第4章 辿り着くは理想郷か 1
自動で俺の理想を反映したアバタークリエイトが終わり、目を開けると、そこはまさに、ゲームの中の世界だった。
剣と鎧を装備した騎士、銃を下げてパーティで歩く人々、飛び交う会話。
手元にメニュータブ。メニュータブを開いて現状確認。
持ち物、初期装備、財布、バスの定期券、スマホ。
すごい。持ち物まで転移できるのか。
そしていつのまにか、アイとの記憶を全て思い出していた。
ーーしかし、
隣を見る。
ーーアイが、いない。
あたりを探してみたが見当たらない。周辺のプレーヤー名にも表示されない。
別の場所に飛ばされた?
それともーー
「消滅、した?」
そんなはずはない。
おい、神様、お前はそんなに適当なのか?お前はそんなに理不尽なのか?
お前はそんなにーーーー。
その日は丸一日、アイを探し回った。呑気にレベル上げをしている暇はない。ギルドに行って聞いてみたり、街の中を探し回ったりした。
しかし、その姿は、どこにもなかった。
ひとまず、初期所持金を使って宿をとった。
◆◆◆
翌日。
朝起きて、何気なくスマホを確認した。充電残り38%、時計は、あてにならないだろう。
指紋認証ロックを開き、ホーム画面になった。全てのアプリが消えている。スマホの初期アプリしかない。まあ、ソシャゲの運営は異世界でしているんだし当然か。もちろん回線も繋がらない。圏外。
ただ一つ。
実行中アプリとして、メモが起動していた。見覚えのないメモ。
件名は
「わたしをわすれるな!!」
『わたしのなまえはあいだ!
うみかわしょうごがだいすきな。
わすれるな!
どのせかいにいっても、
なんかいてんせいしようと、
わたしはわたしだ!
もうにどとわすれるな!』
……自然と、涙が落ちた。
自分が恥ずかしい、アイに申し訳ない。
神のせいとはいえ、チュートリアルの世界で、一瞬でも、彼女を忘れていたなんて、大好きな女の子のことを忘れるなんて、俺は、最低だ。
俺のアイへの想いはその程度なのか?俺はあの時、彼女に言った。
ーー死ぬまで一緒だ。
ーー死んでからも一緒だ。
「…もう、二度と忘れたりしないよ」
それは、彼女への誓いなのか、自分への言い聞かせなのか。
鮮明に彼女との記憶が蘇る。
ーー会いたい。
その気持ちが溢れる。
転移してしまったことを後悔した。林さんたちは悪くない。悪いのは、その瞬間を大切にしなかった俺だ。
次の世界を見たい、行きたい、知りたい、触りたい、と焦ってしまった。
アイのため、とかいいつつ自分が早く違う世界を見たかったから、ゲームの世界に来た。
だったら、迷ってなんていられない。この世界に彼女が見当たらないなら、このゲームをクリアして、
ログアウトしよう。その先に、アイがいるかもしれない。
その間に、同じように攻略している彼女に会えるかもしれない。
そう決めた俺は、一日中レベル上げと資金貯めに勤しんだ。
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ーーレベル上げ。
RPGゲームや育成ゲームをやったことがある人ならわかると思うが、これがかなりめんどくさい。同じ場所で、同じ敵を、同じ技で、何度も、何度も、何度も倒していく。この世界にオート操作はない。ボタンを押すだけではない。実際に体を動かさなければならない。経験値と共に、プレイヤーのストレスと疲労が溜まっていく。けっこう、物語などではカットされていることが多かったためこんなに大変だとは思わなかった。
だが、俺は負けなかった。おそらく、これがこの世界の苦難なのだろう。最初の関門なのだろう。だったらこれを乗り越えた先に、希望がある。
ーー世界を、変えられる。
ついでに、雑魚モンスターを倒すクエストばかりやっていたら、資金もかなり溜まってきた。これらの大部分を武器強化につぎ込む。俺のマイ武器は、両手剣。なんだかんだで一番使いやすい。
スキルもそれなりに覚えてきた。全体攻撃の技しかほとんど使ってないが、いざという時には役立ちそうなスキルばかりだ。
ある程度レベルを上げたので、各層フロアボス討伐クエストに挑戦した。既に最前線組によって攻略はされていたが、経験値稼ぎにはもってこいだ。
ゴブリンの王。
もう見慣れてしまったゴブリンたちの長だ。攻撃力が少し高いのと、体がでかいだけで、そのへんのゴブリンと大して変わらなかった。
巨大食虫植物。
見た目が気持ち悪かった。ヌルヌルしてた。
強さは大したことなかった。
小型竜 トラコン。
討伐しなくてよくね?ってなるくらいかわいかった。これが将来あんなゴツいのになってしまうらしい。見た目通り大したことなかった。
ギガンテス。
一撃一撃は重いが、動きは速くない。動き回って確実にダメージを入れていく。その度に、経験値が入る。周回を重ねる毎に、討伐時間が短くなっていった。
順調にレベルを上げていった。既に2日ほど寝ていない。ゲームの世界の中だから寝なくていいのか。
疲れは感じている。ストレスも感じている。
でもそれ以上に、楽しかった。快感だった。目の前の敵をなぎ倒し、巨大な敵にも立ち向かう。
ーーこれだ。これが俺の求めていた異世界だ。
今は少し我慢の時期。レベル上げさえ乗り越えれば、もっと楽しい生活が待っている。
俺は、それくらいにすっかりゲームにはまり込んでいた。