こころの色彩――最終話 特待生は火属性
空調の神具のおかげで清々しい朝食の席は、ルドラの連れてきた半透明の少女にザワついた。
「驚いた。そこまで姿のはっきりしたレイスは希少」
「えっ、れいすって何? この子は昨晩、あたしの部屋に現れたルヴィアっていう子なのだけど……。ねえ、ルヴィア。あんた、なんか珍しい奴なの?」
「うむ。知られると、司祭階級の学者が来る程度には珍しいのじゃ。鬱陶しくなるし、本当は姿を見せるつもりは無かったのじゃが……。お主が何も考えておらんせいで末代になると困るから、アドバイザーを買って出たわけじゃな」
「何も考えて無くて悪かったわね!」
珍しく目を見開いたクロエの第一声により、その正体が明かされた半透明の少女ルヴィア。彼女の言い草にルドラは口元をヒクつかせつつ、事実ではあるので何も言い返せない。
人とは少々外れたモノも交えつつ、人の増えたシャクティの城の朝は過ぎていった。
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朝食後、クロエから自分にも関係のある話だと呼び出しを受けたルドラは、自称アドバイザーのルヴィアから呼び出し理由の予想を聞かされつつ、物の増えてきた広間で席に座り待っていた。
広間には関係者の奉仕階級達やアリサも勢揃いしている。
その場には同じく呼び出されたヴィッシュと、彼に一撃加えたそうにしているシィタも席についている。
ルヴィアの予想を聞き流しつつ二人の様子を眺めていたルドラは、シィタが自制心の限界を迎える前に現れたクロエに内心で感謝した。
クロエは金糸で装飾された白い司祭階級の制服を着ており、それは教師クロエとしての話では無く、婚約者クロエとしての話をするという意思表示だろう。
「お待たせ。私たちの今後に関わる重大な話がある」
「むう。今後に関わるとは穏やかではないな」
優雅だが素早い動きで同じく席についたクロエは、前置きを述べると普通ならばあり得ない衝撃的な話を告げた。
「ヴィッシュ君にシィタ=ラクシュミーとの二重婚約の打診が来ている。私は既に了承済み」
「本当なのか!? クロエ!」
「本当なのですか!? クロエお姉様!」
クロエの言葉で同時に立ち上がった二人は似たような言葉を同時に、しかし、それぞれ違った声音で口に出した。ヴィッシュは困惑し、シィタは嬉しそうである。
「私みたいな氷属性女は、ヴィッシュお兄様も……嫌、ですか?」
「見損なってくれるな。お前の親愛表現には慣れている」
「ヴィッシュお兄様!」
顔を見合わせた二人。上目遣いでおずおずと問いかけるシィタを彼女の苦しんでいる様子を見たばかりのヴィッシュが受け入れる形で、話は即まとまった。
受け入れられたことに感極まったシィタは、ヴィッシュに抱きついて接触場所から氷の刃を伸ばすという行き過ぎた親愛表現を叩き付ける。
それを受けたヴィッシュは体の一部を風に変えるという器用な方法で、会心の親愛表現を回避して捨て身の幼馴染を傷つけないようにしつつ、絶死の暴力に涼しい顔で対応した。
ベッドでヴィッシュを氷のイバラで締め上げつつ甘えていた事からも分かるように、氷属性に氷属性の《《神術は》》効かない。
だが、神術を弾かれた《《反動は》》普通に受けてしまうので、受け方にも工夫がいるのだ……!
「おめでとう。折り合いが付かない場合は、別居婚してでもという形になっていた。この婚約はイド南方同盟の一環だから、普通に婚約成立するのは、良いこと」
「イド南方同盟じゃと? 最南端のシャクティを仲間はずれにするのは止めてほしいのぉ。ウチのルドラも年頃が近いし、どうじゃ?」
祝福するクロエの言葉の意図に気が付いたルヴィアが、昨晩の内に見極めた素直じゃない子孫の願いを叶えてやろうと、話を転がし出す。
「ルヴィア!? 何を言っているの!?」
「シャクティのレイス。私としてはルドラ=シャクティを受け入れるのもやぶさかではない」
「クロエさんまで!? 何を考えているの!?」
ルヴィアの気が付いた通りシャクティを巻き込むことを狙っていたクロエも、これ幸いと話に乗る。幸せでトリップしているシィタが帰ってくる前に、話を付ける構えだ。現状のシィタは婚約者ではないので、纏めて婚約を進めることで口を挟む隙を無くしてしまうのが彼女の目的である。
自分を取り残して急速に進んでいく話に疎外感を覚え、何だか仲間はずれ気分でションボリしていたルドラは、急に話の中心にされた上、二人に転がされて大変に動揺している。
そんな時に、フッと全身を風に変えることでシィタと氷で構成されたアイアンメイデン、アイスメイデンから抜け出したヴィッシュがルドラの隣に立つ。
抜け出されたシィタは、身代わりに残されたヴィッシュの分身に抱きついている。
「ヴィッシュも何か言いなさいよ! このままだと大して関わりもないあたしとも婚約する事になるのよ!」
「俺は最初から、君の赤は素晴らしいと言っているのだが……」
「…………どういうことなの? 今ので頭でも打った?」
動揺したルドラは、自分と同じく話の中心にされながらも冷静な様子のヴィッシュに、同意を求めるように問いかけ、返ってきたズレた返事に怒るよりも困惑して首を傾けつつヴィッシュの頭をコンコンと叩いた。
「ルドラ=シャクティ。私も最近知ったのだけれど……。クリシュナの神術は魂の色を見る。ヴィッシュ君は修行をサボっていたから、薄布越し程度でないと腹部に収まっている魂の色が見えなかった」
「魂の色? 腹部……薄布越しって……」
「魂は相対する相手への想いで色を変える。ヴィッシュ君は薄布越しに、相手の自分への想いが色として見えるという事。後はあなたが察している通りだと思う。私も勘違いをして想いを見せびらかしていた……。少し、恥ずかしい」
「えっ、えっ? ……ええ!?」
無表情ながら顔をポッと赤くしたクロエが、かみ砕いて説明すると、段々とその意味を理解し始めたルドラの顔が紅潮していく。
「うむ。ルドラ、初めて見た君の真っ赤な敵意は、本当に美しくてな。あの時見た真っ白な太股に縁取られた鮮烈な赤が、俺の神術と紳士を呼び覚ましたのだ。あの光景は脳裏に焼き付いてしまっているぞ」
「なっ! 何どさくさに紛れて変なことを言ってるのよ!」
ヴィッシュはパンチラで魂の色を見て賞賛していたのだ……!
……実は実物の色も賞賛していたが、そこはメイドの教育もあり黙っておく事にした模様。
「二度目に見た赤は淡い好意が燃えていたので、目を疑ったぞ。あの時はすぐに追い出されて聞けなかったのだが、一体どんな心境の変化があったのだ?」
「あーあーあー! 聞こえませ~ん!」
自分の想いが定期的に筒抜けだった事を完全に理解したルドラは、耳を塞ぎつつ大きな声を出して聞こえないふりをする。
しかし、炎属性特有の身体能力は、その程度の妨害で音を聞き逃すことは無く。ヴィッシュの乙女心解体トークショーを戦闘時のように高速回転するルドラの思考に届けてくる。
「三度目は不安に揺れる深い青だったので、そんなに俺が頼りないのかと少しムキになってしまった。ルドラ、あの時はすまなかったな。四度目の赤は……」
「むぐぐ! これ以上、昔のことを掘り返さなくても良いわ! もう分かってるんでしょ! 逆にあたしはあんたのことが全然分からなくて……き、気になっちゃったの! 気になっていただけ、だったのに……」
ついに人前で致命的なことを口走ろうとしたヴィッシュに、被せるようにして声を上げたルドラはキッと、自分の内心を知る思い人をにらみ付けた。
「もしかして怒っているのか? 多少なら服越しでも色が見えるようになってきたのだが……」
「ふぎぎ! っ! 良いわ! あたしの部屋に来なさい! ……少しだけ、見せてあげる。少しだけよ!」
耳まで顔を真っ赤にしたルドラは、察しの悪い思い人を引きずり部屋から出ていった。
未だにシィタは分身ヴィッシュに抱きついてトリップしている。彼女以外の残された者達は、お互いの顔を見合わせた。
「ここまで上手くいくとは思わなかった。協力に感謝する」
「お互いに良い仕事をしたの。今後ともよろしく頼むぞい」
仕掛け人二人はお互いの健闘を称え。
「これは新しいアイリの観察日誌が必要かもしれません!」
「これがイド流の婚約なのですね。とっても刺激的ですわ!」
二人の世話をしているメイドは、今後の展開に期待を膨らませた。
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これにて変則的な三重婚約による同盟は成った。
領主に就任した直後に周辺の領地との婚約による大同盟を結んだルドラは、策略に長けた魔王扱いされ、更に城で大噴火を引き起こした噂も組み合わさり、領民から爆滅魔王ルドラと呼ばれて困惑することになる。
「クロエさん、魔王って何!? あたし、何もしていないわよね?」
「私達の中で領主は貴女だけ。残念ながら当然の結果。頑張って爆滅魔王ルドラ」
「そんなぁ~!」
読んでくださり、ありがとうございました!
これにて、このお話は完結です!
魔王になったルドラは、クロエとルヴィアという参謀に支えられつつ、ラッキースケベ体質になっているヴィッシュを怒ったり、日々激しくなるシィタの親愛表現にドン引きしたり、その様子をメイド達に眺められたりしながら、何とか頑張っていくことでしょう!
もし良ければ、星での評価をよろしくお願いします。
応援コメントもお待ちしております……!(欲深い)
ちなみにカクヨム様では作品露出のために設定語りを長々と続けていたりします。
こちらで短文の投稿をしても良いのか分からなかったので、全部カットして完結とさせていただきました。
ここまでお付き合いしてくださり、本当にありがとうございました!




