をしてます」

「いやぁ、まともに正面から撃ち合ったら、ごり押されると思ってスピードに切り替えたんだけど……。最後はやっぱり、基礎スペックが物を言うよねぇ」

「ですが、攻撃をうまく躱し、いなす技術は素晴らしいものですよ」


セツナがそっと手を貸し、セシルは少し身体が重そうに立ち上がる。


「正面からは勝てないからね。……でも、まだまだ、ここからギアを上げれるでしょ?」

「それは……そうですね。私も鬼族の端くれですから」

「くやしぃ〜!」

「こればっかりは仕方ないですよ」


少し離れた場所からではあるが、二人が互いの手応えをフィードバックし合っているのがかすかに聞こえる。やはり基礎的な肉体スペックは圧倒的に多種族に軍配が上がるが、人間の技術や工夫次第では、そこを補って良いところまで渡り合えるのだろう。


「どうだ? 特にあの盾は、デンドロビウムが言うには弓だけではないギミックが仕込まれているらしい。アレン、お前にも何か、戦術の幅を広げる別オプションがあってもいいだろう」


エデンさんが俺に向き直って言った。


「オプション、ですか」

「あぁ。剣の改良は残り時間を考えると微々たるものになるかもしれないが、もう一振りの剣でも、盾でも、あるいは遠距離用の飛び道具でもいい。なにか一つでも手札が増えた方が君のためになり、ひいては全員の生存確率を上げることに繋がる」

「確かに……」


言われてみれば、今まで自分の武器に新しくオプションを追加するなんて、あまり考えたこともなかった。


「それに、君は両利きだろう? 同程度の重さの武器であれば、左右どちらでもそつなくこなせるんじゃないか?」


どうやら彼女は訓練中、俺が状況や体勢に合わせて、無意識のうちに左右の手で剣の持ち方を変えている癖を、その精密な目でしっかりと観察していたようだ。


「なるほど……。左右で、別の武器も面白いかもしれないな……」

「ふむ。もう少しだけ休憩したら、デンドロビウムのラボへ行こう。武器を見繕わせる」

「……お気遣い、ありがとうございます。俺なら、もう動けますよ」


立ち上がると、まだ少しだけ身体が重いような気もしたが、そこは何とか表情に出さないよう隠した。


「残念ながら、君が痩せ我慢していることくらいは、私のセンサー機能で一目全だが……君がそう言うのであれば、行こう」

「す、すごいですね、その目……」

「特段、驚く事ではない。機械国〈デウステクス〉の個体は皆、同じような性能の目を持っている。すごいのは私ではなく、これを作った技術だ」


エデンさんは淡々と歩き出す。俺はその少し後ろを歩きながら、ふと、ずっと気になっていた疑問を口にしてみることにした。


「あの……これ、聞いていいのかわかんないんですけど……」

「ん、なんだ?」


エデンさんの耳元にある、近未来的で精密な円形の外部センサー機構が、ウィィンと小さな駆動音を立てて回転しながらこちらを向いた。


「どうしてエデンさんは……そんな、可愛い猫耳のついた帽子なんて被ってるんですか?」


ずっと、彼女の無機質で冷徹な雰囲気と、その帽子のギャップが不思議だったのだ。

俺の問いに、エデンさんはほんの一瞬だけ歩みを止め、それからまた静かに歩きながら呟いた。


「あぁ、そんなことか。私の旧い友人で、酷く猫が好きな者がいてな。プレゼントとしてもらったんだ」

「そ、そうだったんですね……ありがとうございます」


彼女の言う「旧い友人」がどうなったのか、その淡々とした声の響きから察してしまい、妙に気まずい空気が流れる。完全に会話のチョイスを間違えたかもしれない。俺が何とかしてこの空気を盛り上げようと、必死に次の言葉を紡ごうと焦っていると――。


「お二人とも、休憩ですか?」

「アレン、ちゃんとエデンさんに鍛えてもらったー?」


先ほどまで遠巻きに話し込んでいたセシルとセツナさんが、こちらへ向かって戻ってきた。二人ともあれだけ激しく動いていたにも関わらず、呼吸もすっかり整っており、まだまだ元気そうだ。俺だけが今も足元をふらつかせてバテているようで、少しばかり恥ずかしくなってしまう。


「今から、こいつの新しい武器でも見繕ってもらいにデンドロビウムの所へ行こうと思ってな。良ければ、二人もどうだ?」


エデンさんがそう提案した瞬間、セシルとセツナさんは一斉にパッと楽しそうな表情を浮かべた。


「私も行く行く!」

「セシル殿の盾のギミックや、エデン殿の武器がどのように作られているのか、私も非常に興味があります。ぜひ同行させてください」

「決まりだな。ついて来い」


エデンさんの先導のもと、俺たちは賑やかな声を響かせながら、ひんやりとした無機質な訓練室を後にした。

皆さま、どうもです!&初めまして!

みゃ~むら、です。

今回もお読みいただき誠にありがとうございました。

感想やスタンプなどお待ちしております。


しっかし、かなり夏らしくなってきましたね。

雨が降っても涼しくなるのではなく、じめっと蒸し暑い季節になりました。

皆さんも忘れず水分補給や栄養摂取を怠らずお過ごしください。


夏と言えば、皆様は何を思い浮かべるでしょうか?

プールに夏祭り、人によっては部活や大会、お盆の帰省や、レジャーなどでしょうか。

今年は自分もなにか夏らしいことでもしようかなと考えております。

暑さに負けず、この季節を楽しみましょうね!!

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