第53話
新学期開始。
とある草原の丘
そこにある墓の前でアンリエットは祈りを捧げ、タケルも後ろで立ち尽くしていた。
「…お婆さんは幸せだったでしょうか?」
「幸せだったと思うよ。最期はあんなに良い笑顔を見せてたし」
「結局私達は、お婆さんの病気を何とかしてあげる事が出来ず、死を迎えさせ、家族に悲しい想いをさせてしまった」
「仕方ないよ。人間を初め、皆この世に生を与えられた生物である限り、老いや寿命、病気や怪我とか言った、生物として当たり前のものとして与えられた概念には逆らえない。お婆さんの死も、その概要の前では仕方なかったんだ」
「やはり勇者や王族だろうと、救えない命もあるのですね」
「そりゃそうだよ。誰だって人間である以上、伸ばせる手の範囲に限りがある。だから自分の手が届く範囲までしか救えない。だからせめて、その人の心だけでも救おうとしなければならない」
「…そうですね。私達の手は、結局この範囲までしか伸ばせないと言う事ですね」
「だからこそ縁を大切にしなくてはならない。色んな人と縁を結べば、伸ばせる手の範囲も広がる。救える命だって増える。例え絵空事だったとしても、その人の中に宿る勇気と優しさを信じて、その人に誠実に応えれば、その人も誰かに手を伸ばしたいと考える。そうして連鎖していく事で世界を救う事も出来る。これが皆の力で世界を救うと言う事なんだ。でもその前に、先ずは悲しみをキチンと受け入れる事から始めよう。自分の間違いや失敗を受けれられなきゃ、ちゃんと成長出来ないから」
「そうですね。私達だって、1人の人間ですからね。この失敗も受け入れなくては」
と、そこでスレイは寮の自室のベットの上で目を覚ます。
「…500年前の記憶か。当時の2人もこんな風に成長していったのね」
寝起きの屈伸をしたスレイは仮面を被り、着替えて朝食の準備をする。
「おはよう~。今日から新学期だっけ?」
「おはよう、フィーナ。えぇそうよ。今日から1年間の最後の3か月に入るのよ」
「そっかぁ、アンタもこの1年で色々あったのよね~」
「確かにね。でも、そのお陰で私は成長する事が出来た。これも確かな事実よ」
「そうね~。あれだけの激動を体験すれば、そうなるか~。まぁでも、アンタも学生である今の内は、ゆっくりしても良いんじゃない?」
「そうね。しばらくの間だけでも、そうしておきましょう。」
そして朝食を済ませ、支度を済ませたエミリアは部屋を出る。
アルテミシア学園、生徒会室
今日も朝の定例会議が開かれていた。
「…以上をもちまして、今学期における生徒会の取り組みに関する会議を終わります」
『お疲れ様でした~!』
と、会議が終わったタイミングでラウディーとリリアンが入って来る。
「ラウディー先輩にリリアン先輩、一体何の御用でしょうか?」
「大した事じゃない。今の生徒会が上手く活動出来てるか見に来ただけだ」
「大丈夫ですよ。私だって生徒会長としての責務にキチンと全う出来てますし、役員の皆だって、優秀な者達ばかりで助かってますよ」
「そうか。それを聞けて何よりだ」
「ほらラウ、私の言った通り大丈夫だったじゃない。私達も受験に専念出来るくらいに」
「そう言えば2人は服飾の専門学校へ進学するんでしたっけ?」
「あぁ、俺達2人共高い成績を修めているし、合格を狙えるくらいにはなってる」
「それで私達、向こうからも推薦を貰ってはいるのよ」
「へぇー、凄いじゃないですか」
「そう言う訳だから、俺達も受験に専念するんで、後の事は引き続き頼んだぞ」
と、2人は生徒会室を去っていった。
1年1組教室
こちらでも朝のHRが行われる事となった。
「新年を迎え、皆で新たな始まりを迎えられた事を嬉しく思う!今月はこれと言ったイベントは無いが、来月には学期末試験が控えている!これには、この1年間の勉強の結果が大いに振るわれる事となる!この試験を終えたら、再来月に3年生の卒業式、それからしばらくしたら終業式だ!皆、この残り3か月、存分に力を奮って、2年生に進級出来る様になれよ!」
そしてHRが終わり、皆もこれからの事を話し始める。
「1年生ももうすぐ終わりか~」
「これからは2年生として、新しく入る子達から先輩って呼ばれる事になるね」
「1年間もあっという間に過ぎてっちゃうものなんだね」
「それ以前に、先ずは学期末試験を乗り越える事でしょう?成績が悪いと進級出来ないし、新しく入る1年生達にも示しがつかなくなっちゃうんだから」
「そう言うエミリアは何も問題無いだろうけど、来月に控えているバレンタインデーは大丈夫なの?」
「うっ!…分かってるわよ。時期が近づいたら、ちゃんとチョコ作ってアラタに渡すから」
「そうしろ。今はもう彼氏持ちとなってる以上は」
「一々掘り返さないの、レオニー。…まぁ取り敢えず、先ずは勉強のプランを組み立てる事かな?そうしとけば、チョコの用意と両立出来るし」
「やっぱり真面目だなぁ、姉さんは」
「当たり前でしょ。私だって一国の王女なんだから」
冒険者ギルド、受付カウンター
アラタは現在、依頼の受注を行っていた。
「はい、これで受注完了ね」
「それじゃあ、行ってくる」
「あっ、待ちなさいアラタ。来月にはバレンタインデーが控えているでしょ?やっぱりチョコ欲しい?」
「そうだな。最近気にしてなかったが、やっぱり欲しくなるな」
「そっかそっか。アンタも気になる年頃なのね。まぁ、エミリア様から貰えるのは確定してるし、問題無いだろうけど」
「いや、そんな事…まぁ、それもそうか。アイツならそこら辺ちゃんとするだろうし。そう言うお前こそ、シェズにチョコ渡すんだろう?」
「そりゃあね。何だかんだ言って頼りになるし、残業だって手伝ってくれるし。義理は果たさないと」
「人の事言うくらいなら、自分の身の回りも意識しておけ」
「はいはーい。分かってますよーだ」
「全く…。それじゃあ、行ってくるからな」
と、アラタもギルドを出て、依頼に向かうのであった。
放課後、アルテミシア学園、中庭
ウェインは現在、"天の笛"との秘匿通信を行っていた。
「はい、こちらも潜入調査は順調です。学園側からの信頼も勝ち取っています。はい、引き続き調査を続行します。ではまた」
そして通信を終えたウェインは生徒会室へ向かう。
「さて、こっちも生徒会の仕事をちゃんとやっとかないとな」
それから進行方向にいたエミリアに気付き、声を掛ける。
「エミリア様、お疲れ様です」
「あぁ、ウェイン?貴方も今、生徒会室に向かう所?」
「えぇ、そうです。しかし、こうしてエミリア様と途中で合流するなんて珍しいですね」
「あぁ、実は昼休みにね、2組のティティアが私の身体を触って、身体データを更新するべきだって言ったんで、さっき冒険者衣装も持って家庭科室に行ってたの。で、身長に体重、スリーサイズに至るまで更新されて、衣装も細かく手直しされる事になったから、こうして家庭科室から直行で向かう事になったって訳。…まさか背が伸びただけでなく、ウエストがちょっと絞られて、バストとヒップもちょっと大きくなってたなんて」
「あぁ、そうだったんですか。それは大変でしたね」
「えぇ、年頃の女の子としてはね。…っと、今は生徒会の仕事をしないと」
「っと、そうでした。早く生徒会室へ」
こう言うやり取りをしながら、2人は生徒会室へ向かう。
この残り3か月、どの様になっていくのかは、まだ分からないのであった。
始まりの一幕としてはこれくらい。




