表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/64

Another2 全てが平等な"ゲーム"で決まる世界 5


 昨日行かなかった方へ歩いていく。街中を女性と二人きりでぶらつく。なかなかない経験だ。前にも一度あったが、二人の間には沈黙が流れ、気まずかった。


 しかし、会話の話題には困らなかった。アリアさんから話を振ってくれるし、来たばかりの俺にもついていけるような話題ばかりだ。これが年上の女性の魅力……。これが大人の女性の余裕……。


 街の案内もしっかりしてくれた。アリアさん、お嬢様なのにけっこう街中の事情について詳しい。この店は安い、この店は店員が親切だ、ここは危ない、などなど。何度も抜け出しているのかな、という勝手な邪推。


 会話は弾み、新品のボールペンの先に付いている小さくて丸いカバーみたいなやつについて議論していた時、じゃんけんデバイスに通知が来た。



『第二次予選は午後2時より行います。15分前には広場にお集りください』



「今が……11時45分ですから、約二時間後ですね」


「どこかでお昼ご飯を食べませんか? 私お腹が空いてしまいました」


「俺もです。どこのお店にしましょう?」


「何か食べてみたいものはありますか?」


「えっとー、じゃあ、アリアさんのおすすめをお願いします」


「わかりました。では、こちらです」


 連れてこられたのは、喫茶店。名前は『喫茶気分屋』看板から渋さが伝わってくる。中も静かでいい雰囲気だった。


 向かい合わせに座り、メニューを見る。


「私は、ズブヌルにします。海川さんはどうなさいますか?」


 どうすると言われても、料理名を見ても完成品が予想できない。言語能力があっても、結局あの時と同じで、ランダム運試しか。適当に指を指す。


「おぉ、ババババを注文なさるとは。海川さん、通ですねー」


「え、ま、まあそうなんですよね〜」


 ここで、どんな料理なんですか? とは聞けない。カッコつけたいお年頃。



 注文を済ませ、また雑談に花を咲かせる。



 安全第一には、品質第二、生産第三、という続きがあることについて豆知識を披露していると、料理が運ばれて来た。

 ババババの見た目は、ミネストローネ。異世界のスープにはいい思い出がないが、恐る恐る一口。


 めちゃくちゃ美味い。下の上でとろける野菜。種々の豆類の、互いを邪魔しない個性。濃厚なスープ。甘すぎず、辛すぎず、しょっぱすぎず。今まで生きてきた中で一番美味い。何回か死んでるけど。今回は当たりだ。ババババ、覚えておこう。



 二人とも食事が終わり、時刻12時30分。まだ少し時間がある。


 俺は昨日聞きそびれたことを聞いてみた。


「あの、アリアさんはこの大会にはどの程度本気で挑むんですか?」


「……全力です」


「代表を狙っているんですか?」


「……代表だけではありません」


 少しトーンが暗くなる。まずい話題を振ってしまったか。


「私、本気で、国のトップになりたいのです」


 その声からは、真剣さがひしひしと、伝わってくる。



「何か、やりたいことがあるんですか?」


「……はい。今は、まだ言えませんが」


 気になる言い方。しかし、ここで追及するのは紳士的ではない。


「応援しています」


「ありがとうございます」




 そして、昼食タイム終了。しかし、どちらがお金を払うかで一悶着。


「ここは私が払います」


「いえ、案内してもらっているんですから、俺が払います」


「いえ、元はと言えば私が、あなたへのお礼のためにやっているのですし、ここは私が」


「いえいえ、こういう時は男性が払うものです。ですから、俺が」


「いえいえ、海川さん、ここに来たばかりで何かと大変でしょう?ここは私が」


「いえ、お気持ちだけ受け取っておきます」


「今なら、お気持ちにお代もお付けしますよ?」


「通販番組ですか」


 首をかしげるアリアさん。この世界に通販はないのか。


「とにかくこれでは埒があきません。ここは」


「じゃんけんで決めましょう」

見事なシンクロ。


「勝った方が支払うということでよろしいですか?」


「いや、ここは負けた方にしましょう。俺のいた世界ではそうだったので」


「わかりました」


 もちろん大会とは無関係の戦いなので、デバイスのリンクはしない。あくまで練習試合だ。


「3回勝負にしましょうか?」


「いえ、1発勝負にいたしましょう」


「1発勝負ではつまらなくないですか?」


「そうですか?緊張感があるじゃないですか」


「3回勝負の方がドキドキしますって」


「では、何回勝負にするか、」



「じゃんけんで決めましょう」



「それは何回勝負ですか?」


「……ふふ」



 笑い合う二人。優しい争い。


「もう、これじゃ永遠に続いてしまうじゃないですか」


「ですね。1発勝負にしましょうか」


「では。グーの神よ! チョキの神よ! パーの神よ! ここに絶対の平等を宣誓す! 我に力を与え給え!」


「じゃんけん……」




「ポン!」




アリアさんグー。

俺パー。



「エヘヘ、やりました」

 負けたのに喜ぶアリアさん。勝ったのに喜べない俺。


「では、ここは私が支払いますね」


 徐に取り出したアリアさんの財布には、グーチョキパーのストラップが付いていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ