第45話
フィルビアでの戦闘開幕。
アルテミシアチームVSヴァーリ
エミリア達は既に臨戦態勢で構えており、ヴァーリも不敵な笑みを浮かべていた。
「聞いたよ~。あのケイリーとミルザに勝ったって。中々やるね~。それでこそ倒す甲斐がある」
「あの野郎、随分とまぁ、舐めた口聞いてくれるな」
「そっちこそ、姉と分離してて良いの?確か双性者は、融合によって引き出される潜在能力が売りの筈でしょ?」
「構わないよ~。だって僕達、それ程までに強いし」
そう言ったヴァーリは、籠手の刃を展開し、エミリアの下へ駆けるが、スバルが障壁を展開する。
「へぇー、やるじゃん」
そしてハルトマリーが魔力弾を撃つが、ヴァーリは跳ぶ。
レオニーが銃を撃つが、ヴァーリは回転して斬り落とし、そのまま着地。
両側からエミリアとカイトが斬りかかるが、ヴァーリはそれを防ぐ。
「中々に良い連携。実力は充分。でも、まだ足りない!」
ヴァーリは2人を押しのけ、ハルトマリーの首を落とそうと、その刃を振るうが、彼女も身体を仰け反らせる。
「魔導士にしては、良い反射神経だね」
「こっちだって、それなりの修羅場はくぐって来てるんだよ!」
そう言ってハルトマリーは火球を放ってヴァーリを引き離し、影の触手とスバルの光の鎖で捕縛。
そのままレオニーが首目掛けてサーベルを振るうが、ヴァーリはニヤリと笑い、魔力で拘束を引きちぎり、レオニーも突き放す。
「ハハハ!いいね!昂って来た!」
「これは…!ミルザの時と同じ!?」
「この僕に、このオーラを使わせた事、光栄に思いなよ!」
緑のオーラを纏ったヴァーリが接近、カイトも刃を防ぐが、剣が何度も打ち付けられ、カイトは後ずさっていく。
「何だこの攻撃!?後から何連打も続いてやって来る!?」
「僕の力は風。疾風の如く、一度に何連打もやって来る!」
ヴァーリが足元を削って土煙を出し、それに紛れてレオニーに刃を振るい、防いだサーベルを痺れで手放させ、その隙に蹴り飛ばす。
そこを彼女より更に上へ跳び上がり、かかと落としで突き落とす。
ヴァーリも着地と同時にその場で回り、風の斬撃を飛ばし、エミリア達もすぐさま回避する。
「ほらほら、どうした!?僕の攻撃に手も足も出なくなったか!?」
「くっ!こいつ、思ってたより強い!こっちは5人掛かりなのに!」
「それに向こうはまだ手を抜いているのに、ここまでなんて!」
「不味いわね…!もし姉と1つに戻ったら…!」
ゼシカ&デュークVSファム
ゼシカは冷たい微笑みでファムを見つめていた。
「何、お姫様?何か言いたい事でもあるの?」
「いえいえ、そんなのではありません。我が国で粗相を働く狼藉者をどう懲らしめようか考えていただけです」
「粗相って、私達はただ、あの巨大ゴーレムをくれって言ってるだけじゃん」
「そうは行きません。あれもまた、我が国の財産なのですから」
「くれないってんなら、力尽くで奪うだけだ!」
そう言ってファムはグリーブの刃を展開、ゼシカを蹴ろうとするが、すぐさまデュークが防ぐ。
「姫様に手出しはさせん!」
そしてデュークは剣でファムを弾き、ファムも着地を決める。
「いいねいいね。常に姫の身を守る騎士、お前も潰し甲斐があるよ~!」
ファムが氷のドームに包まれるが、それも直ぐ炎の鞭で砕かれる。
「炎と氷、私達相性が良いみたいだね~」
「その様ですね。では、覆してみましょうか」
そう言ってゼシカは氷の柱を飛ばし、ファムも跳び上がって避けて、炎の斬撃を飛ばす。
それをデュークが斬り払い、跳んで剣を振り下ろし、ファムもそれを防ぐ。
そこからファムは地面目掛けて跳躍してからゼシカ目掛けて跳び蹴り、ゼシカも氷の壁で防ぎ、瞬間冷凍を試みるが、ファムも直ぐ炎のオーラを出して溶かす。
「これでもうアンタの氷は届かない!丸焼きになりな!」
それに堪らずゼシカも極寒の戦姫を使い、ファムの炎の足を槍で防ぐ。
「いきなり極寒の戦姫を使う事になるだなんて…!」
ゼシカもそのままファムを弾き、ファムも離れた位置で着地する。
「へぇー、そっちもそんな切り札を持ってたんだ~」
と、そこにゼシカの下へエミリア達が吹っ飛ばされ、ファムの隣にヴァーリが立つ。
「エミリア王女、大丈夫ですか!?」
「えぇ…。ごめんなさい、ゼシカ王女。こっちも思ってたより強くて」
「いえ、こっちも切り札を使わざるを得ない状況に追い込まれましたので」
「へぇー、ヴァーリ、アンタもエミリア王女達を追い詰めてたんだね」
「そう言う姉さんこそ、結構善戦してるみたいだね」
「まぁこの程度なら、合体するまでもないわね」
「確かに」
サイバーズ出張版VSジルティナ
こちらもお互いで初手の構えに出ていた。
(さて、相手は敵の主力幹部。相手の手札が分からない内は無暗に突っ込むべきじゃない。こっちも1年間の戦闘経験を生かしつつ、慎重に攻めて行こう)
「成程。そうやってじっと観察に徹する辺り、それ相応の経験を積んでるみたいですね」
「まぁな。こっちだって世界を救う為の戦いに身を投じてたんだ。それなりの場数は踏んでる」
「そうですか。では…初手はこちらから!」
そう言ってジルティナは氷の雨を降らせ、サイバーレッド達も直ぐに散開。
「サイバーブラスター!」
<ノーマル・バスター!>
サイバーレッドも銃を撃ち、ジルティナはそれを回避。
ミュリナが水の渦で捕らえる。
「サイバーブレード!」
<ウィンド・ブレード!>
「クラウ・ソラス!ウィップモード!」
サイバーレッドは風の斬撃を飛ばし、ランスロットが剣を変形させた鞭を振るうが、ジルティナは渦を脱出、火球を放って2人を吹っ飛ばす。
「サイバーキャノン!」
<ドッキング!パワード・バスター!>
サイバーレッドは変形させた剣を銃口に取り付け、大玉の弾丸を発射。
ジルティナも剣で防ぎ、靴底を鳴らしながら後ずさる。
そしてサイバーレッドも武器を分離させて駆け出し、ジルティナも弾丸を斬り裂く。
<エレキ・ブレード!>
サイバーレッドの電撃を纏った剣をジルティナは防ぎ、サイバーレッドも銃口を彼女の腹に当てる。
<チャージ・バスター!>
エネルギーが込められた弾丸がジルティナに命中。
彼女も腹を抑えながら膝を着く。
「流石に異世界の戦士は強いですね。装備の喧しい声は気になりますが」
「例え世界が違っても、俺はヒーローだ。その責任には応えなくちゃならねぇ」
「ならば、その責任、果たせるかどうか試してみましょう」
と、ジルティナはサーシャに向けてマグマの弾丸を放つが、それも純白の狼の遠吠えでかき消される。
「フェンリル…。サーシャ王女、貴方はテイマーでしたか」
「私だって一国の王女です。自衛の手段くらい持ち合わせています」
「貴様、よくも我が主に手を挙げたな!クラウ・ソラス、バスターモード!」
剣をバスターソードに変形させたランスロットが衝撃波を放ち、ジルティナも避ける。
「ソーマ!2人で散弾よ!」
「応!」
<ガトリング・バスター!>
サイバーレッドの散弾銃とミュリナの水の雨でジルティナの周囲が埋め尽くされ、そのまま命中。
そして煙が晴れて目にしたのは、障壁を展開して立ってるジルティナだった。
「光魔法の障壁…。まさか貴方、全属性魔法を!?」
「えぇ、勇者の血族に渡り合う為の力は必要不可欠です」
「お前、その為に何人犠牲にして来たんだ!?」
「この世界を正す為の必要経費です」
(どうする?こいつが予想以上の強敵なのは確かだ。しかも向こうもあの2人の相手にかなり手間取っている。あまり長引かせると、ルミナスが奴らの手に渡る事になり兼ねない。何とか打開策を)
「さて、こちらもあまり長引かせる気はないのでそろそろ…」
と、その時、周囲に無数の精霊が現れ、ジルティナ達を取り囲む。
「精霊!?何でこんな時に!?」
「それは、ワシがこ奴らに呼びかけたからじゃ」
と、暗がりから銀髪ショートヘアーの10歳くらいの少女が現れる。
「精霊使い…?いや、その気配、半人半精霊のハーフか!?」
「ご名答。ワシはこう見えて、150歳の高齢じゃ。そして精霊と心を通わす事が出来る。自然と密接な関係にある精霊じゃ。お主らもただではすまんが、どうする?」
「くっ!2人共、ここは引きますよ!」
「え~、巨大ゴーレムは~!?」
「私だって、何の対策も無しに高位精霊を倒せる訳がありません!今回の件は、私が責任を取りますので、ここは撤退を!」
そう言ってジルティナは、ファムとヴァーリと共に転移結晶を使って離脱した。
「ふぅ、助かった~!」
「お陰で助かりました!あの、貴方は一体…?」
「あぁ、すまん。ワシの名は、アディニタ・ルメール。"理の魔女"じゃ」
「アディニタ!?あの魔法協会の重鎮の1人の!?」
「ご名答。ちゃんと調べておる様じゃの、ミュリナ・シェムハよ」
「そんな偉い人が何でこんな所に?」
「何、そこの巨大ゴーレムを気に入っておる精霊達が、この国にあるワシの家まで伝令を飛ばして来ただけじゃ。さて、奴らの事、ワシにも聞く権利はある筈じゃ」
「分かりました。詳しくお話しします」
こうして、フィルビア城にて、アディニタに"天の笛"の事を話す事となった。
"天の笛"本部、団長室
ジルティナは団長に事の顛末を報告していた。
「申し訳ありません、団長。件の巨大ゴーレムの確保に失敗しました」
「良い。話からして、そいつはあのアディニタ・ルメールだ。こればかりはしょうがない」
「寛大なお心遣い、ありがとうございます。後、気になる報告が」
「何だ?」
「実は任務に移る前、陰でエミリア王女達の話を聞いていたのですが、彼女、妙な事を言っていたのです。何でも夏頃に、500年前の勇者と姫の記憶を夢で見る様になったとか」
「何…?」
「彼女は確かに、あの巨大ゴーレムの名前を口にしましたし、その時の搭乗者の事も口にしてました。ただの戯言にしては出来過ぎているので、やはり本当なのではと…」
「…分かった。その件は私も気に留めておく。もう下がって良い」
「はい、失礼します」
そしてジルティナが退室した後、団長は1人思考を回していた。
「…まさか。いや、そんな訳は…。6年半前、エミリア王女の魂を見た所、彼女は確かに500年前の勇者パーティーの誰でも無かった。魂は1種の個人情報だ、転生してもそれは同じ。…調べておく必要があるな」
団長もまた、エミリアに1つの疑惑を持って、思案するのであった。
深まるエミリアの謎。




