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雉白書屋短編集  作者: 雉白書屋


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首だけ地蔵         :約4500文字

 私が小学生の時の話です。友達と墓場で遊んでいたら……。ああ、と言っても入り口付近の開けた場所ですよ。別に墓石に悪さとかしてませんからね。

 茂みでお地蔵さんを拾ったんです……あ、拾ったと言っても首だけです。あはは、私そんな怪力じゃありませんから。多分誰かが壊したんでしょうね、胴体は見つかりませんでした。

 で、友達 これは、私が小学生のときの話です。友達と墓場で遊んでいたら……。ああ、もちろん、入り口付近の開けた場所で、ですよ。別にお墓に悪さしてませんからね。

 それで、茂みの中で何か妙なもの蹴ったんです。石にしては丸いな、と思い近づいて見ると、それはお地蔵さんの首でした……。ええ、首だけです。たぶん、誰かが壊したんでしょうね。ちなみに胴体は見当たりませんでした。

 友達と二人で「これ、どうしよう?」と相談し合っていたら、ふと頭に浮かんだんです、妙案が。


 ――怖い話を作って、みんなに広めちゃおう。


 ちょうどその頃、夏休みが近づいていて、クラスで怖い話が流行っていたんです。私は「これ、ちょっと面白くない?」と提案しました。友達もすぐに乗ってきて、そこからは行動が早かったですね。噂話を作って、友達、クラスメイト、同塾生、大人にまで、「これ聞いた話なんだけど……」と広めていきました。

 その噂はこうです――『その首だけのお地蔵さんをじっと見つめ続けると、自分で自分の首を絞めてしまう』。シンプルですよね? でも、このほうが覚えやすくて、派生もしやすいかなって思ったんです。思ったとおり、いろいろと付け足されたみたいですよ。『見つめている間、好きな人を思い浮かべると、その人も死んでしまう』とか『見つめなくても、心の中で三回念仏を唱えないと不幸なことが起きる』とか、『家の庭に落ちてるときもある』や『そのお地蔵さんの周りは虫の死骸がたくさんある』とか。

 まあ、可愛いものですよね。ああ、そう言えば、『通学路の途中にある大きな岩の下には、犬の死体があって、岩に触ると呪われる』なんて噂もありましたね。結構信じちゃうものなんですよね、怖い話って。万が一、損したくないからですかね。

 まあ、小さい町で、有名なものもなかったからというのもあったかもしれませんが、噂は順調に広まっていきました。


 それで、夏休みに入ってしばらく経ち、その噂を忘れた頃です。テレビを何気なくつけたら驚きました。見覚えのある景色が映っていたんです。

 ええ、あの墓場でした。私は「えっ」と声を上げ、慌ててテレビに近寄り、食い入るように見始めました。

 それは、怖い話の噂を検証する番組で、なんと、あのお地蔵さんの首が映し出されたのです。

 それで、お笑い芸人の方でしょうか? ちょっと疎いので、どなたかわからなかったのですが、その方が実際に検証することになったんです。彼がお地蔵さんをじっと見つめていると……突然、「うっ!」と苦しそうに自分の首を絞め始めました。

 でも、なんだか少し滑稽でしたね。正直、演技があまり上手じゃありませんでしたから……。出演者の皆さんも笑ってました。

 怖がってほしかったのに、と少し残念な気持ちはありましたが、私は嬉しくてたまりませんでした。とうとうここまで来たか、と不思議と感慨深い気持ちになり、すぐにあの友達に電話して、喜びを分かち合いました。


 でも、その噂がただの冗談ではなくなったのは、それから間もなくのことです。

 夜、墓場に行った子供たちが、実際に話通りの体験をしたのです。

 幸いにもその子供たちはうまく逃れましたが、その話は瞬く間に町中に広まりました。

 そして、ついに犠牲者が出てしまったのです。

 ある朝、あの墓場で男性が一人、遺体で発見されました。死因はおそらく首を絞めたことによる窒息死。現場は一時的に進入禁止になり、私は現場検証する様子を野次馬に紛れて見ていました。

 警察は、この事件を『噂話を利用した殺人』と見ていたようです。でも結局、自殺として処理されました。証拠らしいものが何一つ見つからなかったのだとか。

 その後、あのお地蔵さんの首は警察に回収されたらしく、行方は分からなくなりました。

 私も、あの件は噂話に託けた殺人だと思っています。

 ……あ、でもね、噂は本当なんですよ。私が作った話ですけど、でも本物になったんです。子供たちだって体験しましたから。

 それも子供たちの作り話……と言いたいんでしょう? でも、本当ですよ。だって、その子供たちの中に私、いましたから。ええ、実際に体験しました。

 本当に怖かったです。そのお地蔵さんを見つめていると……いえ、見つめられていると、まるで痺れたときのように手の感覚がなくなり、勝手に動き始めたんです。

 ――目を閉じられない。逸らせもしない。ダメ……。

 他の子がお地蔵さんにハンカチを投げて被せてくれたことで命拾いしましたが、あの感覚は今でも忘れられません。一人きりだったら、たぶん死んでいたでしょう。


 ……え、「じゃあ、どうして殺人だと思うのか」ですか? お地蔵さんの仕業だったんだろうって?

 それは、あり得ないことだからです。だって……あのあと、私が入れ替えたんです。お地蔵さんの首を、別の首と。危険だと思ったからです。これでも責任感は強いほうでしたから。

 大変でしたよ。ハンマーを使って、うまく首が取れるように壊したんですけど、手がもうマメだらけになりましたし、誰かに見つかったらと思うと怖かったですね……。

 噂のお地蔵さんの首はその後、私が家に持ち帰って、箱に入れて大事に保管していました。いつか、みんなが噂を忘れて、効力を失いますようにって。

 でも先日、恋人がその箱を開けてしまって……。なぜって? うーん、どうやら私の浮気の証拠でも探していたみたいですよ。え、実際に浮気していたのかって? そんな話、どうでもいいじゃないですか。


 さ、それより私の話を信じてくれますか、刑事さん。あなた、あの日の現場検証にいましたよね? 私、よく覚えてます。だって不思議だったんですよ。どうしてあの夜、あの男性を殺した人が、現場で指揮を取っているのかと。

 え? どうしてあの場にいたか? ふふふ、犯人は現場に戻るっていいますよね。すり替えた首が気になって、つい時々様子を見に行っていたんです。それであの夜、タイミングよく見ちゃったんですよ。

 それにしても、ふふふ……。タオルで首を絞めると痕があまり残らないんですね。感服しました。その後の処理の仕方もええ、ん? 地蔵の首? ふふふ、さあ、今どこにあるんでしょうね。

 今日はお呼び立てして申し訳ありませんでした。では、彼の件はうまく、そうですね、自殺ということでお願いしますね。

 うふふ、約束ですよ。目を逸らさないでくださいね……。と二人でこれどうしようかと考えていたら、ふと頭に浮かんだんです妙案が。

 怖い話を作ってみんなに広めようって。ちょうど季節は夏で自分の中で怖い話のブームが来ていたので思いついたのでしょうね。

 行動は早かったですねぇ。友達、クラスメイト、同塾生、近所のおばちゃん。これ聞いた話なんだけど……から始まり私たちは誰彼構わず話を広めていきました。


 夏休みに入り、その事を忘れた頃。テレビを点けると見覚えのある景色が映りました。

 あの墓場です。えっ、と声を上げ私は慌ててテレビの前に駆け寄りました。怖い話の噂を検証する番組のようでした。もしやと思うとやっぱりです。あの首だけのお地蔵さんが映されました。ナレーションは私たちが広めた噂話そのままでした。


『そのお地蔵さんから目を逸らさずにじっと見つめていると、やがて自分で自分の首を絞めて死んでしまう』というものです。シンプルでいいでしょう。後から付け足しやすいですし、頭の中で映像が浮かびやすいですから。

 お笑い芸人の方でしょうか、ちょっと疎いので、どなたかわからなかったのですが、その方が検証を行うようです。

 じっと見つめると突然、うっ!と自分で自分の首を絞め始めました。なんだか少し滑稽でしたね。演技がその、あまり上手じゃなかったものですから……。出演者の皆さんも笑っていました。

 怖がって欲しかったのに、と残念な気持ちはありましたが嬉しい気持ちのほうが勝ってました。とうとうここまで来たか、と。私は一緒に考えた友達に電話し、喜びを分かち合いました。


 それから間もなくのことです。噂が本当だという話が出始めました。

 夜、そのお地蔵さんを見に行った子供たちが実際に話通りの体験をしたのです。

 その子供たちはうまく逃れたそうですが、その話は時間が経つにつれ、広まっていきました。


 そして、ある朝のことです。

 男性が一人、あの墓場で死んでいるところを発見されました。墓場には進入禁止のテープが張られ現場検証がされていました。私はその様子を野次馬に紛れ、見ていました。


 警察も信じてはいなかったでしょう。恐らく噂話を利用した殺人だと考えていたはずです。でも事件は結局自殺として処理されました。他殺の証拠が見つからなかったそうです。


 その後、そこにあったお地蔵さんの首は警察に回収され行方は知りません。

 私もあの件は噂話に託けた殺人だと思っています。

 ああ、噂自体が嘘で、あの子供たちが嘘を吐いていたと言いたいわけじゃありませんよ。

 だって……その子供たちの中に私、居たんですから。その中に当時、私が好きだった男の子がいてそれで……まあ、いいですねその話は。ええ、実際に体験しましたとも、一人ずつね。危ないなと思ったら他の子が地蔵にハンカチを被せるんです。首に手が伸び始めるともう目を瞑ることも逸らすこともできませんでしたから。一人だと死んでいたかもしれませんでしたね。


「じゃあ、どうして殺人だと思うのか」ですか?

 有り得ないからです。

 だって……あの後、私が入れ替えたんです。ほかの地蔵の首と。

 危険だと思ったからです。大変でしたよ、ハンマーを使って、うまく首が取れるように壊したんですけど手がマメだらけに……。

 噂の地蔵の首はその後、私が持ち帰り、箱に入れて大事に保管していたんですけど、それが先日、恋人が箱を開けてしまって……。なぜって? うーん、なんか私の浮気の証拠を探してたみたいです。え、実際してたか? 浮気を? そんなのどうだっていいじゃありませんか。


 さ、それより私を信じてくれますか刑事さん。あなた、あの日の現場検証に来てましたよね。よく覚えてます。だって不思議に思ったんですもの。どうしてあの夜、あの男の人を殺した人が現場で指揮を取っているのかと。

 え? どうしてあの場にって? ふふふ、犯人は現場に戻るっていいますよね。私はすり替えたのがばれてないか気になって時折、様子を見に行っていたのです。

 それにしても、ふふふ。タオルで首を絞めると痕があまり残らないんですね。感服です。その後の処理の仕方もええ、ん? 地蔵の首? ふふふ、今どこにあるんでしょうね。

 今日はお呼び立てしてすみませんでした。じゃあ彼の件はうまく、そう、自殺か何かでお願いしますね。


 目を逸らさないでくださいね。

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