第22話 トレメス
俺たちはのんびりと移動し数日。
ついに最初の目的地、オードリアに到着した。
「ここがオードリアか。大きいな」
街は高い城壁で囲まれていて、高さ10mはくだらない。
結構な大きさでそれが続くので、かなり大きな街だと分かる。
そんな城壁を見ていると、シーナが話しかけてくる。
「ですねぇ。でもこれだけの大きさの割に人が少ないような……?」
「そうなのか?」
「はい。いろんな街を見てきたんですけど、これだけ大きいならもうちょっと人の出入りがあってもいいような」
シーナの視線の先は街に出入りするための列だ。
並んでいるのは10人くらいで、確かに少ない気がする。
「中に入ってみてからだ。危ないようなら飯だけ食ってすぐに出よう」
「わかりました」
ということで俺たちは列に並び、検査もすぐに終わって中に入った。
「なんだか……寂れてる?」
「でも、貴族みたいなきれいな服を着た人もいますね」
街の住民の割合……服の裕福度だけれど、貴族とか、商人らしき人たちが1割、平民くらいの服の人が5割、残りは貧民……と言っていいのかわからないがボロボロな服だ。
「これは……寂れているのか?」
「他の街では普通豊かでない人は裏通りにいますので……これは多い気がします」
「……ならさっさと店に行こう」
金ならあるんや。
1000万ゴルのマネーパワーを見せつけてやる。
「そういえば、なんてお店なんですか?」
「《トレメス》という店だ」
「では早速探しましょう」
「ああ」
ということで俺たちは《トレメス》という店を探しはじめた。
圧倒的に有名だからすぐに見つかった。
店構えはとても高級感が漂い、2階建ての白亜の宮殿みたいだ。
店の前にはギャルソンらしき燕尾服の男と、その護衛らしき冒険者が2人立っていた。
「ラッキーだな。並んでいないとは」
「……あんまりいい予感はしませんが、行ってみますか」
「?」
俺が彼らの元に向かうと、彼は深く頭を下げてくる。
「ようこそいらっしゃいました。ご予約のお名前を伺ってもよろしいですか?」
「予約……?」
「はい。当店は予約制となっております」
誰も並んでいない理由はそういうことだったのか。
確かに、全部予約でしか入れないのであれば仕方ない。
ただ、予約すればすむ話だ。
「そうか、予約はしていない。ので、次に早く入れる予約はいつだ?」
「新規……ということになりますと、1年半後になります」
「ん?」
俺は今耳に入ってきた情報が信じられず、思わず聞き返す。
「次の空きは1年半後となっております。よろしいですか?」
「……少し考えます」
「かしこまりました」
俺は何とか彼から離れるまで耐え、うつむきため息が出る。
「はぁ……1年半後……嘘だろう……?」
「それだけ人気ということなんですよ。ゆっくり待ちますか?」
時間感覚がやはりエルフなのだろうか。
シーナはそれだけの時間を言われても動揺した様子はない。
「なんとか……早く食べたい。なにか方法はないのか……」
俺がそう言ったのを聞きつけたのか、冒険者らしき男が話しかけてきた。
「おや、あんちゃん。《トレメス》で食事をしたいのか?」
彼の服は所々汚れているが平民と言われても納得はできる、武器も持っているし所作はチンピラっぽいけど。
表情は人にあまり好かれなさそうな笑顔を浮かべて、俺に近づいてくる。
ただ、その視線はシーナの耳や顔をチラチラと見ているのが分かった。
「ああ、1年半後と言われてしまってな」
「なんだいなんだい。そりゃあ大変だなぁ。オレがいい方法を知ってんだ。教えてやろうか」
「いい方法?」
「オレに伝手があってな。ついてきてくれや」
彼はそう言って俺の肩に手を回してついてくるように歩き出す。
「いいが……見返りはなんだ?」
「見返り? いいってことよ。気にするな。オレとお前の仲じゃないか」
絶対……絶対に怪しい。
でもまぁ……もし本当に伝手があった場合うれしいからついていくか。
「そうか。なら案内してもらおう。後、肩は組まないでくれ」
「そうかい。ならこっちだぜ」
彼は案外すっと肩を外して、裏道へと入っていく。
裏道は結構狭く、確かに肩を組んで並んで進むことはできないだろう。
そして、ある程度進んだ所で、ちょっとした広場に出る。
そこには、剣や槍を持った男たちが待ち構えていた。
「これはどういうことだ?」
「いやぁ……そこにいるのエルフだろ? しかも、《トレメス》に行こうとしている。金持ってますよって言ってるもんじゃねぇか!」
「だからよ。金とその女置いてさっさと消えな。そしたら命だけは助けてやるよ」
「断る。シーナは誰にも渡さん」
「エ、エクスさん!?」
「じゃあ死ねやぁ!」
チンピラは数人がかりで俺たちに襲い掛かってきた。