4 鍵屋さんに頼めよ
「はい、よろしくおねがいします、一条さん。それはそうと、条件飲んだんでさっさと拘束解いてもらえませんかねぇ、相棒を縛る探偵なんていないでしょ」
「それもそうだね」
一条は,手早く拘束を解き始めた。棘のついた鎖を取り外し、縄を解く。なぜか手錠はついたままだが、まぁ問題ないだろう。
自由になった水無瀬はうーんと伸びをして、手近なソファに腰掛けた。怖いくらい深く沈みこむ。その辺の知識は持ち合わせていないのでよくわからないが、よほどいいソファーなんだろう。
「水無瀬くん、そこのソファー、クッション部分が千切れて貫通してるんだけど大丈夫?下手すりゃ尻がはまって抜けなくなるけど」
…先に言ってくれ。
いやさ、確かにすごい沈むから大丈夫か?とは思ったよ。でもさ、小説に登場するよく沈むソファーってお高いホテルとか偉い人の部屋とかにあるじゃん。
あーあずるずるはまってくよ。今更だけど手錠ついてるから身動きできないしどうやって抜けるんだよこれ。
「一条さん、引っ張ってください」
「オイそんなんで諦めんのかそれでも男かよ」
やれやれ、と肩をすくめながらソファーに近づき、ワイシャツの襟を掴んだ。
「やっぱちょっと待ってください嫌な予感がしま
「よいしょおぉ!」
そのまま襟を引っ張り、見事水無瀬を引き抜いた。
ただ、一条の腕が細さの割に頑丈な為余計に持ち上がり、足が着かずに首吊り状態になってしまっている。
「放しやがれください」
「あはは、君も一応戦闘員だろ?こんなのすぐ抜け出せるようになって貰わないと私の相棒は務まらないね。てことではい、頑張って」
ニコニコと屈託のない笑みを浮かべている一条。その整った顔面を見ていたら水無瀬もいよいよ腹が立ってきた。
そろそろ殴りかかろうかなと思ったその時。
「ごめんくださいましー!」
玄関扉の向こうから,凛とした女性の声が聞こえてきた。
「例えるならそうー悪役令嬢のような」
「例えるならそうー縦ロールが音になったような」
そんな声であった。
一条は水無瀬を手放して玄関へ向かい、水無瀬は尻をぶつけて悶絶した。一条は「うわ!尻が!尻が二つに割れる!」と叫んでいる水無瀬琉也(17)を横目にガラガラと扉を開ける。
「セールスお断りってここに書いてあるじゃないか!見えないのかい!お宅いっつもソーラーパネルの設置勧めてくるけどね、うちにそんな金ねぇから!」
「は?何の話をしているのですか。わたくしがそのような
みっともないことするとお思いで?」
「…え?」
立っていたのは,10大半ばほどの少女であった。先ほどの声とは裏腹に,黒髪ロングの清楚系女子だった。
「ごめんごめん、いっつもこの時間帯にセールスが来るからてっきりそれかと」
「ふん、庶民が考えそうなことですわ。いいわ、許しましょう。庶民の粗相なんていちいち気にしてられるほど私は暇じゃないもの」
綺麗にケアされた指を口元に当てて言った。
「それで…庶民の粗相なんていちいち気にしていられないほど忙しいお嬢様がなんの御用で?」
「ああ、そうそう。ここ探偵事務所なのよね?ちょっと依頼があってね」
そう言ってふふ,と笑った。
「改めまして、私、山田製茶社長の娘、山田花子と申しますわ。以後,お見知り置きを」
依頼がある、と聞いた一条は目をキラキラさせて、夜中だというのに少女を家に招き入れた。言われるがまま入ってきた少女も少女だ。いかに世間と隔離されて育てられたのかがよく分かる。
まぁそんなことは置いといて。
水無瀬は「紅茶を淹れなさいこのガキ」と命令されたため茶葉を沸かす。手錠はその辺にあったクリップで外しておいた。そういう趣向だと勘違いされては困るので、外した手錠は窓から投げ捨てておく。その手錠をつけた本人はというと、甲高い声で笑う花子の話をニコニコと聞いていた。
「山田花子ねぇ、昔A学校から図書館まで時速300キロで走っていたのを見たことあるよ。久しぶり」
「それは算数の問題の話ですわ。問題にフルネームが出てくるなんて、珍しい学校なのね」
こんな調子で、先ほどから話は全く進んでいない。
丁度お湯が沸いたので、茶菓子と急須を載せた盆を片腕で支え、2人のもとへ歩く。
「はい、やっすいお茶ですがどうぞ」
「ひとん家のお茶悪く言わないで貰えるかな、一応スーパーでは一番高いやつだよ?」
「これうちの支社のお茶ですわ。値段の割に質がいいからお得なのよ。いただきます」
花子は,ティーカップを優雅に傾けた。
喉に紅茶を流し込むと、コトッとカップをソーサーに戻す。
「さて、そろそろ本題に移りましょう。ここの探偵事務所、金さえ積めばなんでもしてくださるのよね?」
「ああ、迷子の猫探しから素潜りのアルバイトまでなんでもやるよ。万屋いっちゃんとは、我らのこと
「はいはい、また脱線しますからやめてください。で、花子さん。そんな質問するってことは,かなり怪しい依頼なんですか?」
サングラスの奥に怪しい光を灯らせた。
「いえいえ、怪しいなんてとんでもない」
花子はニコリと笑い、言った。
「うちにある開かずの金庫を開けてほしいのですわ」




