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第70話

メルティ王国へ来日。

 メルティ王城、応接室

 タケル達はこの国の王女と面会していた。


「勇者御一行の皆様、この国にお越し下さり、ありがとうございます」


「いえいえ、丁度休息と情報収集の為にこの国に寄る予定だったってだけですから」


「メルティ王国、此処は実に華やかな国ですね。歌や踊りだけでなく、芸術にも力を入れて、人々の心が豊かになるのが分かります」


「はい、メルティ王国は人々の心の感性や豊かさを育む事に力を入れてるのが特徴ですから」


「成程ね。そうする事で魔王の脅威の中でも人々の心にゆとりを与えている訳か」


「確かに、これなら人々にも安心感を持って貰えますね。…タケル様、どうされたのですか?」


「芸術かぁ。実は僕、美術の授業でも、あまり作品の良し悪しってのは分かんない方で、それで成績もそこそこなんだよねぇ。アイドルとかの芸能関連なら分かるんだけど…」


「アイドルとは、一体何なのですか?」


「えっと、可愛い女の子とかが、ステージの上で歌ったり踊ったりパフォーマンスをしたり…」


「吟遊詩人や舞踊とはどう違うのですか?」


「えーと…」


「私も興味が出て来ました!是非私にも詳しくお聞かせください!」


「アンリエットまで!?…仕方ないなぁ、教えてあげますか」


 と、そこでエミリアは魔導列車の座席で目を覚ます。


「…500年前の記憶か。今回はこの世界のアイドルを初めとする芸能文化についてか。これも勇者が起源の文化だったなんて…」


「500年前の記憶って何です?」


「あぁ、アリア達にはまだ話してなかったっけ?最近、夢で500年前の勇者と姫の記憶を見る様になったのよ」


「へぇ、エミリアちゃん、そんな夢を見る様になってたんだね」


「お姉様、お姉様!窓の外、もうメルティ王国が見えてきましたよ!」


「こらこら、はしゃがないの、ユフィ。…皆も、そろそろ下車の支度しておいて」


 こうして、エミリア達はメルティ王国に入っていくのだった。




 事の始まりは、ダブリスから帰って来て直ぐに遡る。

 アルテミシア王国の王都に帰って来たエミリア達は、門の出入口で待ち構えていたアリアと遭遇する事となった。


「皆さん、ようやく帰って来ましたか!」


「悪いアリア。こっちも捜査の仕事してたんで、直ぐに折り返しの通話が出来なかったんだ」


「それじゃあ、この2人をお願い」


「はっ!」


 と、ダグとジェシーを兵に引き渡したエミリア達もアリアの下に寄る。


「実は私、抽選応募でラーナ・レクルドのライブツアーの団体チケットを手に入れたんです!それで私、皆さんと行きたいんですけど!」


「いや、こっちも仕事が…」


「お願いします!私、前世でもこんな機会無かったし、誘うアテが皆さんしかいないんですよ~!」


 と、アリアはエミリアを掴んで、その身体をがくがくと揺らす。


「分かった!分かったから!私達も一緒に行ってあげるから!」


「やったー!ありがとうございま~す!」


 そして話を知って羨ましがったユフィも伴ってライブツアーに参加する事となった。




 そして現在、エミリア達はメルティ王国の王都の大通りを歩いていた。


「いやぁ、流石はエンタメの国。街中どこもかしこも芸能人を売りに出してる店が多いな~」


「それ以外にも、芸能事務所やサポート専門の施設とかも充実していて、正に娯楽に事欠かない街並みになってるね」


「確かラウディー先輩とリリアン先輩、こっちの専門学校に入ったって話だった様な…。折角だし、時間が出来れば、顔を見に行ってみようかしら」


「あの~、すみません!」


 と、エミリア達の下に大勢の人達が押しかけて来る。


「私、アイドル事務所の者ですけど、アイドル興味ありませんか!?」


「私もモデル事務所の者ですけど、そちらの彼も充分なルックスですね!」


「こちらでファッションモデルをやって下さい!」


「いや、こちらで読者モデルに!」


「え、いや、ちょっ、待っ…!」


 と、その時、エミリア達の頭上に光のイルミネーションが咲き誇り、皆が気を取られてる隙に何者かがエミリア達を手引きし、逃げた先の路地裏でエミリア達は対面する。


「大変な騒ぎでしたね、皆さん」


「全く、人の国に来て早々、余計なトラブルを起こすんじゃないわよ!」


「えぇ、仰る通りで。でも、お陰で助かりました、ミコノ王女、イクト王子」




 こうしてエミリア達は、連れられた店でミコノとイクトに帽子やサングラス等を買い与えられていた。


「取り敢えず、顔を隠しておけば大丈夫だと思います」


「アンタら本当に無防備過ぎるのよ!揃いも揃って芸能界でも通じるレベルの顔とルックスとプロポーションを持ってるんだから、この国に居れば格好の餌食にされるに決まってんでしょ!」


「すみません。仰る通りです」


「でも、私はやってみたいですよ、アイドル」


「やめなさい、ユフィ。一国の王女がアイドルなんてやったら、それこそ問題になり兼ねないし、お父様にお兄様、城の皆だって卒倒し兼ねないわ」


「でも、さっきの勧誘ラッシュ、こっちも恐怖を感じたのは事実だぞ」


「で、アンタ達あんな騒ぎを起こしてまで、何しにこの国に来たの?」


「あぁ、そうだったわ。実はアリアがラーナ・レクルドのライブツアーの団体チケットを手に入れたんで、彼女にどうしてもと言われて、皆でライブを見に来たのよ」


「ラーナ?それなら私達もついさっき、彼女にVIP待遇の権利を与えた後なのよ」


「えっ!?何時の間にそんな話が!?」


「それはそうですよ。彼女もそれ程までに売れて来たんですから」


「アンタら、ライブ会場に行くんでしょう?案内ついでに、彼女と話をさせてあげましょうか?」


「是非お願いします!生のラーナと話してみたいです!」


「アリアもこう言ってるし、そうさせて貰うわね」


 こうして、2人の案内の下、ライブ会場に向かうのだった。




 そうして連れられたのは、メルティ王国随一のライブ会場「メルティアリーナ」であった。

 そしてミコノとイクトの案内で会場の関係者エリアを進み、ラーナの控室までやって来た。


「ラーナさん、こちらミコノとイクトよ。入って良い?」


「はーい、どうぞ!」


 そうしてノックと共に控室に入ると、ラーナとマネージャー、そしてラフィニアが席に着いていた。


「あれ、ラフィニア様?どうして此処に?」


「私は仕事でこの国に来たついでに、妹のライブを見ておこうと思ってね。そう言う貴方達こそ、どうして此処に?」


「私達はアリアに誘われてライブを見に来たのと、2人の案内で此処に来ました」


「そうなの?まぁ折角だし、貴方達も妹の話し相手になって貰おうかしら。良いわね、ラーナ?」


「良いよ。と言う訳だからマネージャー、後よろしく」


「あっ、はい!直ちに!」


 と、マネージャーに見張りを任せ、会談に入る事に。


「さて、お会い出来て光栄です、ラーナさん。貴方の事はラフィニア様からも聞いております」


「こちらこそ、アルテミシア王国の王女姉妹と勇者の血族に会えて光栄ですよ。まさか態々この場所まで足を運んで来るだなんて思いませんでしたよ」


「それはアリアに言って下さい。私達は彼女の押しの強さに負けただけですので」


「えへへ~、でもそのお陰でラーナさんとお話出来る機会が出来ましたし」


「けど見たところ、僕達と同い年みたいだけど、もしかして学校に行きながらアイドルやってるの?」


「うん、そうだよ。学校に通いながらレッスンもして、アイドル活動やってるの」


「私達も彼女を見た時に、もしかしてアイドルでも通用しそうじゃねぇって考えてたんだけど、まさか下積みから始めて一気にここまで上り詰めるだなんて思ってなかったわよ」


「僕達の同級生から、こんな大物が現れるだなんてビックリしました」


「えへへ。まさか私もここまでになるだなんて思ってなかったものだったからね。でも、ステージの上で歌って踊ってパフォーマンスするのも悪くないよ。沢山のお客さんに見て貰えるし、拍手を送られるのは、本当に嬉しいんだもん」


「えぇ、我が妹ながら誇らしいわ」


「でもでも、アイドルやってるラーナさん、本当に可愛くて凄いです!私、憧れちゃいます!」


「ありがとうね、ユーフィリア様。貴方みたいな女の子にそう言われると、私も嬉しいよ」


「えぇ、本当に素晴らしいわ。アルテミシア王国に来た時は、是非ライブをお願いしますね」


「そうですね。その時はよろしくお願いします、エミリア様」


「ラーナさん、そろそろ時間です!」


「はーい!」


 と、マネージャーからのノックに応えたラーナも席を立つ。


「それじゃあ、私のライブ、見てってね!」


 こうして、ステージに立ったラーナがパフォーマンスで観客達を魅了し、客席のエミリア達も一緒にサイリウムを振って大いに盛り上がっていった。

 こうして、ラーナ・レクルドの今日のライブは、2国の王族と勇者と共に大盛況を迎えて幕を閉じるのであった。

こうしてライブに満足したエミリア達であった。

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