赫い戦場 sideアレン(part34)
「おいおい……マジかよ……?」
鬼島にある小高い丘の上。吹き抜ける潮風の中で、ユーグは驚愕に目を見張りながらも、口角を微かに吊り上げてニヤけていた。
それは機械国の巨大兵器『デンドロビウム』を発見したからでも、鬼族の長たるラセツの片割れ——セツナの姿を捉えたからでもない。
自身が島内に作り上げておいた巨大な魔素溜まりが、空間ごと焼き尽くすような圧倒的で暴力的な光に飲み込まれ、今まさに消滅しようとしていたからだ。
目線を遥か遠方——水平線の彼方へと凝らす。
空間を切り裂いた光線を生み出した元凶は、肉眼では捉えることすら困難なほどの超遠距離から放たれた高密度の超高出力砲撃。遠海に微かに揺らめいていた。
無論、ユーグの機動力であれば、そこへ向かい直接叩き潰すことなど決して不可能な距離ではない。だが、今の優先事項は何よりも島内での作戦とその盤面であった。
立ち上る猛烈な熱気と白煙を見つめていたユーグだったが、やがてその顔には、いつもの不遜で獰猛な笑みが戻っていく。
「……ハッ、面白くなってきやがった」
まさか、己が創り上げた魔素の結晶がこれほどあっけなく破壊されるとは思いもしなかった。というより、これほど大胆な手を打ってくるとは想定の外だ。
思っていた以上に、機械国の連中は牙を研いできているらしい。それに、あれほどの長距離殲滅兵器を持ち込んでくる程度には、本気でこの俺を殺しにきているということだ。
「いいじゃねぇか……滾ってきたぜ」
向こうがその気なら、こちらも相応の歓待をしてやろう。まずは、あいつらから潰すか。
ユーグは遠くの戦火を見据えると、地面を強く踏み抜き、漆黒の魔素を爆発的に吹き出させながら空高くと飛び立った。
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「左前方っ!」
「迎撃します!」
「任せた!」
空を裂いた眩い光線。それが合図であったかのように、俺たちは鬼島の集落跡へと雪崩れ込んでいた。
だが、そこに屯していたのは当然ながら赫き鬼たちではない。この島にはおよそ似つかわしくない、どす黒い魔素で形成された魔人たちの群れだ。占領した集落を我が物顔で汚しているのだ。
天を穿つ奇襲の閃光に驚愕し、混乱に陥っている今こそが勝機だ。奴らが体勢を立て直して警戒を開始する前に、少しでも数を減らす。
島の南端に鎮座していた巨大な魔素溜まりは、事前に行われたデンドロビウムさんたちのシミュレーション通り、ピピによる長距離狙撃型エネルギー砲が見事に撃ち抜いてくれたようだ。
青空を突き進んだ光の奔流は、なす術もなく魔素溜まりを飲み込み、跡形もなく消し炭へと変えていた。
「ここを拠点にしている奴らを殲滅しろっ!!」
最前線を爆進するエデンさんの凛とした叫びが、硝煙の立ち込める戦場に高く響き渡る。
混戦に乗じて不意を突こうと迫り来る不届き者どもを、俺たちは片端から迎撃していく。
「アレン、来るよっ!」
「あぁ、わかってるっ!」
セシルと俺は、エデンさんの両脇を固めるように陣を張り、群がる魔人たちを蹴散らしていく。
刃先に薄く広がるように人工魔素を纏わせた機械剣で、迫り来る魔人たちを両断していった。
今回の強襲において、俺たちはデンドロビウムさん、ハバキリ、フェリクセンの組と二手に分かれていた。
二つの出入り口が存在する集落跡に対し、挟撃の形をとったのだ。小隊に分かれた方がより早く効率的に殲滅できるというシミュレーションの元での判断だった。今頃、反対側の陣営でも同じように進軍を開始しているに違いない。
それに、他の部隊もそうだ。この眩い閃光を合図に、一斉に攻め込んでいるはずだ。
ナタクの部隊、そしてセツナさん擁する本隊も、それぞれの目標地点へ向かって攻撃を開始しているだろう。
まさか、セツナさん本陣から届いた矢文に「長距離射撃による一撃を突撃の合図とする」と記されていた時は目を見張ったが、これほど鮮やかに決まるとは思わなかった。
度重なる実戦と過酷な戦闘訓練のおかげで、重厚な空気の中でも身体は驚くほど軽やかに反応してくれていた。
原型を保てなくなった魔人たちが黒い霧となって霧散していく中、その有害な魔素を極力吸い込まないよう絶えず足を動かす。間合いを盗み、距離を詰め、容赦なく刃を叩き込んでいく。
セシルも同様の鮮やかな立ち回りを見せていた。
近接型の魔人に対しては不必要に間合いを詰めず、槍の長いリーチを生かして一方的に突きと払いを見舞っていく。
オレの新たに腕へ装着された可変機構も、実戦の随所で完璧に機能していた。
時には鋭利な剣として、時には打撃を受け止める厚い盾として臨機応変に姿を変え、立ち回る。まるで体の一部であるかのように馴染んでいた。
船上でも痛感したが、機械国の技術というのは本当に恐ろしいほどの完成度だ。
「アレンっ!!」
突如、セシルの切迫した叫びが耳の鼓膜を激しく揺らした。
だがそれは、連携の合図ではなく——俺に対する切実な警告だった。
視線を瞬時に前方へ戻す。そこにはすでに、空気を切り裂いて迫る漆黒の魔素弾が幾重にも押し寄せてきていた。
「うわっ……!?」
第一弾を滑り込むような紙一重の体さばきで回避する。だが、間髪入れずに襲い来る次弾の群れをかわし切る猶予はない。
慌てて腕のシールドを展開しようと、腕を前方に突き出すが——。
(まずい……っ! 展開が間に合わない……っ!)
死を予感した刹那、つんざくような激しい破壊音と衝撃波が眼前で爆ぜた。
直撃を覚悟してギュッと両目を瞑る。……しかし、体躯を砕くはずの絶望的な衝撃は、いくら待っても訪れなかった。
視界を覆う黒煙と火花の中、恐る恐る目を開ける。
俺の目の前には——漆黒の爆風を受け止め、屹立するエデンさんの背中があった。
「……大丈夫か?」
背後を振り返ることもなく、まるで何事もなかったかのように平然と問いかけてくる。
彼女が広げた高密度のバリアシールドが、迫り来る魔素弾の群れを完全に雲散霧消させてくれたようだった。
艶やかな黒髪を潮風に揺らし、エデンさんはこちらへ振り向くと、胸を撫で下ろす俺たちへ軽く微笑みかけながら口を開いた。
「この程度で、被弾するわけにはいかないな」
次の瞬間、エデンさんが爆発的な加速をかけた。
彼女が踏み切った足元からは、散らされた人工魔素と土煙が爆風となって激しく舞い上がる。人の身では到底到達できない、圧倒的な領域の速度。
後方からネチネチと魔素弾を飛ばして射撃戦を仕掛けてくる魔人らの群れへ、一気に肉薄しに行ったのだ。
敵陣営は焦燥に駆られ、突進してくるエデンさんへ集中砲火を浴びせる。
しかし彼女は、迫り来る黒い弾幕を最小限の体さばきで滑らかにかわし、弾道を紙一重で押し流しながら突進を止めない。
俺やセシルへ跳弾が飛んでこないよう計算し尽くされた完璧な立ち回り。
どんなに脚力を鍛えても追いつけない、圧倒的な距離感。
これこそが、機械人形であるエデンさんの本領発揮だ。
勢いとスピードを殺すことなく敵の懐へと飛び込んだ彼女は、至近距離から放たれた魔素の火器すら見切り、残像を残しながら後方の遠距離部隊を一網打尽にしていく。
「すげぇ」
「ね……。私たちもいつか、あんな風に強くなれるのかな……」
「……だな」
圧倒的な背中に気圧されつつも、俺たちは目の前に群がり続ける魔人たちとの泥臭い近接戦闘に意識を集中させた。
皆様、どうも&初めまして!
みゃ〜むら、と申します。
お読みいただきありがとうございました。
感想、レビューお待ちしております。
えー申し訳ないです。
普通に三連休を堪能しておりました。
執筆全くしてませんでした()。
なんてこったい。今日からまた一念発起やらせて頂きます。頑張るぞい。
ではまた次回〜




