8 誰がため
目を覚ました愛菜は急いで隣を見た。
「翔ちゃん……翔ちゃん……!」
翔悟は隣で意識を失っていた。何もない真っ白な世界に翔悟と愛菜の二人だけがぽつんといた。
「翔ちゃん……起きて……起きてっ……」
もう起きないのではないかという不安に駆られて、翔悟の体をゆすった。
「翔ちゃん……お願いだからぁ……」
すると、翔悟はゆっくり目を開けた。
「ん……んんっ……」
「……翔ちゃん! よかった……! よかった……! よかったよぉ……」
「……おぉ愛菜。てかここどこだ?」
「翔ちゃん、ほんとにごめんね……、ごめんねぇぇぇ」
泣きながら翔悟にすがる愛菜。
「私のせいだぁぁ、私のせいで死んじゃったのぉぉ」
「どうしたんだよ、ほら、俺は生きてるぞ? だから泣くなよ、お前らしくない」
「違う……翔ちゃんは……死んだの」
「死んだ? ……そうだ。トラックに轢かれて……」
「ごめん。私のせいで……」
「いやいや、お前のせいなんかじゃない。事故だったんだしな」
「それでも……」
運命のせいにもできない愛菜は口ごもった。
「むしろ謝るのは俺の方だよ。かっこつけて……助けられなくて……そんで死んじまってんだから恥ずかしい限りだよ」
運命のせいにもできない翔悟は自嘲した。
「そんな! 助けようとしてくれて、私嬉しかった……!」
「死んじまったもんは仕方ない。……にしてもここどこだ?」
暗い話題から離れようと、翔悟は話題を変えた。
「あ、ここはね……」
その時、一瞬の光と共に女神が現れた。
「おかえりなさい愛菜さん。そして初めまして海川翔悟さん」
死んだと思った自分が生きていて、目の前には女神。
翔悟は目の前で起こっていることを信じられなかった。しかし彼は状況の理解は早かった。
異世界を研究してきた身として、今の自分がまさにその状況に置かれていることを悟った。
「め、女神様! 俺はもしかして異世界に行くんですか!」
「はい。話のわかる人で手っ取り早いですね」
彼にとっては、死への悲しみよりもワクワクとドキドキが勝った。
「はっはー! すげー! やっぱり愛菜の言う通りだった! 異世界はあるんだ!」
「でも、私のせいで……」
「いつか俺らは地球に戻れるはずだ。ですよね、女神様?」
女神は少し迷った後、微笑んだ。
「はい、きっと戻れますよ」
「ほら、ならよかったぜ、な! 愛菜!」
愛菜は小さくうなずいた。
「それでは、この世界の仕組みについて説明いたしますね」
ーー女神はいつものように世界の説明をした。
「ここまでお分かりいただけたでしょうか」
「はい、愛菜からもだいたい聞いていましたし」
「それなら話は早いですね」
目の前に光が広がり始めた。
「それではお二人ともお気をつけてー」
温かい笑顔で見送る女神。
翔悟はこれからの展開に胸を躍らせていた。愛菜は自責と後悔の念に駆られていた。
「なあ、愛菜」
「な、なに?」
翔悟は屈託のない笑顔で言った。
「楽しもうな!」
いつかの純粋な海川翔悟の笑顔だった。追いかけ、追い求め続けた少年の夢が今叶ったのだ。彼の中に不安などなかった。
愛菜にはそれがまぶしくもあり、懐かしくもあり、優しくもあった。親友が心から楽しんでいる。自分の運命に彼を巻き込んだことへの罪の意識は少し薄れた。
代わりに、きっと大丈夫だ、という自信が湧いてきた。いつか元どおりになる、またみんなで笑いあえる、その時を信じて。
「うん! 楽しもう!」
彼女も満面の笑みで返した。
光がその強度を増していく。やがて二人をすっかり包み、消えた。
そして女神もまた、天に召集され消えることとなった。




