9・アンコムの恋
暖かな風が優しく二人を包み込み、祝福しているかの様に、ピンク色の花が雪の様にハラハラと舞い落ちる中。恥ずかしそうに、ソワソワとしながらも、頬を赤らめ、相手を潤んだ瞳で見つめる巨大アンコム。一方、魔王さんの方も優しく声をかけ、気を引こうとしている。
二人はゆっくりと近づき、熱い抱擁を・・・・・
抱擁を・・・?
「いったああぁぁぁいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃ・・・・・。」
魔王さんの絶叫が響き渡りました。
ま、巨大アンコムに抱擁されては、そうなりますよね・・・。
無数の足で、ボウリングの玉を包み込む巨大アンコム。球遊びをしている様にしか見えませんが、恋だと言うのなら、きっと巨大アンコムは抱擁しているつもりでしょう。
ちなみに、花びらですが、本当に降ってますよ。
とっても綺麗です。
そんな事を思っていたら、
「ポコ、この花びらみたいなの絶対触らないでね。」
「何なんですかこれ。 」
「愛の証だよ。」
説明になってないんですけど・・・
「愛の証ですか?」
「そうだよ。アンコムは恋をすると、この花びら降らすんだ、これはアンコムの卵みたいなモノなんだよ。これに触れると・・・ほら。」
あら、巨大アンコムに抱擁されている魔王さん・・・花びらが降り積もってますよ。
あれ?何だか少し色褪せてません?
花びらが魔王さんに触れる度、真っ黒いボーリングの玉が徐々に色褪せて・・・
あれ??形状も少しづつ崩れている気がします。
ちなみに、結界の中には花びらが入ってきていません。
結界を張り終えたコボボさんが、巨大アンコムと魔王を見ながらボソリと・・
「相手が魔王だからな・・かなり産まれるぞ・・・。」
「へ??」
産まれる?何が???
そう思ったのは、一瞬でした・・・
ワラワラと溢れてくる小さなアンコム達・・・ワラワラ・・・ワラワラ・・・ワラワラ・・・
あぁ、何処かの世界にいた、カマキリって生物が卵から孵った時が、こんな感じでしたね・・・もう、どれだけ出てくるのぉ!!!!って感じの奴ですね。
でも、出てくるのは、カマリキでは無く、アンコムですけど・・
うっ・・・気持ち悪・・・
大量です。スッゴイ大量です。超大量です。
それを唖然としながら見守っていると、あれ?集まりだしました。
集まって・・集まって・・・集まって??
巨大アンコムになりました!!
しかも、五匹!!
互いに挨拶をする様に、足の前らへんをカチカチ合わせて挨拶しています。
更に、中型5匹に、小型6匹・・・ここは、アンコム牧場なのでしょうか??
あれ?僕何しに来たんだっけ???
アンコム牧場を作る為に来たんでしたっけ?
気付けば足元に広がっていた花びらは、跡形も無く消えていました。
仲良さそうに、カサカサしているアンコム達、どんよりとした目が何時もより楽しそうに見えますよ。
一緒に旅をしてきたアンコム、可愛いとは、なかなか思えなかったけど、アンコムが楽しそうにしているのは、嬉しいですね。
「コボコさん、ボボコさん、仲間も増えたし帰りましょうか!」
「そうだな、産まれたばかりのアンコム達を躾けないといけないしな。」
「僕は、健康診断してあげないと。」
軽やかな声を上げる、僕と、コボコさんと、ボボコさん。
そして、小さな呻き声・・・
「ダ・・・ダズ・・・ゲ・・・デエェ・・・。」
おや? 声がする方を見ると、泥の水溜りがピクピク動いて、呻いてらっしゃる。
アレって何でしたっけ??
「ゴゴ・・・メン・・・ナザイ・・・。」
おや?何か謝っていますね。
「ナン・・・デ・・・コンナ・・コトニ・・・。」
ああ、コレ魔王さんですよ!
そういえば、魔王さんと戦ってましたね。
超小型アンコムに囲まれ、結界の中には侵入されなかったものの、結界に張り付く無数のアンコムを見た為に、大事な事を忘れてました!!
僕の目的は、魔王の魔力を吸収・・・あ・・・・あぁあ〜
僕の目的は、魔王の魔力を吸収する事でした・・・ええ、でしたですよ! 過去形ですよ!!何故って?
ハイ、コボコさんどうぞ!!
「アンコムは恋をすると、花びらに似た卵を辺りに散布するんだよね。そして、それに触れるとあら不思議、魔力を根こそぎ持っていかれます!!そしてその魔力を元に子供達が産まれます。魔力を根こそぎ持って行かれると、本当に辛いんだよね・・。」
あれ?コボコさん、何だか声に力が無いですよ。
「しかも、無数の小さなアンコムが・・・・。」
ボボコさんもですか?
これはもしかして、一緒に旅をしてきたアンコム達は・・・
アンコムの謎が増えるばかりですが、今はそれを置いておいて・・・
あれ?これって??