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ぐしゃりぐしゃぐしゃ :約500文字
アスファルトの上に吐き散らされたゲロ。そこに群がる小さな虫たち。
わたしは足を少し上げて、ゆっくりと踏み潰した。
ぐしゃぐしゃぐしゃぐしゃ。
ぺしゃんこになった虫たち。
おろか、おろか。
おろかなのは踏まれたほうでしょうか。
それとも踏んだほうでしょうか。
風が吹き抜ける。冷たくて、痛い。
嫌な臭いが鼻の奥を刺し、目が染みる。でも、もう涙は出ない。
黒い煙が昇る。
まるで空を真っ黒にしちゃうんじゃないかと思うくらい、真っ黒なそれが、車だったものから激しく立ち上る。
その煙を目印に、遠くからサイレンの音が近づいてくる。
ぐしゃ。
たった今、わたしの家族をぐしゃぐしゃにしたこの男。
血混じりのゲロのそばに、虫の息で転がるこの男。
警察が来る前に、私は踏むべきでしょうか。
この喉をぐしゃりと踏むべきでしょうか。
復讐は本当におろかでしょうか。
ぐしゃり、ぐしゃぐしゃ。




