Final "現実"の世界1
目が覚めた。見たことのある天井。見たことのある部屋。見慣れていたはずの天井、見慣れていたはずの部屋、それがすべて懐かしく感じた。
記憶はすべて残っている。俺は異世界から来た。名前は海川翔悟、獅子座辰年、血液型A型、身長175センチ、体重は62キロ。そして、異世界転生研究所初代研究所長。
「……ははっ、ついにやった!」
間違いない。ようやく俺は地球に戻って来た。夢じゃない、こんな長い夢があるはずがない。こんな鮮明な幻があるはずがない。やっと、やっとだ。短いようで長かった。長いようで短かった。
ポケットからスマホを取り出してみると、LTE回線がしっかりつながっている。アプリもゲームも元どおりになっている。スマホについた金色のキーホルダーを見て、俺の体験が現実であることを確信した。
スマホで日時を確認した。4月5日、時刻は朝10時。
もしや、と思い池内に電話を入れた。
「もしもーし、珍しいなお前からかけてくるなんて」
「な、なあ! 今って俺ら何年生だ?」
「は? 何言ってんだ? 昨日も言ったろ、今日から3年生だっつの!」
「そっか、さんきゅー!」
「どうしたんだよ本当に……。あ、すまん、俺勧誘で忙しいから切るぞ! お前も後で来い! またな!」
通話終了。
なるほど、ここまで戻ってきたのか。
こうしちゃいられない。
俺はPCを開き、作りかけのレポートを削除し、新たなレポートを作り始めた。
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題名:異世界体験記(仮)
〈はじめに〉
私海川翔悟は異世界をこの目で見てきた。嘘だと思うかもしれないが事実だ。
その経験と研究成果をここに記す。
・・・
ーーーーーーーーーー
文章は次々に湧いてきた。キーボードを叩く指が勝手に動く。
今まで見てきた世界を一つずつ文章にしていった。昼ご飯も夜ご飯も食べずに徹夜で打ち込んだ。
一つ一つのエピソードまで書くと長くなるし、何より憎しみを思い出しそうだったので、世界の特徴や生物の生態、政治体制などをまとめていった。
それでも、書きながらその世界のことを思い出さざるを得なかった。あいつは今ごろ元気にしているだろうか……。あの娘はその後どうなったのだろう……。
もちろん楽しい思い出ばかりではなかった。
しかし、頭が勝手にフィルターをかけたのか、今となっては異世界での楽しい思い出ばかりが浮かんでくる。
それら全ての経験が、今の俺を作っているのだ。そんな俺にしかできないことがあるはずだ。
異世界から戻ってきたのは俺が人類初だろう。ノーベル賞どころじゃない。これは伝説になる。これがいろんな人に読んでもらえるのだ。別に有名になりたいわけではない。今まで虚言だと思われていた異世界がリアルなものとなる。異世界の人々の存在が認知されるようになる。妄想だとバカにしてきた人たちを見返せる。現実を見ろと言ってきた人に一泡吹かせられる。
いろんな人々の犠牲は無駄にしない。
みんなの存在を、その生き様を知ってもらうんだ。
「こんな感じかな……」
さすがに10億の世界全てについて書くと、紙の量が膨大になるので、とりあえず200くらいに留めておいた。まだまだ書き足りない。
あとはこれを教授に提出、そして全世界に発信するだけだ。
気づけば時刻は朝の9時。約24時間ぶっ通しで作業していた。興奮のあまり眠気は全くない。
ついでにと思い、ネットの掲示板にこう書き込んでおいた。
1:異世界帰還者 投稿日2020/04/06 09:11
id:SreiaveR05
異世界から今帰還した。本当だ。
これで質問とかが来るはず。ここから世界へと広めて行くのだ。
掲示板に書き残した俺は、そのまま教授のもとへ走った。
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「うーん、却下だね」
それが教授の第一声だった。
「そ、そんな!? 本当なんです! 本当に異世界に行って……!」
「だから夢の話だろう?」
「違います! この目で見て、この体で体験して、そして戻ってきたんです!」
「うーん……」
どうすれば信じてもらえる? このキーホルダー……も異世界の物っていう証明にならないし。
「確かに中身もかなり具体的だし、斬新なアイデアも含まれている。僕もこういうロマンを追い求めたりもした」
「じゃあ……!」
「でも、これはロマンに過ぎない」
「そんな……」
「僕も君を信じたいよ。でも、もし本当に君の言うことが真実だとしても、世間はそれを信じてくれないよ」
「どうしたら信じてもらえますかね……?」
「信じてもらうことは、たぶんできないだろうね、今の時代じゃ」
せっかくの体験も、誰も信じてくれなければ意味がない。
「でもね、君は一つの夢は与えられるよ」
「夢、ですか?」
「一つの考え方、とも言えるね」
「それが信用されなきゃ意味ないじゃないですか!」
「だから、今の時代は、と言っただろう?」
「この時代じゃなければよかったんですか」
「まあ一概には言えないがな。今の時代は非科学的なことは全て非常識なこととして信用されんからな」
教授の言葉が重くのしかかる。俺は生まれてくる時代を間違えたのか。俺はこの時代には不必要だというのか。
「だからこのレポートは今は受け取れない」
「今は、ですか」
「いつか時が来た時にまた来なさい。それまでにもっと仕上げておくんだな」
「はい……」
「まだまだ書き足りないことがあるんじゃないのか?」
「は、はい」
「かのコペルニクスの地動説だって、初めは全く信用されなかったけど、今になっては常識だ。君にもそんな日が来ることを願って、今は訴え続けるしかないだろうね」
「はい、ありがとうございました……」
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仕方なく研究室に戻り、PCを開いて掲示板を見てみた。
1:異世界帰還者 投稿日2020/04/06 09:11
id:SreiaveR05
異世界から今帰還した。本当だ。
2:名無し 投稿日2020/04/06 09:15
id:1tSiLaeR0
>>1
嘘乙
3:名無し 投稿日2020/04/06 09:16
id: ReleNnahc2
>>1
やべぇやつやん、関わらんのが吉。
4:名無し 投稿日2020/04/06 09:18
id:eNo1eMos
>>1
はい、解散。
いきなり出鼻を挫かれた。教授の言うことももっともだ。
俺の経験は証明できない。俺の中では真実でも、他人から見れば妄想でしかない。
ーー俺の体験した現実は、世間にとってはただの希望的観測でしかない。
コペルニクスの地動説が信じられるようになったのは彼の死後だ。俺は生きている間に伝説になることはできないのかもしれない。ならば、俺にできることは一つしかない。
形に残すことだ。
この経験が、いつか異世界転生が常識になる時まで残るように。いや、そんな常識を作り出すきっかけになるように。
俺はレポートの続きにとりかかった。




