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第50話

クリスマスの決闘。

 朝、アルテミシア学園女子寮、エミリアの部屋

 エミリアは出発前にアラタと連絡していた。


「それで今夜、私の部屋に来れそう?…うん、分かった。それじゃあ、今夜また」


 そして通信を終えたエミリアは直ぐ支度を始める。


「アラタ、来られそうなの?」


「うん、仕事もなるべく早めに片付けたから、今夜来られそうって」


「そう。それで、あの話の事だけど…」


「分かってる。なるべくじらす事が無い様、ちゃんと考えるつもり」


「なら良かった。それならはっきりと伝えておきなさい」


「えぇ、そうする。それじゃあフィーナ、行くわよ」


「はいはい」


 フィーナも返事と共にエミリアの胸の中に入り、エミリアは部屋を出る。




 本日のアルテミシア学園は、終業式前の祝いとして、クリスマスパーティーが開かれる日である。

 その日の授業日程と共に、エミリア達も校内の生徒達の誘いに柔軟な対応を行い、夕方のパーティーの時間まで穏便な時間を過ごしていた。

 そしてパーティー会場にて、遂に生徒達によるクリスマスパーティーが開催された。


「エミリア様!僕と相席、お願いします!」


「是非、俺とも相席を!」


「僕には「あ~ン」もお願いします!」


「おい、そこ。滅茶苦茶図々しいぞ」


「カイト君、私と一緒に食事でも!」


「ソーマ君とランスロットさんもお願い!」


「レオニーさんも、私達と相席を!」


 これらの誘いにエミリア達も当たり障りのない対応を行い、生徒達を満足させていった。

 そしてエミリア達も落ち着いた場所で小休止を取っていた。


「疲れた~!」


「私達の人気がこんなにあるだなんて想定外だった~!」


「だから言ったろ~、お前ら人気あるんだって」


「まぁ取り敢えず、今の内に休んでおこう~。また引っ張りだこになるかもしれないし」


「そうね~。兎に角今の内に…」


「ねぇねぇエミリア様~。私達と一緒に遊びましょう~」


「ごめん、ちょっと休ませ…」


 と、エミリア達は声を掛けて来た者達に、言葉を失う。


「ケイリー、何で貴方が此処に?」


「ミルザまで!?それにその制服!?」


「言う訳ねぇだろ。ちょっと面貸せ」


「今、主導権を握ってるのはアタシ達だよ~。言う事聞かないと、此処にいる奴ら皆殺しにしちゃうよ~」


「…分かったわ」


 そしてエミリア達は、2人の誘導の下、中庭まで足を運ぶ。


「…よし、此処なら誰にも見られねぇだろ」


「貴方達、どうして此処に?」


「決まってんだろ?お前らには仕返しをしに来た」


「そんな事の為に、学園の中に入り込んだと言うのか?」


「まぁまぁ、アタシ達は本気で嫌がらせをしに来た訳じゃないの。ほら、先月のフィルビアの件で、貴方達負けちゃったでしょう?で、恐らく稽古くらいはしている筈だし、こっちでも見てあげようかな~って」


「まぁ、そんな所だ。言っとくが、俺達だって、あの時より強い力を見せつけるからな。精々、腕1本程度で済ませられる様にしとけよ」




 敷地内の森

 その場でエミリアとケイリー、カイトとミルザと言う形で対峙し、対決する事となった。


「あの時の反省を活かして、今度の得物は小回りが利く様にした」


 そう言ったケイリーは亜空間から2本のハンドアックスを出して構える。


「アタシもあの時、遊びでやってただけだからね~。これがアタシの本来の武器」


 そしてミルザも胸元から1本の柄を出して、その端から雷の刃を出す。


「ビームサーベル!アイツ、どこぞの宇宙戦争特撮の剣士かよ!」


「何言ってるのレオニー?」


「いや、気にするな」


 と、外野側からの軽いやり取りもあった。


「言っとくけど、私達だってちゃんと強くなってるわよ」


「へぇー、そりゃあ楽しみだ」


「お兄さん、もっと楽しませてね~」


「今回だって、負けるつもりは無い」


 そしてしばらくの静寂が過ぎた後、お互いに駆け出し、武器のつば競り合いの音が響いた。

 ケイリーが身を屈めてエミリアの股下を潜り抜け、左の斧を振り上げ、エミリアも前転で回避。

 そのまま逆立ちして剣を振り、ケイリーも斧で防ぎ、その反動を使って距離を取る。


 ミルザが刀身を後ろに傾け、カイトがバランスを崩した所に蹴りを入れ、後ろへ転がす。

 そして頭目掛けて刀身を振り上げようとした所を、カイトも横へ転がって回避。

 カイトも起き上がって剣を振り抜くが、ミルザもバック転で回避し、柄尻から刀身を出し、カイトも頭を傾けて回避する。


 ケイリーが斧を真横にして回転、エミリア目掛けて突進し、彼女も剣で受け流す。

 回転の中心に剣を突き立てるが、ケイリーも止まって斧を交差させて防ぎ、距離を取る。


 ミルザも剣をバトンの様に回転させ突進。

 そのまま刀身を交互に繰り出し、カイトも防いでいく。

 そして交差する直前に雷の刀身が消え、ミルザもその勢いを利用して回転蹴り、カイトも後ずさっていく。


「ふぅ~、流石にこれくらい、受けきって当然か」


「ケイリー、もうウォーミングアップはこれくらいでいいんじゃない?」


「そうだな。俺達もそろそろ本気を出すか!」


 そう言ってケイリーは茶色のオーラを、ミルザは雷のオーラを出す。


「もう油断しねぇ。きちんと土属性のオーラを出す」


「アタシもちゃんと稽古を積んできたんだよ~。この前と同じ様にはいかないよ~」


「…それはこっちも同じ。カイト、私達も!」


「うん!」


 その言葉と共にエミリアは虹色の、カイトは青色のオーラを出す。


「なっ!?お前ら何時の間にオーラを出せる様になったんだ!?」


「こっちだって、ちゃんと修行してたのよ。私達を舐めないで頂戴」


「へぇー、面白い。試してやろうじゃないの!」


「…来い!」


 エミリアは足元に風の力を出して突進。

 そして炎を纏った剣を振り下ろし、ケイリーも斧で受け止める。


「成程。複数の力を組み合わせた攻撃か、悪くない。だが、まだ足りねぇ。土の力による防御、生半可じゃあ突破出来ねぇぞ!」


 ミルザが駆け出し、雷の刀身を振り抜いた所をカイトは受け流して、柄尻で腹を殴り、ミルザも態勢を立て直す。


「かはっ!…成程、そのオーラは水属性だね。相性悪そう」


「そっちこそ、舐めた態度は取らない方がいい」


 エミリアの左右から土の柱が突き出し、エミリアも風の盾を出して防ぐ。

 ケイリーも剣を弾いてエミリアの頭上に岩を落とし、エミリアも土のドームで防御。

 ドームが消えたと同時に、エミリアは視界一面に構えた光の矢を発射、ケイリーも土の壁で防ぐ。

 ケイリーの影からエミリアが飛び出し、水でケイリーを包み、そのまま蹴り飛ばす。


 ミルザが雷の矢を飛ばした途端、カイトは剣で絡め取り、水の斬撃を飛ばす。

 ミルザも直ぐに跳躍し、柄尻の刀身を突き立て更に跳び、回転に乗って剣を振り下ろす。

 カイトもその太刀筋を受け流し、そしてミルザを蹴り上げる。

 ミルザが地面に落ちる寸前、カイトが水を纏った剣を横に振り、ミルザも防いで態勢を立て直す。


「…ケイリー、これくらいやれば充分でしょ~?」


「そうだな。そろそろ引き上げるか」


「なっ!?もう逃げるの!?」


「悪いな。ジルティナの奴も適当に暴れておけとしか言ってない。つまり、殺しまでは期待していないと言う事だ」


「そう言う事~。今回は貴方達の戦闘データの更新が最低ノルマなの~」


「と言う訳だ。お前らがオーラを使える様になったと言う情報だけ持ち帰らせて貰う」


「じゃあね~、お姫様達」


 そう言って2人は転移結晶(テレポートクリスタル)でその場から消えた。


「…何か引っ掛かるけど、一応アルベルトお兄様に連絡しておきましょう」


 釈然としないまま、エミリアはアルベルトに報告し、皆とパーティー会場に戻るのだった。




 "天の笛"本部、ジルティナの部屋

 ケールは手に持っていた物をジルティナに手渡していた。


「はい、例の貴族の屋敷から盗んだ宝玉」


「ご苦労様です」


「ケイリーとミルザが学園で暴れてくれたお陰で潜入もスムーズだったわ。あの2人のお陰で王宮も注意がそっちに向いて、元々手薄だった屋敷が更に侵入が容易くなったもの」


「そうですね。あの2人も姿を現してくれたお陰でエミリア王女達も王宮に警戒を促させざるを得なくなり、それによって、注意を向けさせられたのですから。まぁ、あの2人も感づいてたみたいですけど」


「それじゃあ、用も済んだし、私はこれで失礼するわね」


「えぇ、お休みなさい」


 そう言ってケールは退室、そのまま自室のベットへ直行した。


「ふぅ~、これで休めるけど、ダーリン来てくれるかしら?」


 と、その時、部屋にサラサラな茶髪のストレートロングで、アームカバーとサイハイブーツ、そしてミニスカートとブラウスで、バランスの取れたプロポーションの美少女が入って来る。


「お待たせ!やっと仕事の時間を空ける事が出来たよ!」


「ダーリン!来てくれたのね!」


「もう~、その呼び方止めてよ~。今の私は、メルティ王国で名を連ねるトップクラスのアイドル、ラーナ・レクルドなんだから。ちゃんと名前で呼んで」


「良いでしょ?私にとっては愛するダーリンなんだから。それと、何とかこの時に間に合ったのね」


「うん、事務所と掛け合って、何とか時間を貰えた」


「有名なアイドルになると本当に大変ねぇ」


「そうだよ。本当にもう仕事やレッスンがびっしり詰まっちゃってて。でも、その分この時間が楽しみになってくるから」


 と、ラーナは顔を赤らめ、スカートの前部分を不自然に盛り上げる。


「それ、中に収納して、性器を自由に切り替えられるとは言え、興奮の仕方で片方の性欲が強くなると、そっちの方が前に出やすくなっちゃうって話だったわね。それじゃあ、直ぐ戻れる様、慰めましょうか」


 と、ケールは直ぐ服を全て取り払って、受け入れの態勢を取る。


「そうだね。早速しよう」


 と、ラーナも直ぐ服を脱いでベッドに飛び込む。

 この時、部屋から男の声で出される女の喘ぎ声と、女の声で出される男の喘ぎ声が、1時間くらい響いたとの事である。




 夜、アルテミシア学園女子寮、エミリアの部屋

 エミリアはアラタを部屋に招き入れ、料理を振舞っていた。


「はい、おまちどおさま」


「ありがとう。頂くよ」


 そして2人は直ぐに食事に入る。


「どう、美味しい?」


「うん、美味い。流石はエミリアだ」


「そう、良かった」


「所で、"天の笛"の奴らが此処に来たみたいだな?アルベルトから聞いた」


「えぇ。でも、直ぐに引いてくれたわ」


「そうか。お前らに大事が無くて良かった」


 そう言ったアラタはコートのポケットの中から小包を出して、エミリアに差し出す。


「…俺からのクリスマスプレゼントだ。開けて見てくれ」


 そして箱の中に入っていたのは、白い翼の髪飾りだった。


「これ…」


「お前、夏の時、鳥や魚が好きだって言ってただろ?だから、その、気に入って貰えたら…」


「…えぇ、気に入ったわ。ありがとうアラタ。あっ、私からも」


 と、エミリアも奥から小包を取ってきて、アラタに差し出す。


「私からのクリスマスプレゼント」


 そして、その箱に入っていたのは、赤い宝石の入ったネックレスだった。


「アラタって、基本装飾品とか無頓着そうじゃない?だから、あんまりかさばらないネックレス。宝石の色については、私の目と対となる赤を選んでみたの」


「…そうだな。これから身に付けさせて貰おう」


「…あっ。ねぇアラタ、外を見て」


 と、2人が窓に目を向けると、外に雪が降っていた。


「綺麗…!」


「あぁ、今日はホワイトクリスマスだな」


 食器棚の上で笑っているフィーナも気にせず、2人は外の雪を眺めている。

 こうして、2人の白くて甘い聖夜は幸せな空気に包まれながら過ぎていくのだった。

甘い聖夜のひと時を。

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