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第30話 迎撃作戦会議

 船は現在、ゾーア島を十数キロほどに見やるところで停泊している。



 先程の謎のハヤテ種の襲撃により、対策を余儀なくされたからだ。



 操舵席のちょうど真下にある司令室に俺たち4人と幹部船員2名、その他手の空いた印章士が数名が集められていた。



 中央に設置された地図の敷かれている大机を指差しながら、船員代表の内が1人、船長のアドルフ・ティアノラが口を開いた。



 彼は竜人(ドラクル)と呼ばれる人種であり、身長こそ170センチと高め程度だが、頭は魔獣のドラゴンそのもの。



 身体中がドラゴンのような硬い鱗に覆われ、細く長い尻尾を片足に巻きつけている。



 魔獣と混血だと言って忌み嫌う人もいるが、コアがあるわけでもなく、魔獣との共通点は本当に見た目だけである。



 まぁ歴史を辿れば色々あるのかもしれないが、人種のうちの一つであると言うことしか俺は知らない。



 久々に竜人を見たけど、アドルフ船長の桃色の鱗は鮮やかだなぁ。



 やっぱり南の国の方が色も明るくなりやすいんだろうか。

 ヒューガナツに来て初めて見かけたのでなんとも言えないけど。



「状況を整理するぞ。

 先程襲ってきた謎のハヤテ────仮称アメノハヤテは、直上から我々に"緑色属性系の魔法攻撃を行い……水中を移動した上ゾーア島方面へ飛び去った」



「頭が痛くなる状況っスねぇ」



 彼の隣で飄々とした様子で茶々を入れている旧人(エルフ)の女性は、副長のシンシアだ。



 彼女は割と背が高めで、アドルフと同じくらい。

 すらりとした細身の体に赤茶色の髪を首の右横に編んでいる。




「お前が言うと余計にな。

 で、だ。奴は海を潜るが別に水棲というわけでもないだろう。


 アオザホース嬢の修復魔法は助かったが無限ではない。

 よって、次に襲撃を受けた時にはこれを迎撃せねばならんわけだ」



 アドルフ船長は俺を見やった。



「"魔法を自ら使ってくる"魔獣など聞いたことがない。

 そしてゾーア島は我々が今日に至るまで監視をしていたが、ヤツはここ数ヶ月で一度も見ていない。


 以上のことから、ミアズマの知る"特殊な術"を帯びている可能性がある……そういうことだったな?」



「あぁ────」



 俺は熾天化(セラフィマイズ)について知っていることを全て話した。



「────成程な。

 魔法が使える理由は解らんが、魔獣としての本質……コアを叩けば停止することは変わっていないはず、と」



「その筈だ。

 だから奴を仕留めるのと、その間この船を守り切れば、なんとかなる」



 俺の提案に船長は顎を手で撫でながら呟く。



「すると、奴の速度に対抗できる印章士(アーキテクト)が必要になるわけだが……」



「センチョーの破風砲(ガストカルヴァリン)じゃ当てらんねっスか?」



「阿呆、お前は相方の万理印(パレット)を忘れたのか?

 風属性じゃ奴に効き目が薄いかもしれんだろうが


 ただ……ふむ、この船にいる中で魔法に射程を持つ者はどれだけいるだろうか」



 印章士3名が手を挙げる。

 俺もそこに加わった。



「……では、我々射程距離のある者で撃ち落とし、他の者に修繕と防御を頼むしかないか────」



「あの!」



 声を上げたのは、セツナだった。



「ニシティ嬢?」



「僕が行けないかな……僕のマギビークルは水上を走れる。

 だから僕とアラタは船の周りを移動しながらアイツを狙う遊撃手になれるかもって」



「なんだと? あの乗り物、水陸両用か!」



 アドルフが目を見開き、身を乗り出して訊ねる。



「う、うん……あんまり長距離は移動できないけど、近くに船が居てくれるなら沈まないと思うし……」



「何故それを早く言わなんだ! そんな便利な魔法を……それなら攻撃の要になる。対応力が上がるぞ!


 水上の駆動魔法などサイティア博士ぐらいのものと思っていたが、やはり世界は広いな……!」



 少し興奮気味になるアドルフ。

 水陸両用、と言った彼の声色は少しワクワクしていた。



 うん、なるよなぁ。分かる。

 初めて見た時は凄いなぁってなったし。



 ……あれ? というか────



「あの、サイティアって────」



「知らんかミアズマ。

 水上完全駆動の魔法を研究していた魔法研究家でな、彼の魔法の完成は即ち我々船乗りの安定した航行を叶えるものだった……事故無く魔法を完成させていれば、今頃ヒューガナツの評議会(カウンシル)であったろう。


 我々は人と財産を載せるが、彼は船乗りの夢をその研究に載せていたのだ」



 船長は自分のことのように自慢げに話した。



 凄いな……セツナの親父さんってそんな有名だったのか。



 やっぱり、素直に話してしまえばセツナの味方は多いんだと思う。

 まぁ本人の嫌な思い出もあるだろうから、俺からはバラさないでおくけれど……。



「……ふーん、頼もしいっスね」



 ふと船長の隣に目をやると、目を輝かせた船長をジトっと見つめ、不機嫌そうに髪をくるくると弄るシンシアの姿があった。



「どーせシンシアの魔法は役立たずっスよ。

 ハヤテも感知できないレーダーなんていらねっスもんね〜」



「お前な……そうは言ってないだろうが」



「いいや言ったっス!

 "なんでお前が感知できないんだ!"ってセンチョー言ったもん!」



「そりゃいつも感知できているから言うだろう。

 なんでそんな不機嫌なんだ」



「フン、センチョーもセツナサンに乗せてもらえば良いんじゃねっスか。

 あたしの魔法(ウェイブゾーン)が感知できないんじゃあ、センチョーもヤツを狙えないし」



 椅子の上にしゃがんでその長身をくにゃりと曲げながらシンシアはいじけている。



 うーん、自分が役に立ててないのを気に病んでいるんだろうか。



「船から離れられるわけないだろうが。こちとら船長だぞ。

 それに万一お前がやられてみろ、船長どころか航海もできん」



 アドルフのその言葉に、背を向けながらシンシアが椅子を揺らした。



 探査系の魔法だとしたら、アドルフ船長はかなり彼女を頼りにしているはずだ。

 別に気にすることはないだろう。



「……素敵なお二人ね」



「ですね。隣でよく分かっていない鈍感ポンコツ印章士もいますが」



「えっ、なんで俺は貶されたの」



「分かってないから貶されたんだよなぁ……」



 女子組3人は何やら意気投合している。

 若干疎外感を感じるな……。



「ともかく! これで対策は決まりだ。

 対象がいつ来るかわからん、それまで各自腹を足しておいてくれ……必ず、突破しよう」



 アドルフ船長の落ち着いた一声に、その場の全員が頷いた。

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