第3話:全裸の不審者、吹き飛ぶ
OBT最終日、19時
始まりの街は異様に静かだった。
いや、正確には「静かに壊れていた」。
空中で岩が停止し、プレイヤーが一点に固定され、遠くでボスが地面に埋まっている。
「江口さん」
佐藤の声は疲れ切っていた。
「ログがもう“意味”を持ってません」
「それはつまり?」
「現実が勝ってます」
「やめろその報告」
“アインside“
『【アルカディア】OBT最終日:ボス討伐RTA』
アインは岩の上に立っていた。
完全静止。
風も止まっているように見える。
「ルートは?」
「岩スノボ→ボスレール→空中居合→噴射→帰還」
「帰還って何?」
「知らん」
コメント欄
・最終日ガチすぎる
・また世界壊すやつ
・運営生きてる?
岩が生成される。
射出準備。
「3」
「2」
「1」
タクミが指を鳴らす。
その瞬間だった。
剣士が横を通り過ぎた
およそ時速100km。
「どいてください」
それだけ言って、通過した。
その瞬間アインと接触。
「ちょっと待てぇぇ!!」
エフェクトが爆ぜる。
システムが一瞬だけ停止する。
コメント欄
・????????
・今のは事故じゃないだろ
・何が起きた!?
・誰かに轢かれた
アインは空中へ吹き飛んだ。
「は?」
全裸で空中に完全静止。
そこに夕方が差し込む。
シュバババババババ!!
空間が裂けるように斬撃エフェクトが走る。
ボス判定が巻き込まれ、地形が削れる。
コメント欄
・また始まった
・伝説がまたできた
・正常プレイで暴走すな
・なんだこれ地獄か?
・どちらかと言ったら世紀末
剣士はそのまま走り去る。
「佐藤」
「はい」
「あれはバグか?」
「いいえ仕様です」
「もうその言い方やめろ」
そのまま街上空。
アインは一瞬だけ静止する。
空と夕焼けが重なる。
その瞬間
ドゴォォォォォン!!
再び剣士が通過。
コメント欄
・また轢いた
・今日の剣士忙しすぎるだろ
・もはや環境崩壊
・俺たちは何をみているんだ
・この軌道ってまさか…
アインは吹き飛ぶ。
その軌道の先は噴水方向。
ズボォォォォォォォォン!!
着弾。
噴水から足だけが出ている。
ピク
“OBT終了後“
運営本部。
最終ログアウト処理が完了し、サーバーが静かに停止していく。
「……終わりましたね」
「終わったな」
江口は椅子に沈み込んでいた。
目の前のモニターには、最後の瞬間のログが残っている。
夕焼け。
噴水。
そして、空中で固定されたままの“何か”。
「これ保存するのか?」
「はい。リプレイデータとして永久保存です」
「やめろ」
江口は机の引き出しを開けた。
中にはいつもの業務用胃薬。しかも瓶。
「もう飲み方とかどうでもいいな」
そう言って瓶を開ける。
バリッ。
「江口さん!? 噛んでます!? それ錠剤です!」
バリバリバリバリ。
「うるさい」
バリッ。
「俺はな」
ボリッ。
「普通のゲームを」
ガリッ。
「作りたかっただけなんだよ」
「それ毎回言ってます」
「なんでプレイヤーたちの行動が斜め上どころか、ほぼ垂直なんだよぉぉぉぉ!!!」
その後のプレイヤー掲示板
・最終日一番平和だったの運営説
・いやアインだろ
・居合スノボーむずかった
・有識者によるとスノボの技やで
・やるやつおるんや
・また刺さってたなwwwww
[おまけ]江口と佐藤のその後
江口:やっと地獄のOBTが終わった
佐藤:これから地獄の修正作業ですけどね
(江口が無言で胃薬の瓶を開けようとする)
佐藤:ちょっと待ってください何胃薬食おうとしてるんですか!しかもなんか力強くないですか!?(スタッフを呼ぶ)
ナレーション:ちなみにダメでした…(瓶の半分が食われた)




