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不可死  作者: 狩瀬
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3 名探偵と探偵の違いってなんだろう

はい、不法侵入したやつが捕まったら,何されるかなんてわかりきったことでしょう。

尋問なんてぬるいもんじゃないです。警察じゃないんですよ、相手は。しかも僕が毒を盛ったと思われているかもしれないんですよ、尋問で済むわけないです。

はい、その上ですね。蹴るなり切るなり、それはまぁ様々な方法で情報を吐かせるわけです。

過去に数人その手の方法で情報収集したことがありますが、頑なに言わないやつは死んでお終い。すぐ喋るやつは味方に暗殺されておしまいでした。つまり、どっちにしろ死にます。


「いやぁ〜困りましたね〜」

唇から声を漏らした。

足・腕・胴体は椅子に固定されている。ロープの上から、棘の生えた鎖で巻きつけられている。身じろぎしただけで棘が頸動脈を刺して死ぬ。ひえぇおっかない。

頭には麻袋が被せられていて周囲の詳しい状況は確認できない。隙間から入ってくる光からすると、夕方なのだろう。茜色の優しい光がサングラスと目の間に差し込んでいる。とても眩しい。

目覚めた時からずっとこの状態。

そろそろ袋くらいとって欲しいな〜と思っていた、その時。コツ、コツ、とゆっくりとした足音が聞こえてきた。だんだん近づいてくる。部屋に反響して、不気味な雰囲気を醸し出している。

コツンコツーコツ……コツ……コ…ツ…コツ。

…足音が、目の前で止まった。

その人は,スッと腕を伸ばし、水無瀬の視界を覆う麻袋に手をかけた。

影で覆われ,茜色の世界が消えた。そしてその世界は、驚くほど早く取り戻されることとなる。

シュッと、麻袋が引き抜かれたのだ。


「へいへいグラサンなんかつけてヤンキーかよお前はぁ。月夜野に飼われてるなんてかわいそうにねぇ…まぁ、私には関係ないね。とりあえず君は死んでもらおうか。もちろん内部情報全部喋ってからね」

目の前に居たのは,黒髪を肩まで伸ばし、紺色の上着を腰に巻いた青年。足を組んで机の上に座り、麻袋を手にはめて遊んでいる。

「エーボクナニモシラナイデスヨダレデスカアナター」

「よし、予定変更ださっさとやっちまおう」

青年が万年筆を持って迫てきた。

「ワーコワイータスケテポリスメーン」

水無瀬は危機感が無さすぎるのか、何か策があって棒読みなのかはわからないが、幼稚園児以下の演技をした。

青年はそんな水無瀬の態度に驚いて,言った。

「万年筆持って迫られたら普通誤魔化すのやめて‘ずびばぜんぜんぶばなじまず’(すみません全部話します)って言うもんなんだけどな。そう言う意味でもやっぱ君普通じゃないね。さっきのスタンガン食らっても生きてるみたいだし」

「ずびばぜんぜんぶばなじまず」

「今更普通っぽくしても遅いからね。はいじゃあこれで眼ぇぶち抜かれたくなかったら組織の情報から薄い本の趣味まで全部話して〜」

「いやそんな歯医者の“はいお口開けてー”のノリで言わないでくださいよ。というかあなた誰ですか、毒盛られて死んだんじゃないんですか」

万年筆を握る青年はにこりと笑った。

「相手に喋らせたい時は自分から話すもんだよ少年。てことでハイ、名前、仕事、年、薄い本の趣味言って」

「なんでさっきから◼️◼️い本の趣味気になるんです、どんだけ不健全に見えてるんですか僕。グラサンですか?グラサンが悪いんですか?あーもう伏字にされちゃってるよ、読者の人、これバグじゃないからね、れっきとした演出だからね」

「は や く い わ ん と 刺 す ぞ」

万年筆の先っちょが水無瀬のまつ毛に触れた。

「はい、喋ります。ラシャカルト・ラシャ・シャルト9ちゃい、ちごとはしょーがくせーでしゅ!」

シュッ

と、水無瀬の眼球に万年筆が刺された。

はずだったが。

「えー能力持ちなの?そりゃ月夜野さんが手配するわけだ、優秀だねぇ。これは…」


「「空気を操る能力」」「かな」

           「です」

万年筆は,水無瀬の眼球の数センチ手前で、氷のような白い物体によって止められていた。白い湯気と冷気を出している。

にしても、空気を操る能力って名前ダサくないか。かっこいい名前ないかな、ないか。まぁそんなことはおいといて。

青年はドライアイスに顔を近づけて、言った。

「二酸化炭素を固めてドライアイスにしたんだ、へぇ、器用だねぇ、状態変化までできちゃうなんて。えっと、空気を操る能力……空気を操る能力ね…………」

青年は記憶を探るように頭に手を当て、うーうー唸った。

途中うーぅ↑ゔゔぅん、うーん、ううううーん、うんうんうーん、という「うーん」も経由したが、とにかくうーんである。

唸っている間、青年の頭の中では何百とある研究所の人事書類が行き来していた。1番から順に恐ろしい速さで流れていく。

「あ、いたいた。377番の水無瀬琉也だね」

頭の中が、ある一枚の書類で止まった。水無瀬の個人情報が全て乗った書類である。

「わーすごい、あの枚数記憶したんですか。いやーまさに神技ですね」

「こんぐらい昼飯前さ」

朝飯は食べなきゃなのね。と心の中でそっと呟く。

「えっと、名前は水無瀬琉也、17歳、戦闘員…うん、大体予想通りだね。戦闘員の訓練されてなければとっくに死んでるよ」

あ、やっぱあのスタンガン殺す気でやってたのね。

よかった、訓練されてて。意味わからん青年に殺されるとこだった。

…ん?殺される?

あれ、そういえば僕が気絶してる間にトドメを刺さなかったのは何故だ?生きていることを口止めするだけならさっさと殺してしまうのが合理的なはず。戦闘員の隙をついて馬乗りになれるほどの技術があれば、動かない僕を殺すなんて赤子の手をひねるようなもんだけど。

あ、幼児虐待はダメか。パプリカのヘタを捻るようなもんだけど。


「なんで僕を生かしといたんです?」

まぁわかんないことは聞いてみるのが一番だ。ご本人が目の前にいるんだから。

質問に対して青年は,口に手を当てて怪しげに微笑み、答えた。

「そりゃもちろん、君と交渉するためだよ。」

それを聞いた途端、水無瀬の頭の中でサイレンが鳴り響き、赤いランプが点滅し出した。

こちらは拘束されているため、条件を呑まない限り生きて帰ることはできないだろう。命が交渉材料なのだ。危険な研究組織の一員である水無瀬とて、死にたがりなわけじゃない。どんな無理難題を提示されても、生きるには,呑むしかない。

「そう。で、僕に何を求めるの?」

万が一の時は,青年にドライアイスブッ刺して逃げよう。

そう思っていると、青年は,少しの間をとって,言った。


「私の助手になってくれたまえ!」


「は?」数秒、脳の動きが止まった。

「は?」脳が動き出した途端、疑問が溢れ出した。

「はぁー?」意味がわからなくなって,考えるのをやめた。

「どう言うことですか」

わからないときは,人に聞くのが一番である。目の前にご本人がいるんだから。

「そのままの意味だ。私は組織を脱退した後,探偵としてそれなりの仕事をしている。ただ、表立って活動すると,組織の目が怖い。今日みたいに殺されちゃうかもしれないからね。そこで、だ」

パチン、と指を鳴らした。

「組織の情報を受け取れるかつ、用心棒にもなる君を助手としてスカウトしようって訳だ。どうだい?」

つまり、青年にこき使われるという訳である。

「無理!です!」

こいつについていったらまずいと,勘が言っている。

勘という、非現実的なものであっても、信じる時は信じなくてはいけない。あと、シンプルにこいつの下っ端になるのはなんか嫌だ。気に食わない。

「うーん、やっぱりかぁ。じゃあ聞き方を変えよう」

間延びした口調で言ったのち、

シュッ

と、持っていた万年筆を腹に突きつけ、

「死にたくなければ、条件を呑め」

と言う。

「無理」

「いいのかな?」

「あなたに人を殺せるとは思えません」

「ふぅ〜ん、だとしたら、そうだねぇ、」


ぐしゅ。


腹部に、猛烈な痛みが走った。

とてつもなく熱い。

びちゃびちゃ、と、床に赤黒い液体が落ちたところで、腹部から出血していることに気づいた。

歯を食いしばる。

全身から汗が噴き出る。


「思い違いだ。私がそんな生ぬるい人間に見えたかい、水無瀬くん。これでも元違法研究員。人の一人や二人、簡単に刺せる」

腹部から万年筆を抜き取った。

さらに出血して,体の自由を奪ってゆく。

じりじりと、死の淵に、近づく感覚。

どうにか、抵抗しようと、力を,振り絞る。


「ゔっゔあ゛あ゛あ゛っ」


残った、僅かな,力…で、能力を、発動させる。

二酸化、炭素や、その他、諸々の、気体…を、個体へと状態変化、させ、青年、に、向、けて、放つ。


だが。

「苦し紛れだね。脆弱すぎる」

青年に届く前に、気体に戻ってしまった。

じゅわっとドライアイスは消え去り,僅かに温度の下がった空気だけが残った。

冷たい空気を払い除けながら,青年は言った。

「条件を呑むと言うのなら,救ってあげよう。私は君を治療できる」

回らない頭を必死に動かし、体を動かす指示を出す。

水無瀬は、首を縦にふった。


「ふふっ、決まりだね」

青年はにこりと笑い、部屋の端へ歩いてゆく。

そして、とある戸棚の前で止まり,注射器を取り出した。

ワイシャツの袖をめくり,細い腕を露出させる。

血管に、針を刺した。ちゅーっと、スムーズに採血を行う。十分な量が採れたことを確認すると、肌から針を抜き、外筒を弾いた。

そのまま血は試験管に移される。

青年は,試験管を未だ苦しんでいる水無瀬の元まで運んだ。

青年は試験管を水無瀬の目の前まで持ってきて…

(ん゛!?)


口に,流し込んだ。

またしても水無瀬は、回らない頭で必死に考えた。

そして、一つの結論に至る。

(これ、まずいんじゃね)

血液型が不適合だった場合、なんか危ないことにならないっけ?凝固が始まって死に至るとかなんとか…ん?この人治療とか言って僕のこと殺そうとしてね?え?死こそ救済みたいな考えの人だったか?あれ、でも、血飲むだけならいいんだっけ。いや、どちらにせよこいつの血液飲むのは気持ち悪いから嫌だ。

…ちょ待てよ?


腹が痛くない。熱くない。

血液も十分に巡っている。

予感がして、血に染まった服をめくってみる。


これは、どう言うことだ?

「傷が…ない」

刺された傷が、もともと存在しなかったかのように消えている。抉れた肉は戻り,すべすべとした肌で覆われていた。

ついでに、スタンガンを食らった時の傷も消えている。

青年の血の効果か?だとしたら、こいつも能力者か。

本日3度目のご本人に聞こうのコーナーである。

「何の能力ですか?」

青年は,口に手を当てて言った。

「ふふふ、能力者のうちで最も希少とされる再生に加え、血を摂取させることで他人を治すこともできる、再生の上位互換。‘超再生’だよ。今日盛られた毒も、全身に回る前に内臓ごと切り取って仕舞えば、新品ほやほやの健康な臓器が出てくる。便利なもんだよ、滅多に死ぬことないからね」

珍しいでしょ、すごいでしょ、私。人類の1%以下だよ、すごいでしょ。と胸を張っている。

「超再生?それなら用心棒なんて要らないんじゃない?組織に狙われても再生するなら大丈夫でしょ。…てことで、さっきの取引は無かったことに…」

「そんなの駄目に決まっているだろう」

水無瀬の言葉をざっくりと遮る。

「そもそもね、再生するってだけで痛覚はあるんだよ。痛いのは嫌なんだよ。あと助手のいない探偵なんて唯の探偵じゃないか。私は名探偵になりたいんだ!」

と、若干キレぎみで言った。

「と言うことで、水無瀬くん、これから相棒として、頑張ってくれたまえ。あ、そういえば私の自己紹介がまだだったね」

青年は,散らかった机に足をかけ,飛び乗る。

上に立って、腰に手を当てると、言った。

「私の名は一条真央。名探偵だ!」

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