表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雉白書屋短編集  作者: 雉白書屋


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
72/709

人の家のトイレ       :約1000文字

「くっそー負けたー!」

「ははは!」


 とある一軒家。少年たちの快活な笑い声が響く。


「あー、トイレ借りるな。メンタルリセット!」

「ははは、部屋出て左ね」


 少年はおどけた踊りを見せながら部屋を出た。

 廊下を進み、ドアを開ける。


 ……あ、間違えた。けど合ってた。右じゃん。なんだあいつ、馬鹿かよ。

 少年はふっと笑うと、便器の蓋を開け、腰を下ろした。


 それにしても、人の家のトイレって、使うほうも使われるほうもちょっと嫌だよなあ。なんていうか、変な感じ。まあ、家自体もそうか。どこか行動を縛られてるような……。こいつんちは特になあ。古いし、ドアとか多いし……。

 そんなことを考えながらも、少年はしっかりと用を足し、トイレットペーパーに手を伸ばした。

 その瞬間だった。

 視界の端に何か黒いものが映った。


「うおっ」


 視線を下に落とした少年は思わず声を上げた。

 壁にゴキブリが張り付いていたのだ。

 少年は一瞬固まったものの、すぐに気を取り直し、静かにトイレットペーパーを巻き取った。


 ……よし、こいつはここで始末しておくか。そして、このことは心の中にしまっておこう。指摘したら気まずくさせるだろうしな。うーん、おれはなんていい友達なんだ。

 己を讃えつつ、尻を拭く。拭き終わると再びトイレットペーパーを巻き取り、身をかがめた。

 そして、そっとゴキブリへと手を伸ばす。

 だが、少年は違和感に気づいた。


 変だな……。全然逃げないぞ。微動だにしない。鈍いのか? まあ、それならそれでいいか。サッと掴んで、便器の中に……。


 ……取れない。


 ゴキブリは、壁に張り付いているのではなかった。


 これ……釘?


 背中の中心に、一本の釘がめり込んでいた。

 黒い翅の上に、錆びた釘の頭が丸く鈍く光っていた。


 なんで……?


 少年はトイレットペーパー越しに、釘の表面を指でなぞった。

 その瞬間――


「……っ!」


 ドアをノックする音がした。

 ビクリと肩を跳ねさせ、少年は思わず顔を上げる。


「あ……」


 そして、その視界に映ったものに少年の思考は凍りついた。

 トイレの壁の上部――そこには、おびただしい数の釘が打ち込まれていた。

 無秩序に。そのいくつかには、干乾びたヤモリやゴキブリの欠片が残っていた。

 ノックの衝撃で、釘に引っ掛かっていた虫の胴体が床に落ち、カサッと音を立てた。

 ノックの音は、氷を打ち砕くかのように重かった。それは手で叩いているというより、何か鈍器のようなもので……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ