喜んでくれると嬉しいねっ♪
大学から帰って、お買い物して、それからお風呂のお掃除して。洗濯物を畳んで、夕飯作りとお弁当の仕込み。明日のお弁当は鮭だ。まぁ、スーパーで特売だったんだけどね。といっても、今日の夕飯は少し豪華にしてるよ。家でする、三人での初めての夕飯だからね。
お料理は長いこと研究してきたよー。オレンジページって主婦向け雑誌を片手に、うんうんと唸っていたときが懐かしい。けど、今でもオレンジページは愛読しているよ。お料理の記事もたくさんあって嬉しいんだけど、オレンジポストもいいよね。オレンジポストってのは、読者さんの体験談が記載されているコーナーなんだけど、これがまた面白いんだ。
と、そうこうしている内に、サイテンが帰ってきた。机の引き出しから「ただいまですー」だって。なんだか、おかしいね。「お帰りー」と笑顔で迎えて、「お風呂、できてるよ?」と首を傾げていると、上機嫌で首を振って、お弁当を出してくれた。軽い。たぶん空っぽだ。「おいしかったですよ」だって。嬉しいこと言うじゃないかー。作りがいがあるねっ。
「オムライス、好きなんです。ホウレン草もいいですね。星型のチーズなんて、どうやったら……。あんなにおいしくて彩り豊かなお弁当、初めてでしたよ。クッキーも、ありがとうございます」
「ふふふ。ありがとー。お世辞でも嬉しいよ」
「いやいや。本当においしかったですよ。職場でも先輩に言われましたよ。『お前、結婚したのか?』って。『すっげぇいい奥さんだな。うらやましいぜ』とかなんとか、大絶賛で」
「あははー。奥さんじゃないけどねー」
「つい、昨日結婚しました、なんて言っちゃいましたよ」
「はははー。冗談もほどほどにねー」
「クッキーもびっくりで。わざわざ買ってくれたんですね。うらやましいの連発でしたよ」
「ふふふー。そのクッキー、ボクの手作りだって、知ってたー? ラッピングも頑張ったんだよ?」
「えっ、そうなんですか!?」
おおぅ。
すごい驚きっぷり。
サプライズ成功だねっ。
「クッキー、おいしかったですよ。素敵なラッピングにもびっくりです。てっきり、どこぞの有名店かと思いましたよ。そうなんですか。手作りなんですか」
「ありがとー。手作り、すごいでしょー」
「ええ。本当に、すごいですね」
ニッコリ満面の笑顔だ。
よほど、嬉しかったんだね。ずっとニコニコしてるよ。
「でも、サイテンもお疲れ様。さっ。椅子に座って。サイテンはビールを飲むんだっけ?」
「飲みますよ。ですが、お姉さんが帰ってきてからで」
「そうだよねぇ。サイテンは気が利くねぇ」
「いや、あんたらさぁ……」
おっ。
姉さん、帰ってたみたい。でもなぜか、玄関からこっちみたまんま、呆れた顔をしているよ。どっと脱力したような、ツッコミたいけど止めとこうかどうしようか、みたいな雰囲気だ。美人が台無しだよー?
「付き合ってんの?」
「はぁ? なに言ってんの?」
「まぁ、いいけどさ」
「そうなの? お風呂、どうする?」
「いや、食べるわよ。できてるんでしょ?」
「うん。でもその前に、お弁当ちょーだい」
「ほい。ありがと。でもほうれん草、あたしは胡麻和えの方が好きだな」
「あ、ごめんねー。今度、作っとくよ」
「よろしく。あ、あとお土産があんのよ」
「うん? なになに?」
ガサゴソと、大きなビニール袋を漁る姉さん。コンビニで買ってきたんだろうなぁ。また無駄遣いして。おつまみ、はみだしてるよー。あー、姉さんとサイテン用のおつまみ、なんか習得しないとなぁ。無駄遣いが増えていく一方だ。オレンジページで研究しよー。
とか考えていると、「あったあった。コレコレ」といって、カミソリを出してきた。クリームもある。
「これ、あげる。あたしの使ってもらうのもなんだし。無駄毛処理すんのにいるでしょ」
「ボク、ひげなんてないよ? ってか、全く生えてこない」
「それは知ってる。でも、すね毛とかあるでしょ? 突然、スカートになったら困らない?」
あー。そういうことね。
ボクは何度も頷いた。
心配してくれたんだ。いきなり肌が露出することだってあるもんね。でもなぁ。
「心配してくれてありがとう。でも、すね毛も生えないんだよねぇ」
「腕の毛は?」
「それもないよ。あー、……わき毛もないよ。っていうかさぁ。コンプレックスで結構悩んでることなんだから、そんなにデリカシーなくズケズケと踏み込んで欲しくないんだけど」
「あ、ごめん。でもなにその超高性能。うらやましすぎるんですけど」
「えっ? 女の人って、生えないんじゃないの?」
「んなわけあるかい。上も下もボーボーよ、ボーボー。剃ってるだけ」
「うわぁ。聞きたくなかった……」
ショックだ。大ショック。
「カオルさんは乙女ちゃんですねぇ」
「本当ね。それならこのカミソリ、あたしが使うわよ」
「そうして。ボクには必要ないから」
「おっけー。じゃあ、お風呂に置いとこうっと。……あっ。もしかして」
姉さんが、何かに気付いたようにニマニマしている。
どうした姉さん。邪悪なオーラが見えるよ。
こういうときはいやな予感しかしない。戦々恐々として身構えていると、姉さんは、耳元まで口が裂けているかのように唇をゆがめた。
「下の毛も生えてないのか……」
ギャアァァァァッ!
やめて、ヤメテ! これ以上は無理ですっ。恥辱、恥辱だよ!
「あわわわわ」
「いいえ。薄っすらと生えてましたよ」
どうしてサイテンが答える!?
どうして知っている、サイテンッ!?
こっちを見てウィンクするなっ。フォローできてないんだよっ!
「朝、見ました」
「んまぁっ。だ・い・た・ん♪」
姉さん! 勘違いだっ!
ってか、朝ってあの、押し倒して脱がしてたとき……、って。なにそれ寝ぼけてたんじゃないの!?
「起きてたの!?」
「実は途中から」
「こぉんの……、バカぁッ!」
サイッテェ!
あっちもそっちも、みんな最悪だっ!!




