滅亡の日 :約1500文字
「ち、ち、地球はあと六日で滅亡する! あ、あ、あぁ……」
ある日、とある有名な予言者が地球の滅亡を予言し、そのまま息を引き取った。……が、『有名』といっても、これまで数々の予言を的中させてきたからではなく、ただ長年活動を続けたことで名前が広く知られていただけに過ぎない。
高齢ゆえに、死ぬ間際に大それたことを口にして、歴史に名を刻もうとしたのだろう。そう考える人が大半で、一部の熱狂的なファンを除き、その言葉を真に受ける者はいなかった。
マスコミはいつもの調子でこの話題を面白おかしく広げた。お飾りの専門家を呼び寄せコメントさせたり、自称占い師や超能力者を招いて、番組を大いに盛り上げた。
地球滅亡などあるはずないと思いつつも、ついつい見てしまう。ちょっとした危機感を味わいたいのだ。話題を共有し、何事もなくその日を乗り越えた後で「なんだ、結局何も起こらなかったじゃないか」と笑い合うのが目的である。
一部では安酒をあおりながら「本当に滅びてしまえ」とぼやく、もともと未来を見出せない者や、食料品を買い込む者もいたが、大多数はやはりこの予言を本気にしていなかった。
しかしある日、宇宙局の調べで驚愕の事実が判明した。地球に向かって、凄まじい勢いで隕石が接近しているというのだ。その軌道とサイズからして、もし衝突すれば地球が跡形もなく粉々になることは明らかだった。
すぐに各国で対策本部が設置されたが、衝突までの残り時間はわずか二日。新たな計画を立てる余裕はほとんどなく、話し合いは暗礁に乗り上げた。
苦悩の末、各国は一般市民に情報を公開する決断を下した。「情報を公開すれば自棄になり悪事に走る者が現れる」と反対意見もあったが、「何も知らないまま死ぬのはあまりに不憫だ」「最後の時間は家族や大切な人と過ごしてほしい」「いやどうせ、みんな死ぬんだから、もうどうにでもなれ」と、自棄になったのは政治家のほうか、全世界で一斉に情報公開された。
予想通り、発表は世界に混乱をもたらした。しかし、意外なことに犯罪行為に走る者は少なかった。警察が機能していたことも一因だが、多くの人々が普段通りに仕事をし、日常を送ることを選んだのだ。
それは、政府の発表を信じていなかったのか、恐怖で現実を受け入れることができなかったのか、いつも通りでいることで平静を保とうとしていたのか、皆がそうしているからか、いずれにせよ地球滅亡の日は刻一刻と迫っていた。
そして迎えた地球滅亡の日、空を見上げれば、隕石がはっきりと確認できるほど近づいていた。
最初は小さな点にしか見えず、空笑いする元気もあったが、次第にその巨体が圧倒的な存在感を放つようになった。
太陽は陰り、空は唸り、大地は震えた。
車で逃げようとする者。泣き叫び「死にたくない」と嘆く者。隣にいる人と手を握り合う者。ただ黙って上空を見つめる者。暴れ、窓ガラスに頭から突っ込む者。逸り、ビルから飛び降りる者。
人々の行動は様々だったが、全員が心のどこかで奇跡を願い、神に祈っていた。
だが、各国によるミサイル迎撃も虚しく、映画やドラマのような奇跡は起こることなく、巨大な隕石は地球に衝突し、星そのものを粉々にした。
……しかし、不思議なことが起こった。目を閉じ、恐怖に震えていた人々が意識を取り戻すと、自分たちがまだ『存在している』ことに気づいたのだ。
生きている……我々は生きている!
喜びの声が上がり、抱き合う人々。だがすぐに、その奇妙な違和感に気づいた。
体が半透明になり、心臓の鼓動や肉体の不調が完全に消えている。それだけではない。木々や建物、さらには海や山、あらゆるものが半透明だったのだ。
そう、死んで幽霊になったのだ。人間も動植物もすべて、地球そのものも。
これだけ多くの命が一瞬に、それも一斉に失われたことにより、天国も地獄も大騒ぎで対応しきれなかったのだろうか。そうだとして、いつまでこの宙ぶらりんの状態が続くのだろうか……。
人々が戸惑う一方で、地球はいつもと変わらず自転を続けている。
次第に、それを見習うかのように人々も新しい『日常』を受け入れ、変わらぬ暮らしを始めるのだった。




