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第51話

年末の一幕。

 現在、アルテミシア学園は終業式を終え、冬休みに入っていた。

 当然、年末年始の休みの期間に入る為、家族と年越しをする為に帰省する生徒も大勢いた。

 そんな話とは別に、年末となると、年越しまでに片付けなければならない仕事が大量にある場所もある。

 それは当然、アルテミシア城も例外では無い。

 城のあちこちでも、忙しく動く人々が大勢いた。

 王宮騎士団の各所では…。


「忘年会?噓つけ!だったら何だ、この店の荒れ様は!」


「すんません…。酔った勢いで羽目外し過ぎて…」


「こっちでも、スリを検挙しました!」


「空き巣の現行犯も捕らえた為、こっちも詰め所に連行しておきます!」


「すみません、ベイル殿にも手伝って貰う事になってしまって…」


「いやいや、これくらいお安い御用だよ、アルベルト様」


 王宮内部の執務室では…。


「文官殿!こちらの書類お願いします!」


「財務官!今年度の関税に関する報告書の確認お願いします!」


「行政長官!今年度の法律に関する報告書です!」


「国王様!こちらも書類まとめ終わりました!」


「分かった!そこに置いといてくれ!」


「貴方、こちらにも回して頂戴!」


 当然、帰った日に家族での小さなクリスマスパーティーを済ませたエミリアもまた、その翌日から城の書類整理を手伝っていた。


「これは街の街灯や交通整備等に関する工事の報告書、こっちは城の備品や備蓄の管理表、こっちは城の労働者名簿、こっちは街や周辺の地域からの被害報告書…。…あ~、やっぱり年末になると、城の書類もかなり多くなっちゃう!」


「そう言うな。これが管理職ってものなんだから」


「アラタもありがとうね、書類整理手伝って貰って」


「良いさ、これくらい。ギルドでも残業続きで、またカガリが機嫌を悪くして、純白の盾(セイクリッド)も手伝ってるくらいだから。…こう言う時、カイト達も手伝いに来そうなものだが…?」


「それがカイトは実家の手伝いに行って、ハルトマリーもシェーラと家の大掃除、スバルは教会の仕事に掛かり切りで、レオニーも部下達と騎士団を手伝ってて、4人の手を借りられない状態なのよ」


「そうか。それは仕方ないな」


 と、そこにユフィが部屋に入って来る。


「お姉様、お仕事大丈夫ですか?」


「あぁ、大丈夫よユフィ。ちゃんと終わらせて見せるから」


「やっぱり私もお手伝いした方が…」


「大丈夫だって。それに、貴方もまだそこら辺の勉強、ちゃんと済ませて無いんでしょ?ここはお姉ちゃん達に任せて、年越しを祝う為の準備をしておいで」


「分かりました。でしたら、ぱぁーっと祝える様にしておきます」


 そう言ってユフィは部屋を去っていった。


「…そう言えばアラタは実家に帰らなくて良いの?」


「うちは基本、親父と上の兄貴2人が居れば事足りるからな。一応手紙は送ってるぞ」


「そうなの。まぁ取り敢えず、一旦休憩しましょうか」


 それから2人も休憩を挟んで、書類整理を行うのだった。




 ワーグナーの屋敷、稽古所

 カイトはゲイルに頼まれ、成長の度合いを見せていた。


「…そこまで!」


「…ありがとうございました」


「見違えたなカイト。まさかオーラの力に目覚めていただなんて」


「これもスレイ兄さん達と過ごしたお陰だよ」


「そうか。…所で、アイツは今どうしている?その、息子が娘に変わった以上、そこら辺気になってな」


「うん、ちゃんと1人の学生として、王女として、そして愛する人を持った女性としても日々頑張ってはいるよ」


「そうか、アイツも頑張ってるか。…やっぱり複雑だな。6年前、音沙汰も無く姿を消した息子が、いきなり女、しかも王女として生きていただなんて。こっちも今後、どう接したら良いか…」


「別に難しく考えなくていいんじゃない?兄さんだって、そこら辺気にしないでいてくれるし。何より、もう男としての自分に対する未練も無くなっていく程、段々女の子に染まって来てるし。父さんも、エミリア姉さんに対して、ただの親子として接したらいいんじゃないの?」


「…そうだな。如何やら私も、難しく考え過ぎてたみたいだな。お前と話したお陰でスッキリしたよ」


「それは良かった。それじゃあ僕も、此処の手伝いが終わったし、そろそろ城に行くね」


「あぁ待て、カイト、折角だから…」




 シェーラの家

 大掃除を終えたシェーラとハルトマリーは、紅茶を飲んで一息付いていた。


「…そう、スレイの方も、段々仮面と同化していってるのね」


「うん。素顔の方も、もう男の声と髪の色以外は、完全にエミリアになってました」


「成程。と言う事は、後もうひと押しで完全なエミリアになれそうね」


「そうなった場合、対価として払ったスレイの胴体ってどうなっちゃうんですか?」


「そりゃあ、もう元の肉体への未練が無くなった以上、こちらで別の形で有効活用するに決まってるじゃない」


「そうなんですか。それじゃあ、俺達も城に行って、エミリアの仕事を手伝って来ます」


「あぁ待ちなさい。折角だから…」




 アルテミシア城、エミリアの執務室

 エミリアとアラタも、書類の山を半分まで片付けていた。


「…ようやく半分までいったわ」


「このペースなら、年越しのタイミングまで間に合いそうだ」


「いや、まだよ。追加の書類が入って来る可能性も…」


 と、その時、部屋にカイト達が入って来る。


「姉さん、お待たせ。実家の手伝い終わったから来たよ」


「こっちも急いで掃除を済ませて来た」


「私の方でも、後は教会の方でやっとくから、もう上がって良いって言われたから、手伝いに来た」


「アタシももう騎士団だけで事足りる程落ち着いてきたから、後の事を任せて来てやったぞ」


「そう言う訳だから、皆でさっさと片付けて、楽しく年越しをしよう」


「ありがとう、助かったわ」


 そう言ってカイト達も書類整理に入り、6人で書類の山を片付けていく。




 こうして6人掛かりで書類の山を片付け、夜を迎えた直後のタイミングで書類が全て片付いた。

 城のあちこちでも、年末の大仕事を終えた事で歓喜の声が上がっていた。


「よっしゃー!全部片付いたぜ!」


「何とか年越しまでには間に合ったね~!」


「これで気持ち良く新年を迎えられる!」


「皆お疲れ様!お陰で新年まで後3日のタイミングで、仕事も全て片付ける事が出来たわ!そのお礼として、皆にも年越し蕎麦とおせちを振舞ってあげるわ!私も厨房を手伝いたいし!」


「あぁ、だったら僕、父さんから良い物貰ってるから」


「俺達もシェーラ先生から良い物貰ってるわ」


「あの2人から?」




 大晦日、アルテミシア城、大広間

 今夜は城の人間達の1年間の労働の労いも兼ねて、城の中の人間達大手での忘年会が開かれていた。

 そしてエミリア達の使っているスペースでも、年越しの料理を食べている所だった。


「皆、本当に1年間お疲れ様!今夜はたっぷり楽しんでいって!」


「わーい!お姉様達と年越しです!」


「あれ?アルベルト様とアルフォード隊長は?」


「あの2人は、大人の方の集まりに対応してるよ」


「そりゃそうか。…にしても、あの魔女さんも、粋な計らいしてくれるな」


「そうだね。先生の送ってくれた特製シャンパン風炭酸水で、俺達も気兼ねなく飲めるもんね」


「父さんも、姉さんがお世話になってるお礼として、大人用のワインも取り寄せるくらいだからね」


「そう言う訳だから、この1年間に感謝して、私達も楽しむわよ!」


『おぉ~!』


「フフッ、こう言う時でも皆を楽しませようとする心掛け、流石俺が惚れただけはあるな」


 と、エミリア達も1年間の充実した日々に感謝して、忘年会に明け暮れるのだった。

12月のエピソード終了。

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