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インフィヌート ~ダンジョンで倒れた冒険者を救う者の物語~  作者: コヨコヨ


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罪から逃れる

「酔っぱらった冒険者たちを一〇層に連れていける者は多くない。まして、ブラッドウルフをおびき出して僕たちに的確に襲わせることだって普通の冒険者じゃできない。なにより、右肩についていた傷が、ナイフの幅と同じだった」

「いったい、何のことを言っているのかさっぱりわからないなぁ。あと、体にナイフの跡がある冒険者は、大量にいるよ」


 ドリミアが犯人だと決定づける根拠が不足しているレオンは口をつぐむ。


 ドリミアはスッパリと亀裂が入っている鎧を撫で、目を見開く。手首に傷がついていたが血は止まっていた。


「レオンくんの持っているナイフ、ほんとよく切れるね……」

「このおかげで、僕も戦えるようになりました」


 レオンが時間を稼いでいる間、ヴィミは立ち上がる。それと同時、彼の手を持ち上げる。

 アントナイフに付着した血のにおいをすんすんと嗅ぎ、ねっとりと付着している血を舌でそっと舐めとる。腐った食べ物が口に入った時のように、咄嗟に吐き出した。


「偽宝部屋に落ちていたアントナイフについていた糞不味い血の味は、これと同じだ」


 ヴィミの感覚の鋭さはレオンもよく知っている。体に入っていた力が抜け、泣きそうな瞳で尊敬していた冒険者を見つめる。


「ドリミアさんが犯人なんですね……」


 ドリミアも薄ら笑いが固まり、彫刻のように止まった。


「はぁ……、もういいか。どうせ、この場で全員殺すんだ」


 ドリミアは肩の荷を下ろしたように脱力する。そのまま、左腰についている剣の鞘を左手で握った。


「才能のあるやつがいるとね、ダンジョンで稼ぎづらいし犯罪しにくいんだよね。そうなるとレベルもあげずらくなっちゃうんだよ。バカみたいに魔物をちまちま狩っていても、レベルってなかなか上がらないんだ」


 彼は表情の上っ面をはぐように前髪をかき上げる。目を見開きながら口角を上げ、吹っ切れた。


「ああ、そうそう、まだ、私のレベル上げ研修していなかったね」


 彼は剣の柄を右手で握りしめ、鞘から引き抜く。


「一番効率よくレベルを上げる方法。それはね人間を殺すことなんだよ」


 彼は防御する気がない肉弾突撃を図った。


 レオンとヴィミは回避できる移動速度だが、背後にいる怪我を負ったノーリスとリンは素早い動きが取れない。


 ――ここで攻撃を躱したら後ろの三人に攻撃されるかもしれない。僕とヴィミで、皆が逃げる時間を作らないと。


「ヴィミ、ドリミアさんは《レアスキル》で僕たちの『力』の値を下げてくる。肉弾戦じゃ、分が悪い。でも、これなら攻撃が通るみたいだ」


 レオンは二本の大型のアントナイフをヴィミに手渡した。


「【予知】で攻撃も予測してくる。【風鎧】で風の斬撃も飛んでくる。ただ、僕の速度に体と風の斬撃が追いつけていなかった。そこを付ければ、僕たちでもLv.6に勝てるはずだ」

「私、まだレオンと仕事するつもりがないんだけど……」


 ヴィミはミントのにおいを嗅いだ時のように鼻先をつんと上げ、レオンにそっぽを向く。

 だが、彼からアントナイフを受け取り両手で握りしめた。


「でも、あの糞野郎を野放しにしておくわけにもいかないし、今だけ手を貸してあげるわ。今の私の速度じゃ、全て見切られる。なら【獣化】するしかない。レオン、絶対に手を出さないでよ」

「わかっているよ。僕はそんなのに頼らない。正々堂々と素面のヴィミと……」


 レオンは頭を振るい、咳払いした。何も言わず、ドリミアに視線を向け続ける。


「ノーリス、カリー、リンはダルシーとパックスを探して。見つけ次第、一七層から一八層に非難するんだ」

「動けないやつは邪魔だから、さっさとどこかに行っていなさい。あと、あのパックスって男、臭いわ。ダルシーって女を早く見つけないと、どうなるかわからないわよ。これは私たちの戦いだから、部外者はすっこんでいて」


 ノーリスたちは視線を合わせ、大きく頷く。すぐに捜索に移った。


「さあ、どこからでも掛かってきなよっ」


 ドリミアの剣は力任せの大ぶり。フレアリザードの攻撃よりも遅い。


 ――あからさま過ぎる。何か狙いがあるか?


 レオンとヴィミはカウンターを放ち、アントナイフを銀色の鎧に当てようとする。

 だが、同時にドリミアの口角がグッと上がる。

 

「【障壁】」


 淡く光る物体が空中に生まれ、鎧と刃の間に挟まる。アントナイフは蝶番が軋むような音を鳴らし、鎧まで刃が届かなかった。


 ドリミアの体に纏わりつく風の鎧が攻撃に反応し、レオンとヴィミの目の前に風の刃を飛ばす。


 一度見ていたヴィミは完璧に躱しきり、レオンも身をのけぞらせるように無理やり回避。


 攻撃の流れが止まったレオンとヴィミはドリミアからいったん距離を取り、出方を窺う。


「まさか、私の《レアスキル》【英雄の盾】に干渉せず、攻撃を与えられる方法があると知らなかったよ」

「この武器は魔物本来の力が宿っていますから人間の《アビリティ》の値と関係がないようですね」

「でも《魔法》の【障壁】の方は破壊できないみたいだね」


 ドリミアは手の平に長方形の半透明な板を生み出す。変幻自在で、光の粒となって消える。


「にしても、おかしいな《スキル》【カウンター】が発動しているはずなのに風の刃がこうも外れるとは。こんなの初めてだよ。だいたい、真実を知った者はスッパリ逝っちゃうのに」


 右手に持った剣を肩に乗せ、表情に余裕が戻る。


「レベル上げやお金のために人を殺すなんて……、いったい何を考えているの、あんた」


 ヴィミはドリミアにアントナイフの穂先を向け続け、汚物を見るような視線で睨みつける。


「私が殺したんじゃない『インフィヌート』が冒険者を殺したんだ。私は何も悪いことしていないんだよ。皆、勝手に潜って、魔物や罠に殺されたんだ」


 ドリミアは政治家の演説のように通る声で自己主張を始めた。淀みのない瞳から、罪悪感はうかがえない。


 ――全ての罪をダンジョンに擦りつければ、罪から逃れられるとでも思っているのか。そんなこと、許されるわけがない。

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