第43話
11月のエピソード開始。
11月上旬、夕方、路地裏
そこでガラの悪い男達が、1人の少女に叩きのめされていた。
「な~に~お兄さん達、あんだけイキってたのにこの程度~?ざ~こ~ざ~こ~!」
「くっ…!このガキ、舐めた口聞きやがって…!」
「はぁ~、もういいや。これ以上遊んでもつまらなそうだし、もうこれで終わりだね」
「お前、一体何を…!?」
「じゃあねぇ~」
『ぎゃあ~!』
と、男達の悲鳴が止んだ所で、少女は路地裏から出る。
「くふふ~、エミリア王女なら、もっと楽しく遊べそ~。精々私を楽しませてね~」
そう言って少女は街道を楽しそうな表情で歩いていくのだった。
アルテミシア学園、生徒会室
本日も、役員達による会議が開かれていた。
「では、今回の会議は以上となります。エミリアさん、今回の会議の内容を纏めておいて下さい」
「かしこまりました」
「あぁ、それともう1つ、最近街で妙な噂が流れているのでご注意を」
『噂?』
「何でも、街で男性が変な子供に襲われて、命は取られてないけれど、何故か発見者や身内の方々はどう説明したらいいのか分からないって顔をしちゃってるって」
「それってどういう…?」
「さぁ?私も噂しか聞いてなくて。でも、皆に限って心配は無さそうね」
「はい。今の生徒会も、私のパーティーメンバー達も、腕は立つのは確かですから」
「それでも、皆も噂に気を付けながら過ごす様に」
そう言って、朝の生徒会会議も終了し、皆も支度を済ませて生徒会室を去る事となった。
そしてエミリアもまた、1年1組教室で、噂について話していた。
「と言う話を聞かされたんだけど、皆も何か聞かされてない?」
「う~ん、僕は無いな。教室の皆もそうみたいだし」
「先生達も、特に話してる様子は無かったよ」
「でも別に命は取られてないって言うなら、被害者も無事で済んでるって事だし、気にする必要無いんじゃない?」
「まぁ、確かにそうね。…って、どうしたのレオニー?」
と、会話の最中に何とも言えない顔をしているレオニーに気付く。
「いや、実はさ…、アタシの部下の1人が仕事の最中に同じ被害に合ってんだよ」
「えっ、それ大丈夫なの!?」
「うん、話の通り生きてんだけどさ、何というか、その…」
と、その時、エミリア達の背後から、赤髪のウェーブロングの女子生徒が声を掛ける。
「エミリア様、皆様、おはようございます」
「えぇ、おはよう。…って、あら?うちのクラスにこんな人居たっけ?」
「いや、僕達も知らない顔だけど…?」
「いやですわ、私です、バザーグ・スレイトです」
「あぁ、成程。…って、え?」
『え~!?』
「確かバザーグって、あの如何にもな不良少年の彼の事だよね!?」
「けど、今目の前にいる彼女、その真逆の上品な出で立ちのお嬢様って感じだけど!?」
「もう、そんな黒歴史を掘り返さないで下さいまし。私、あの時の事、本当に恥ずかしく思ってるのですから」
「いやいや!それ以前に、何で性別すら変わってるの!?」
「えぇ、確か夕べ街を歩いていた時に、小さい女の子が声を掛けて来て、「遊ぼう」と言って襲い掛かって来て、それで私を地に這わせたと思ったら、彼女急に何かをして、それでこの様な姿になってしまいましたの」
「成程…。でもよく制服持ってたね?」
「あぁ、これはあの後、学校の先輩に頼んでお古を譲って貰いましたの。気のいい先輩でして」
「でも、中身についても、今までと真逆になってるのは?」
「そう言えば彼女、私の男の要素をごっそり頂いたと仰ってたので、その影響かもしれませんわ。それでは皆様、ごきげんよう」
そう言って去っていくバザーグを、エミリア達は何とも言えない顔で見送った。
「…成程。そりゃ皆、説明に困る訳だ。あんな風に変わってちゃ…」
「レオニー、まさか」
「あぁ、部下もあんな感じに変わってた」
「でも、彼、あっ、いや、彼女の言ってた女の子って一体…?」
「兎に角、放課後、調査しましょう」
放課後、街中
エミリア達は手分けして、街中の各所へ聞き込みを行っていた。
そしてカイトは現在、1人噴水で休みながら連絡していた。
「こっちは被害者の家を覗いて見たけど、家族も対応に困ってるみたいだった。そっちは?」
<こっちも衛兵に聞いてみたけど、まだこの件の扱いを検討中だって>
<そうなんだよね~。路地裏とかに住居を構えている人なんて…あっ、いや、何でもない>
<教会にも呪いの類か聞いてみた人もいたみたいだけど、違ったみたいだよ>
<アタシも部下に聞いてみたが、何か「小さいけどデカい嬢ちゃん」って、訳分からない事言ってたぞ?>
<引き続き、調査してみましょう。特にカイト、貴方も気を付けなさい>
<そうだよね。下手したらカイトも上品なお嬢様になっちゃうよ>
「背筋が凍る事言わないでよ…」
<それじゃあ、また>
そして通信が切れた事で、カイトも水晶をしまう。
「…そりゃ僕も狙われるか。姉さんとスバルとレオニーさんは完全な女だし、ハルトマリーは下を覗かれない限り、パッと見女の子としか思われないし。…って、そろそろ僕も行かないと」
と、カイトが立ち上がり、その場を去ろうとしたその時、12歳くらいの小さい体格に不釣り合いなグラマラスな肢体のピンクのサイドテールの少女が声を掛けてくる。
「ねぇねぇ、お兄さ~ん、ちょっといい?」
「ん?何かな?」
「私と遊んで!」
と、急に少女がナイフを振りかざして、雷魔法で伸ばした刀身で斬り付けようとするが、カイトも反射的にそれを躱し、体勢を整えて少女を見やる。
「へ~、良い反射神経持ってるね~」
「事前情報持ってたお陰で助かった。成程、「小さいけどデカい」って、そう言う事か」
「エミリア王女の所の少年剣士、これまでのざこざこなお兄さん達より楽しめそ~」
「やっぱり君が今回の事件の犯人みたいだね。何であんな事をした?」
「そりゃあのお兄さん達やおじさん達、私の事、子供だと思って舐めた態度取ったり、身体を見てすぐ犯そうとしたから、痛い目に合わせて身の程ってものを見せて、そんでもってタマを取って、男失格の烙印を押してあげたんだよ~」
「は?タマを取る?」
「ほら、極道とかでもそう言うでしょ?」
「いや、あれは確か「お命頂戴」って意味だった筈だよ!?君の言ってるタマってあれの事だよね!?何をどうしたら命をタマと歪曲してあんな風になるの!?」
「別にいいじゃん?殺してないだけマシなのは変わりないし。」
「あんな急激な変わり様、家族や周りの人達も滅茶苦茶対応に困ってんだけど!?どうしたらいいのか分からなくて皆ドン引きしちゃってんだけど!?」
「何さ~。さっきから文句が多いな~お兄さん。そんなんで"天の笛"と戦っていけるの~?」
「"天の笛"!?まさか君は…!」
「そう。ケイリーの事は聞いてるよね~?私は双性者の1人、ミルザ。そう言う訳だから、お兄さん、私と遊んでくれるよね~?」
「…そうだね。僕も君を捕らえて、色々と聞かせて貰うよ!」
そして2人は構えて、共に駆け出し、お互いの刃が交差する。
その直後、ミルザが刀身を短くして、カイトの体勢が崩れた所に懐に入り、腹目掛けて刀身を伸ばすが、カイトも間一髪で身体を捻って避ける。
ミルザもナイフを横なぎに振るうが、カイトも剣を逆さに構えて防ぐ。
そしてカイトが身体を回転させながらミルザの腕を掴み、一本背負いを決める。
そのまま柄をミルザの腹に打ち込もうとするが、ミルザがカイトの腕にナイフを刺し、カイトがその痛みで手を放した隙に離れ、カイトもすぐさまポーションで回復する。
「お兄さん、腕刺されてもちゃんと耐えて適切な処置をするなんて、今までの男共と違って、冷静さを欠く事なく、思考も働かせられる。これなら、他の男共と違って、タマを取る事なく楽しめそ~」
「僕だって君達と戦うって決めてるんだ。この程度で音を上げられない」
「へ~、面白い事言うじゃん。そんなお兄さんに、こっちもサービス~」
と、ミルザは胸元をアピールし、カイトもすぐさま目をそらし、顔を赤くする。
「アッハッハッハ!お兄さんウブ~!こっちも幼さと女の色気を混ぜた身体を見せつけてるのに~!」
「そっちだって、それは融合を使って作った身体の癖に」
「そうだよ~!これは元の私の30代の色気ある女の胴体と、私好みのショタの顔と手足を組み合わせたもの。胴体もベースとなったショタに合わせて、12歳の骨格に調整かつ、ボンキュッボンも元の私と寸分違わず再現。そして手足の肉付きも元の私の要素を混ぜて調整、顔も要素を混ぜつつ私好みに改造した。私の理想とするメスガキボディを手に入れたんだよ~!どう、可愛いでしょ~?」
「いや、悪いけど僕には君の事が理解出来そうにない」
「はぁ?何その態度?もう遊ぶの辞~めた!ここからは本気でやるから」
そう言うとミルザの身体にスパークが走り、周囲にも雷が落ちる。
「つよつよミルザちゃんタ~イム!私にそんな態度取った事、後悔させてあげるから!」
その瞬間、ミルザが一瞬でカイトに詰め寄り、そして蹴り飛ばす。
そして壁に激突したカイトを雷の刃で斬ろうとするが、カイトも前へ跳んで躱す。
「くっ!速くなってる上に、その分だけ打撃も重くなってる!そのオーラの強化は本物だ!」
「そうだよ~!それじゃあ、私のセンスを笑った罰として、とっとと死んで」
ミルザが突進して刃を振るったのをカイトは防ぎ、靴底が音を鳴らしながら後退していく。
止まった直後にミルザが回転しながらカイトの背後を取り、刀身を伸ばすがカイトも避ける。
カイトも剣を振るうが、ミルザは刀身を短くして防ぎ、その勢いで後ろへ飛ぶ。
そしてジグザグに駆けて懐に入り、ナイフを突き立てた所をカイトも避けるが、ミルザは身体を回転させて伸ばした刀身を振るい、カイトに一太刀入れて下がる。
「よ~し命中。そんじゃあ、動きが鈍くなってきた所で、これで終わりだよ!」
「くっ!だったら!」
ミルザが突進してくる最中、カイトは目を閉じて神経を研ぎ澄ませ、ミルザの刃を躱してその腕を掴む。
「なっ!?」
「捕らえた!」
そしてそのままミルザに一閃、斬られたミルザも血を噴き出しながらその場に倒れた。
「スピードを過信して動きが単調。実に読みやすかったよ」
その直後、エミリア達も駆け付けて来た。
「カイト、大丈夫!?」
「何か雷が見えたから駆け付けて来たけど…って、うわっ!?どうしたの、その傷!?」
「後、その女の子は!?」
「こいつが例の犯人で、双性者の1人だよ。早く捕縛を。」
その言葉を受けたエミリアとレオニーは、すぐさまミルザの捕縛に入る。
「くっ…!こんな所で捕まる訳には…!」
そう言ってミルザは懐から結晶を取り出し、それを割って発光、その場から消えた。
「転移結晶!?アイツ逃げやがった!」
「仕方ない。今はカイトの治療を」
そう言ってエミリア達はカイトの治療を優先するのだった。
とある地下空間
そこにある医療施設にて、ミルザは治療を受けていた。
そこにジルティナが訪れる。
「手ひどくやられましたね、ミルザ」
「そうだね~、私もあのお兄さんをなめてたよ~」
「所で、成果の方は?」
「はいはい、ちゃんとここにあるよ~」
そう言ってミルザはある物を取り出す。
「ふむ、確かに。それでは、貴方はしばらく静養に努めて下さい」
「うん、そうするね~」
と、ジルティナはその場を去り、ミルザは眠りにつくのだった。
数日後、アルテミシア学園、1年1組教室
エミリア達も今回の報告会を行っていた。
「実は被害にあった部下に聞いてみたんだが、違法な品を取り扱ってた連中を張ってた最中に、あのガキに襲われたって話だ。当然、その連中も上品な婦人に変えられちまったけどな」
「成程。恐らくミルザは、そこにあった違法な品を奪う事が目的だったって訳ね」
「被害にあった人達も、彼女の気まぐれで被害を受けたと」
「そうね。所でカイト、怪我の方は?」
「大丈夫だよ、姉さん。この通りちゃんと治った」
「カイトが無事だったのは良かったが、あれどうすんだよ…?」
と、一同はある人物を見る。
「バザーグさん、このリップと香水、試してみて下さい」
「ありがとうございます。是非使わせて貰いますわ」
そう言って上品なお嬢様の振る舞いを見せるバザーグに、エミリア達も何とも言えない顔をするのだった。
次々と現れる強敵。




