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インフィヌート ~ダンジョンで倒れた冒険者を救う者の物語~  作者: コヨコヨ


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ただ切られただけ

 そのまま、ヴィミはレオンの作戦通りに動く。ときおりフェイントを混ぜ込み、アントナイフの刃がドリミアの頬をかすめる程度に戦い慣れていた。

【障壁】と衝突するアントナイフは砕け散らず、形を保っている。脱力しながら戦えている証拠だ。

 戦闘民族と名高い虎人は人間よりはるかに戦いに優れた感覚と肉体を持っている。それに加え、ドリミアが危険視するほどの才能を持ち合わせていた。

 ヴィミは体に蓄積された経験と死線の緊張感を糧に、戦闘能力が急激に成長していく。


「戦闘面でコツを掴み始めたか……。これだから、戦闘狂の獣族と戦うのは嫌いなんだ」


 ドリミアは顔を顰め、頬を伝う血を手でぬぐう。


「性欲が強い獣族と遊ぶのは大好きなんだろう。だったら、もっと私の相手してくれよっ」


 ヴィミはステージの上で優雅に踊る舞姫のようにしなやかに体を動かし、緩急のついた攻撃でドリミアを翻弄する。ときおり【獣拳】でドリミアの瞳を乾燥させるそよ風を生み出し、身にまとう鎧にアントナイフの刃を次々当てていく。

 本体へのダメージは入っていない。だが【予知】【障壁】【風鎧】の連係攻撃に慣れ始めた。


「くっ……、これじゃあ、可愛げの欠片もない。ただの猛獣じゃないか」


 ドリミアはヴィミの相手で手一杯になり、いつの間にかレオンに視線を送れなくなった。【予知】【障壁】で二名の攻撃をさばききるのに手こずり始める。


 ドリミアがヴィミに集中している間、レオンが持つアントナイフがドリミアの腎臓付近に突き刺さる。抜き取ると同時に細いアントナイフを刺し込み【自然回復】の効果を少しでも弱めた。


「あぁ、こざかしい。ほんと、こざかしい。Lv.1とLv.2の雑魚二人に、何を手こずっているんだ。私はLv.6だぞ。こんなことあり得ない……。あり得るわけがない」


 ドリミアはすでにレオンに背後を七回刺された。【自然回復】の影響で致命傷に至らない。血も一分以内に止まる。


 ――あと少し、あと少しだ。


 レオンは攻撃と回避を繰り返し、八本の細いアントナイフを全てドリミアの背中に差し込み終えた。


 ――刃渡りが短いといえ、まさか八本も背中に刺さっているのに気が付かないなんて。でも、ドリミアさんは戦い初めより明らかに体の動きが鈍くなっている。大量の出血や傷による疲労が蓄積しているんだ。


 レオンの鋭い観察眼が、ドリミアを射抜く。だが、疲労が溜まっているのは、ドリミアだけではなかった。


「も、もう、体が……」


 ヴィミは電気を当てられているようにピクリピクリと身を震わせ、股を閉じる。尻尾が高く上がり、尿意を我慢している女の子のようだ。顔も熱っており、白い肌がほのかに赤らんでいる。


 ――ヴィミの【獣化】の効果が切れかかっている。デメリットが大きすぎるから、彼女は本当に信頼した仲間にしか《レアスキル》を教えていないはずだ。なら、ドリミアさんはまだ気づいてない。


「やはり、私がこれだけ消耗しているんだ。二人が疲労を感じていないわけがないよね」


 今、確実に一人消し去れば、それで勝利が確定するほど均衡が崩れる状況を見逃すほどドリミアは落ちぶれておらず、一目散に反応した。走るたびに歯を食いしばり、体がきしんでいる。


「ヴィミちゃん、私の色気に当てられて、発情しちゃったのかなっ」


 ドリミアは背後に【障壁】を展開させ、攻撃を事前に防止。前方は剣の邪魔にならないよう、吹き曝しの状態。


 ヴィミは未だに《レアスキル》の影響で彫刻のように艶やかな脚が小刻みに震えている。大きくなった瞳が揺れ、体がその場から動かない。ドリミアの接近を安易に許した。


 ――ここだっ。


 レオンはアントナイフをドリミアの背後に目掛けて勢いよく投げる。


 ドリミアが剣を振り上げると同時、半球状に感覚が広がっている【予知】が反応し、彼の身がピクリと震えた。

 背後に展開させた【障壁】にアントナイフが衝突する音が鳴る。

 ドリミアは動きが俊敏なレオンを無視し、先にヴィミを狙った。背後を振り向くことすらせず隙だらけのヴィミに両手で持った剣を勢いよく振るう。


「僕がヴィミを守るんだ」


 黒い髪を靡かせ、淀みのない綺麗な黒い瞳を輝かせるレオンは【障壁】に攻撃が防がれる瞬間を見計らい、ドリミアの目の前に現れる。腰に着けていたウルフナイフの柄を逆手に掴む。剣が迫る前に左わき腹から右肩に掛けて勢いよく振り抜いた。

 熱を帯びているヴィミの体を抱きしめながら風の刃を回避し、地面を転がった後にドリミアに視線を向ける。


「は……、え?」


 銀色の鎧に細い線が一本入り、サンドイッチからはみ出すケチャップのように血が吹き出す。ドリミアの背後にアントナイフが落ちた。


「な、なんで、レオンくんの攻撃に【予知】が反応しなかった? ち、血が止まらない、なぜだ……?」


 ドリミアはその場に跪き、両手を地面につける。口から勝手に真っ赤な血があふれだした。息を吸っても肺が真面に膨らまず、息がかぼそくなる。


「なにが……、どうなって。ただ、切られただけだ……」


 彼は腕や脚から力が抜け、前のめりに倒れ込む。指一本動かなくなった。

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