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第34話

錬金術師の屋敷へ。

 放課後、1年1組教室

 現在、HRにて、クラスの出し物に関する話が行なわれていた。


「うちのクラスでやるカフェについて、議論の結果、『執事&メイドカフェ』になった。次回は、内装と接客、裏方の人員配置、そしてメニューと機材等の手配等を話し合う。以上!」


 HRが終了した事で、生徒達も帰り支度に入る。


「結局こうなったか」


「皆も思いの外、乗り気になってくれて良かったよ」


「ミュリナはメイドとして接客する事に抵抗は無いのか?」


「失礼ね!私だってやろうと思えば出来るわよ!」


「サーシャ様にメイド接客をやらせる等言語道断!今すぐ抗議しなくては!」


「ランスロット、過保護過ぎます。後、本音は?」


「サーシャ様のメイド姿、私1人で独占しておきたい!」


「正直でよろしい!」


「この話は今後も話し合って…ん?」


 と、エミリアは疲れた様子で廊下を歩いているトウヤと、心配そうにしているセラとカンナに気付く。


「トウヤ、どうしたの?」


「あ、エミリア様。いえ、別に大した事では…」


「聞いて下さいよ、エミリア様!実はトウヤ様、クラスの出し物の売店で、自分の錬金術の腕の見せ所だと言って、昨夜、夜遅くまで商品サンプルを作ってて、寝不足なんですよ!」


「ちょっ、カンナ!?」


「トウヤ様は普段から、色々と根を詰め過ぎる所があるのです。ちゃんとブレーキを働かせて下さい」


「セラまで!?」


「あぁ、そうなの。私が言うのも何だけど、ちゃんと休まなきゃ駄目よ」


「はい、すみません、エミリア様…」


「まぁ、取り敢えず、そこまでする以上、商品に自信があるのよね?」


「はい。そりゃあもう、前世での経験をフル活用させての創作に入りましたから!」


「折角だし、これから見せて貰っても?」


「大丈夫です!折角ですので、是非見てって下さい!」




 トウヤの屋敷、フロント

 エミリア達はトウヤの借りている屋敷に招待されていた。


「結構良い屋敷に住んでるじゃないの」


「えぇ。僕が懇意にしている商会の伝手で、この屋敷を使わせて貰っているんです」


「って事は、もしかして借家って事?借家って事は、家賃も支払わなきゃならない筈だよね?こんなに大きな屋敷なら、家賃だって高い筈じゃない?」


「それは大丈夫。例の商会の商品開発に協力したり、ギルドの仕事を手伝ったり、国からの依頼に応じたりしている事で、家賃も安く済ませて貰っているから」


「そうなんだ~」


「取り敢えず、例の商品サンプルの保管場所に案内して貰っても?」


「あ、すみません。こちらです」


 と、トウヤは皆を奥の空き部屋に案内する。


「こちらが商品サンプルになります」


「凄い数になってる!部屋の殆どが埋まっちゃってる!」


「お菓子にアクセサリーに小物、おもちゃに至るまで、思い付く限り作っちゃいました。いや~、我ながら作り過ぎちゃったなと思いまして」


「食品系統はちゃんと日保ちする様にされていて、アクセサリーも小物もおもちゃも、かなりの完成度で出来上がってる!これなら自分の店を持つ事だって出来るよ!」


「これも錬金術を追及したが故によるもので…」


「マスター、セラとカンナの服と下着も、ポポルの糸を使って作ってたよ~」


 と、天井から降りてきたポポルも加わる。


「わっ、ちょっ、ポポル!?」


「2人の服も?年頃の女の子としての抵抗だってあった筈じゃあ…?」


「それはね~、2人の人形…」


「わあわあ!兎に角!僕の錬金術の腕前、理解したでしょう!?いや~、武器の方も自作出来る自分の腕前に惚れ惚れしちゃうな~!はっはっはっ!」


 と、露骨に話題を逸らすトウヤを見て、エミリアはこう思った。


(さては彼、鑑定の応用で2人の等身大人形を作ってたわね。それも無断で…)




 トウヤの屋敷、中庭

 折角なので、トウヤはエミリア達に工房を見せる事に。


「これが僕の工房です」


「凄い!鍛冶工房に錬金釜、調合台に至るまで一式揃ってる!」


「この魔法石、純度の方も申し分ない!それもこんなに沢山!」


「他の素材についても、質も量もかなりの物だ!冒険者としての腕前の証明にもなっている!」


「いや~、僕も本当はひっそりと錬金術を振舞えれば良かったんですけど、アイディアや商品の質等で商会だけでなく、国からも目を付けられ、僕達があまりにも強過ぎるからって、冒険者ギルドからも声を掛けられるんですよ」


「だったら、商会専属の冒険者として、生計を立てて過ごす事だって…」


「それなんですけど、実は僕…、とある国から恨みを買っちゃってて、それで目立ち過ぎると、関係無い人達まで巻き込んでしまう事になるので、後ろ盾になってくれている商会や国からの根回しに頼らないといけない状態なんですよ」


「国からの恨み?一体何処の国なの?」


「…フォルソス皇国です」


「フォルソス!?あの宗教国家の!?」


「はい。僕の光魔法のレベルなら、高位の回復魔法や浄化魔法が使えるので、それを組み込んだ商品を出した事で、自分達の商売を邪魔されたと恨みを買ってしまい…」


「あぁ、成程。あの国、そこら辺色々とうるさいからね。まさか貴方の後ろ盾になってくれている国と商会って…」


「ティフィニア王国とグロンゾ商会です」


「確かにあの国はそこら辺の取り締まりは厳しいし、あの商会も世界中にパイプを持ってるから、迂闊に手を出せないし、アルテミシア王国とも交流を持ってるから、留学に関する諸々の根回しも出来て当然よね」


「姉さん、フォルソスについて、何かしてあげられないの?」


「無理よ。下手したら外交問題になり兼ねないし、こちらも王族として特別扱いは出来ない。こちらも無関係の国民を巻き込まない様にする為に、戦争になり兼ねない事態は避けなければならない。更に、事を大きくしない為にも、ティフィニアと相談しながら動いておかなければならない」


「いや、流石に僕達も、エミリア様の手を借りようとは思ってませんって」


「そうね。その方が良いわ」




 夜、アルテミシア学園女子寮、エミリアの部屋

 夕食の後片付けを済ませたエミリアは、1人テーブルで考え込んでいた。


「どうしたのよ、エミリア?何か考え込んで」


「あっ、フィーナ?ごめんごめん、ちょっとフォルソス皇国の事を考えていて」


「アンタ、大きく動く気は無いって言ってなかった?」


「今考えてるのはトウヤの件じゃなくて、別の事よ。確かあの国って、信仰心の強い宗教国家としても有名だけど、その裏で、自分達に従わない者達を粛清したり、他国の混乱のどさくさに紛れて、更に別の国に武力行使をしたり、違法な儀式や実験をしたり、色々きな臭い国なのよ」


「そんなブラック皇国に、何を考えているのよ?」


「私、考えてたの。そんな国なら、あの組織のバックに居たっておかしくないって。ユフィを誘拐した奴らの死も、交流会での侵入も、実験施設も、フォルソスの技術や資金があれば、おかしくないって」


「でも、証拠が無きゃ、アンタら王族でも検挙出来ないじゃないの?」


「そうよね。それについては、お兄様達にも聞いてみないと」


「兎に角、アンタは今、文化祭の事でも考えてなさいよ」


「そうね。それじゃあお風呂に入って来るから」


「ごゆっくり~」


 と言って、エミリアは風呂に入って、課題を終わらせ、ベッドで寝るのだった。

 エミリアもまた、文化祭を楽しく過ごす為に、力の限りを尽くす事を誓うのだった。

近づいてくる文化祭。

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