Another2 全てが平等な"ゲーム"で決まる世界 5
昨日行かなかった方へ歩いていく。街中を女性と二人きりでぶらつく。なかなかない経験だ。前にも一度あったが、二人の間には沈黙が流れ、気まずかった。
しかし、会話の話題には困らなかった。アリアさんから話を振ってくれるし、来たばかりの俺にもついていけるような話題ばかりだ。これが年上の女性の魅力……。これが大人の女性の余裕……。
街の案内もしっかりしてくれた。アリアさん、お嬢様なのにけっこう街中の事情について詳しい。この店は安い、この店は店員が親切だ、ここは危ない、などなど。何度も抜け出しているのかな、という勝手な邪推。
会話は弾み、新品のボールペンの先に付いている小さくて丸いカバーみたいなやつについて議論していた時、じゃんけんデバイスに通知が来た。
『第二次予選は午後2時より行います。15分前には広場にお集りください』
「今が……11時45分ですから、約二時間後ですね」
「どこかでお昼ご飯を食べませんか? 私お腹が空いてしまいました」
「俺もです。どこのお店にしましょう?」
「何か食べてみたいものはありますか?」
「えっとー、じゃあ、アリアさんのおすすめをお願いします」
「わかりました。では、こちらです」
連れてこられたのは、喫茶店。名前は『喫茶気分屋』看板から渋さが伝わってくる。中も静かでいい雰囲気だった。
向かい合わせに座り、メニューを見る。
「私は、ズブヌルにします。海川さんはどうなさいますか?」
どうすると言われても、料理名を見ても完成品が予想できない。言語能力があっても、結局あの時と同じで、ランダム運試しか。適当に指を指す。
「おぉ、ババババを注文なさるとは。海川さん、通ですねー」
「え、ま、まあそうなんですよね〜」
ここで、どんな料理なんですか? とは聞けない。カッコつけたいお年頃。
注文を済ませ、また雑談に花を咲かせる。
安全第一には、品質第二、生産第三、という続きがあることについて豆知識を披露していると、料理が運ばれて来た。
ババババの見た目は、ミネストローネ。異世界のスープにはいい思い出がないが、恐る恐る一口。
めちゃくちゃ美味い。下の上でとろける野菜。種々の豆類の、互いを邪魔しない個性。濃厚なスープ。甘すぎず、辛すぎず、しょっぱすぎず。今まで生きてきた中で一番美味い。何回か死んでるけど。今回は当たりだ。ババババ、覚えておこう。
二人とも食事が終わり、時刻12時30分。まだ少し時間がある。
俺は昨日聞きそびれたことを聞いてみた。
「あの、アリアさんはこの大会にはどの程度本気で挑むんですか?」
「……全力です」
「代表を狙っているんですか?」
「……代表だけではありません」
少しトーンが暗くなる。まずい話題を振ってしまったか。
「私、本気で、国のトップになりたいのです」
その声からは、真剣さがひしひしと、伝わってくる。
「何か、やりたいことがあるんですか?」
「……はい。今は、まだ言えませんが」
気になる言い方。しかし、ここで追及するのは紳士的ではない。
「応援しています」
「ありがとうございます」
そして、昼食タイム終了。しかし、どちらがお金を払うかで一悶着。
「ここは私が払います」
「いえ、案内してもらっているんですから、俺が払います」
「いえ、元はと言えば私が、あなたへのお礼のためにやっているのですし、ここは私が」
「いえいえ、こういう時は男性が払うものです。ですから、俺が」
「いえいえ、海川さん、ここに来たばかりで何かと大変でしょう?ここは私が」
「いえ、お気持ちだけ受け取っておきます」
「今なら、お気持ちにお代もお付けしますよ?」
「通販番組ですか」
首をかしげるアリアさん。この世界に通販はないのか。
「とにかくこれでは埒があきません。ここは」
「じゃんけんで決めましょう」
見事なシンクロ。
「勝った方が支払うということでよろしいですか?」
「いや、ここは負けた方にしましょう。俺のいた世界ではそうだったので」
「わかりました」
もちろん大会とは無関係の戦いなので、デバイスのリンクはしない。あくまで練習試合だ。
「3回勝負にしましょうか?」
「いえ、1発勝負にいたしましょう」
「1発勝負ではつまらなくないですか?」
「そうですか?緊張感があるじゃないですか」
「3回勝負の方がドキドキしますって」
「では、何回勝負にするか、」
「じゃんけんで決めましょう」
「それは何回勝負ですか?」
「……ふふ」
笑い合う二人。優しい争い。
「もう、これじゃ永遠に続いてしまうじゃないですか」
「ですね。1発勝負にしましょうか」
「では。グーの神よ! チョキの神よ! パーの神よ! ここに絶対の平等を宣誓す! 我に力を与え給え!」
「じゃんけん……」
「ポン!」
アリアさんグー。
俺パー。
「エヘヘ、やりました」
負けたのに喜ぶアリアさん。勝ったのに喜べない俺。
「では、ここは私が支払いますね」
徐に取り出したアリアさんの財布には、グーチョキパーのストラップが付いていた。