第71話
春休みのちょっとした一息。
ラーナのライブが終了し、エミリア達は舞台裏で彼女と話していた。
「ライブお疲れ様です!」
「いやぁ、流石トップアイドル!見事なライブでした!」
「えへへ、それ程でも~!」
「それでラーナさん、確か王都でのライブは今日が最後でしたよね?次はどちらに?」
「うん、明日から王都周辺の街を回ってライブをする予定。移動中でも出来るレッスンのスケジュールもちゃんと立ててるよ」
「今はまだこの国の外でのライブの予定は無いんですか?」
「そうだね~。こっちも事務所と学校と相談しながらアイドルやってるし、国の外については王宮とも相談しながらになっていくね」
「そうですよね。道中でも魔物や賊との遭遇だってありますし」
「私も一応、冒険者ライセンス持ってるけど、1人じゃあね」
「えっ、ラーナさん、冒険者なの!?」
「うん、一応。歌って踊って戦うアイドル、ラーナ・レクルドとは私の事!」
「そうだったんだ~」
「そう言う訳だから、今日のライブ、見に来てくれてありがとう!これからも応援よろしくね~!」
「はい、ではまた!」
と、ラーナとの挨拶を済ませた一同は、会場を出るのだった。
そして夜、ラーナもレッスンしながら、マネージャーとラフィニアと共に密会していた。
「で、どうだった、エミリア王女達に対する見立ては?」
「うーん、確かに今まで組織の邪魔して来ただけあって見てるだけでも確かな実力を感じるよ。それに、ケールとヴェルナンデを負かしたまでに至るまでの成長ぶり、かなりの強敵になり兼ねないね」
「それでどう、勝てそう?」
「誰に言ってるの?私もお姉ちゃんも、双性者の中では指折りの実力者なんだよ。ケイリーやミルザの様に簡単にやられたりはしない事くらい分かってるでしょ?」
「それもそうね。でも油断も禁物よ。彼女達の成長速度なら、私達の下まで辿り着ける筈よ。だからこちらでも、相応の準備を以て対処しておかないと」
「分かってるよ。私だって油断する気は無いよ」
「それはそうと、そっちもアイドル活動を怠らない様にね」
「そう言うお姉ちゃんこそ、ちゃんと聖女の仕事しておいてよね」
こうして彼女達の密会も静かに進んでいくのだった。
宿屋で一夜を過ごして翌日、エミリア達は魔導列車に乗って帰国した。
そしてその次の日、エミリアも早速、溜まった書類を片付ける事にした。
「ダブリスの件に、メルティ王国への来日で、書類も溜まっちゃったわね」
「まぁ、これくらい大した誤差にはなってないし、直ぐに片付く筈だろう」
「それはそうだけど、今は折角の2人きりだし、片付いたら何処かへ出掛けない?」
「それは名案だ。俺達2人共、仕事や学校で外で一緒に過ごす時間がそんなに無かったし、2人でデートと洒落込もうか」
「でもアラタ、貴方ちゃんとエスコート出来るの?」
「そんなに心配しなくても、カガリや他の冒険者連中からも色々言われながら、女性をエスコートする心構えを勉強しておいたんだ。だからちゃんとしたデートを約束してやる」
「うふふ、冗談よ。貴方がそこら辺も真面目なのはちゃんと知ってるわ。それじゃあ、素敵なデートをお願いね、私の勇者様」
「あぁ、最高のデートを約束するよ、俺のお姫様」
こうして、書類仕事を終えたエミリアとアラタは街へ繰り出すのだった。
それから、しばらく街中を回っていた2人は、カフェのテラス席で一息着いていた。
「結構色々な所に足を運んだわね」
「あぁ、そうだな。美術館の方も期間限定の絵画に人だかりが集まってたな。劇場公演についても、演者達のパフォーマンスも確かなものだった。動物ふれあい広場も、動物達も人馴れしてたし、気持ち良かった。ブティックも流行りの服が並んでいて、どれもエミリアに似合いそうだったな。まぁ、流石にランジェリーショップに寄ると言った時は、俺も身を引かざるを得なかったが」
「それはごめん。でも本当に仕方なかったのよ。私、昔から胸とかよくサイズアップしやすくて、その度に下着も買い替えなくちゃならなかったし。昔は警備とかの都合上、城の衣装係とかに頼んで、下着を仕立て直して貰ってたけど、今はこうして外で買う事も出来るし」
「まぁ、それは仕方ないな。身だしなみの一環としては」
「それで、次はどうしましょうか?」
「そうだなぁ…」
と、その時、遠くの方から轟音が鳴り響いた為、2人は急いで駆け付ける。
そして2人が目にしたのは、青白い男性型の人形が辺りを破壊している現場だった。
「何だあの人形!?ゴーレムの1種か!?」
「兎に角、今は周辺の人達の安全を最優先に…!」
エミリアが避難誘導を行おうとした途端、彼女の前を何者かが横切り、人形の腹を殴った。
「…成程、良い手応えです。これなら良いサンドバッグになりそうですね」
そして人形が連続で殴打され、止めのアッパーカットで空へ打ち上げられ、放物線を描いて地面に激突、そのまま動きを止める事になった。
「フフフ。最近屋敷に籠って全然身体を動かしてなかったので、良いストレス解消になりました」
「貴方、何でこんな所にいるの…?」
「あら、エミリア様、ご機嫌麗しゅう。何、息抜きがてら、冒険者ギルドでストレス解消に良さそうな依頼が無いか探しに来た最中に、この騒ぎを聞きつけて駆け付けた次第です」
と、その赤髪のウェーブのハーフアップと赤のバトルドレスの少女は答える。
「エミリア、知り合いか?」
「知り合いなんてものじゃない。フェリシア・ヴァンデグド、この国の有力貴族のご令嬢よ。彼女は貴族令嬢に相応しい知性と美貌と思慮深さを持ってるけど、その中身は直ぐ暴力に訴える事も辞さない狡猾で凶暴な性格で、その拳による被害者は数知れず。本人も頭が回るから、正当な理由さえあればそれを盾に出来る。そしてAランク冒険者でもあり、その二つ名は鉄拳令嬢」
「その名前、俺も聞いた事あるぞ。確か一見するとバラが似合う可憐な令嬢だが、その中身は、大型魔物ですら首を垂れる程の凶暴性の持ち主だと言う話だ」
「あら、星空の勇者にも知って頂けていたなんて光栄ですわ。それでは私はこのサンドバッグを持ち帰って…あら?」
と、3人が人形に目を向けるが、人形が細かく砕け、粒子になって風の中に消えた。
「残念ですね。壊れてしまいました」
「いや、この感じ、中の魔力が切れたから維持出来なくなったって感じだわ」
「一体誰が何の為に…?」
「そんな事より、私は次の獲物を探しに冒険者ギルドに向かいますね」
と、フェリシアはその場を去っていった。
現場近くの屋根の上で、ミルザはその場を眺めていた。
「きひひ、あれの精製と稼働の実験はこれでいいか。ちゃんと出来て何よりだよ。余計な邪魔は入ったけど、あれなら何とかなりそうだよ。…いや、もうちょっと色々試しておこうかな。こっちも万全な状態で迎え撃ちたいし。これで手柄を上げれば、上もアタシの事使えるって判断してくれるでしょう。そうすれば、あの糸目もアタシの評価を見直してくれる筈。…ケイリーがやられた以上、アタシだって立場が危うい事に変わらない。だから上にアタシは使える奴だと照明する必要がある。絶対に手柄と有用性を上げて、存在し続けてやる」
と、ミルザも険しい顔で宣言する。
ミルザもまた、自らの存在証明の為に立ち上がるのであった。
ミルザも動き出す。




