第30話
夏休み最後のイベント、肝試しの開幕。
夜、アルテミシア城、エミリアの執務室
エミリアは、アラタやカイト達と共に、書類の片付けを行っていた。
「ふぅ~、これで私がいなくなっても大丈夫」
「姉さんがいない間の書類は、国王様やアルベルト様が受け持ってくれるんでしょ?あの人達なら、別に何も言わずに引き受けてくれるんじゃあ…?」
「それでも国の中枢である以上、書類も山盛りの毎日である事に変わりはないわ。少しでも負担を減らしてあげないと。」
「あの人達なら、別に気にしないと思うけどなぁ…」
「さぁ、今日はもう遅いし、皆城に泊まって頂戴。今、よく眠れる様に、お茶淹れるから…」
「エミリアー、居るー?」
と、そこに茶髪ハーフアップの女性が入って来る。
「シャルロットさん!お久しぶりです!」
「えぇ、久しぶり」
「えーと、誰?」
「あぁ、ごめん。彼女はシャルロット・ハルフィナ。アルベルトお兄様の婚約者よ」
「初めまして、シャルロット・ハルフィナと申します」
と、シャルロットはカーテシーでお辞儀をする。
「シャルロットさん、妃教育を受ける為にお城に住んでいて、離宮に住居を構えてるの。所でシャルロットさん、何しにこちらに?」
「久々にエミリアと話したくなっちゃって。最近アルベルトも公務ばっかりやってて中々顔を見せに来ないし、妃教育も先生が厳しくて、ちょっとでも品位を落とすとお小言だしで、ストレス溜まっちゃって」
「あぁ、それは仕方無いですよ。私だって先生達が厳しくてかなり苦労しましたし。分かりました。シャルロットさんも一緒にどうぞ」
「ありがとう、エミリア。流石、私の未来の義妹」
そしてエミリアが部屋を出ると、何かを話し合ってるソーマとミュリナがやって来る。
「何かの見間違いなんじゃねぇのか?」
「いや、確かに見たのよ」
「ソーマとミュリナさん?一体どうしたの?」
「いや、実はミュリナ、さっき中庭で妙な人影を見たって言ってんだよ」
「それが図書室に寄らせて貰った帰りに、中庭を通った時、古い宿舎の中に妙な人影があったんですよ。それがずっと引っ掛かって…」
「古い宿舎…。確かそれ、近々取壊し予定の廃墟よ。その中に人影なんて、確かに妙ね」
「だったら!」
「うわぁ!?」
と、エミリアの背後からシャルロットが声を掛ける。
「皆でその中を調べてみましょう!肝試しよ!」
廃墟、入口
その前にエミリア達が集まっていた。
「それでは、今からアルテミシア城肝試しを開始しまーす!」
「シャルロットさん、やけにテンション高いなぁ…」
「よっぽど今まで退屈してたのね」
「それでは、各班毎に分かれて、宿舎を探索します!各自、携帯式水晶をキチンと持ってますね?なら、何があっても連絡は可能ですね!それでは、探索開始!」
先ず1階、カイト、ハルトマリー、スバル、アルフォードの班
「ごめん兄さん、付き合わせちゃって」
「構わない。俺も退屈していたからな」
「そう言えば、お城の中でも幽霊は発生するんですか?」
「まぁ無くは無いが、城の中も、ユフィの誘拐の件でこまめな見回りをしている。人間だろうが幽霊だろうが、不審者が居れば直ぐに気付く」
「だとしたら、ミュリナさんが見た人影って一体…?」
と、その時、4人が歩いていた廊下の床が抜け、4人は慌ててつっかえる。
「何だいきなり!?」
「まさか侵入者撃退用トラップか!?でもそんな話…」
そしてスバルの右手にある壁に窪みが出来ると、頭上から大量の水が流れ、4人は流されていく。
「ちょっ、待っ!?これ、一体何処に流され…!?」
『あぁ~!?』
次に2階、サイバーズ出張版の班
「全く、幽霊が怖いって、ミュリナはそこら辺の女の子って感じがするよな」
「うるさいわね!ほっときなさいよ!」
「って言うか、此処ファンタジー世界なんだから、幽霊の存在は常識として扱われているんだろ?実際に、神父とかシスターとかがお祓いしているぐらいなんだし」
「ソーマさん、確かに幽霊は常識になってますが、不気味な雰囲気を出したり、怪奇現象を起こされると、誰でも怖がってしまうものなのですよ」
「そうなのか…」
「ふん、貴様も甘いなソーマ。こんなんで…っ!姫、お下がり下さい!」
と、ランスロットが示した先には、動く鎧が向かって来ていた。
「面白ぇ!サイバーチェンジ!」
と、ソーマもサイバーレッドに変身し、ランスロットと突撃する。
「行くぜ、ランスロット!」
「貴様こそ遅れ…!」
と、その時、サイバーレッドが足元のスイッチを押すと、4人は近くの部屋に放り込まれる。
「いてて…。何だいきなり?」
「どうやら何かしらのトラップが仕込まれていたみたいです。皆さんも注意して…!」
追いかけて来た鎧をサイバーレッドとランスロットが倒すと、鎧は崩れ落ちる。
「これは…!」
その瞬間、壁が勢い良く押し出して来て、4人を別の壁に放り込む。
『なんじゃこりゃ~!?』
そして3階、エミリア、アラタ、アルベルト、シャルロットの班
「さぁーて、探索開始よ!」
「シャルロット、あまりはしゃぐな。はぐれてしまうぞ」
「だって、最近アルベルト顔見せてくれないし、妃教育もスパルタで、全然退屈だったんだもん!久々に良い退屈凌ぎが出来て楽しいんだもん!」
「全く…」
「しかし、ミュリナさんが見た人影、一体何なんでしょう?外部からの侵入者なら、流石に兵が気づきますし」
「それを調べる為に、こうしてこの場に足を踏み入れてるんだ。慎重に進んでいこう」
そして4人は、手近の部屋に入っていく。
「さて、この部屋は…っと」
「見たところ、人の気配は無いし、荒らされた形跡も無い。此処は無事みたいだし、他の部屋へ…」
と、その時、鎧がエミリアへ剣を振り下ろそうとした所を、アラタが抱きかかえて回避する。
「あ、ありがとうアラタ…」
「それよりも何だ、あの鎧は!?さっきまで確かに人の気配は無かったぞ!」
「どうやら、例の怪奇現象みたいだな。シャルロット、下がっていろ」
そしてアルベルトも剣を構え、エミリアとアラタも剣を構える。
「何かおかしい。あの鎧、生気を感じない」
「まさかゴースト系のポルターガイスト?エミリア、感知を頼む」
「えぇ」
エミリアが探知魔法を使おうとした瞬間、多くの鎧が部屋になだれ込んで来る。
「何ぃ~?!」
「くそっ!俺はシャルロットを傍で守る!エミリアとアラタでそいつらの対処を!」
「分かりました!」
アルベルトも急いでシャルロットの近くへ駆け寄り、エミリアとアラタは背中合わせになって構える。
そして2人のコンビネーションで多くの鎧を崩していく。
「っ!?よく見たらこいつら、中に魔法石を組み込んだ簡易ゴーレムだ!」
「思い出した…!そう言えば昔、人手を確保する際に、簡単な命令式を組み込んだ魔法石を核にして、与えた仕事をさせる無人の鎧を配置させていた時期があった!けどこれは、人間と違って想定外の事態が起きた時、直ぐに行動不能になるエラーが出る上に、それを解消するにはランクの高い魔法石を使う必要があった事で、直ぐに配置が中止されたって話だったけど、まさか此処にしまわれていたなんて!」
「誰かがこいつらを起動させたって事か!しかし今は、こいつらを片付けねば!」
そうして3人は全ての鎧を崩して、機能停止させる事に成功した。
「はぁ、はぁ、はぁ…何とか全部片付いた…。」
「けど誰がこれを起動させたのかしら?」
「まさか例の幽霊…?」
と、その時、シャルロットが足元のスイッチを押した途端、部屋の床が抜け、4にはスロープを滑らされ、そして外に放り出される。
「いてて…、もう~!何なのよ、一体!」
「何なんだ、あのトラップは?」
「…って、皆!」
と、エミリアも同じく外に放り出されている8人に気付き、駆け寄る。
「大丈夫!?怪我は無い!?」
「姉さん?うん、いきなり落とし穴に落とされたと思ったら、水に流されて、外に放り出された」
「こっちも、壁が迫ったと思ったら、ビリヤードみたいに、向かいの壁の穴に入れられて、そのまま外に放り出されたんだ」
「どう言う事?まるで遊んでいる様な?」
「それは、私が思い出作りに仕込んだ悪戯だからよ」
と、そこにエルメシアがやって来る。
「お母様!?一体どう言う事です!?」
「ほら、此処、もう古いからって取壊しになるって話だったでしょう?なら最後の思い出として、ちょっと改造してみたの。いい感じにボロボロになってるし、お化け屋敷として、夏の思い出になって貰おうと思って」
「そう言う事はちゃんと俺達にも話を通して下さいよ、母上」
「あら、ごめんなさい。でも、スリルはあったでしょ?」
「って事は、ミュリナさんが見た人影も、鎧人形を起動させたのもお母様だったんですね」
「えっ、何の話?」
「いや、少し前にミュリナさんが此処に人影が見えたと言ったから、私達は此処に来る事になって…」
「いや、私、此処には皆が入った時に来たばっかよ?」
「えっ?じゃあ俺達に襲い掛かって来たあの鎧は…?」
「それ、此処には廃材として置いていただけで、起動なんかしてないわよ?」
「じゃあ誰が…?」
「それは…私の仕業なの~!」
『うわぁ~!?』
と、そこに白髪ストレートロングと白のワンピースの幽霊少女が現れ、皆も驚く。
「あら、ファルナ。貴方が地上に出るなんて珍しいわね」
「えっ、お母様、知り合いなんですか?」
「彼女はファルナ。長い間、この城の地下エリアに住み着いている幽霊よ。でも、基本地下に引きこもってばっかの貴方が何で急に?」
「だって、最近地上は騒がしくて、対して地下も滅多に人が来なくて退屈してたのよ!」
「シャルロットと同じ理由…」
「あら、それはごめんなさい。私達も忙しかったから仕方なかったのよ」
「ふん。なら許してあげる。これからもちょくちょく地上に顔を出すから、よろしくね」
『は、はぁ~…。』
と、一同は白けた空気でお開きとなった。
翌朝、エミリアの部屋
起きたスレイは手元の仮面を被り、ベッドから出て着替え始める。
「ふぁ~」
「はい、下着一式。その就寝用下着を着替えときなさい」
「ありがとう…って、え?」
と、エミリアが振り向くと、ファルナが念力で下着を浮かしていた。
「実はあの後、エルメシアから貴方の事聞いておいたのよ。あっ、私もちゃんと秘密にするから、安心なさい」
「あっ、うん。じゃあ、ファルナ、改めてよろしく」
「…エミリアも苦労しそうね」
と、テーブルの上のフィーナも呆れていた。
幽霊少女ファルナ、彼女の生活もまた、更に楽しいものになっていくのだった。
これにて、夏休み終了。




