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紅の守護霊――第21話 お節介な古城の主

 夜、領主の執務室でもあるルドラの部屋にて。


 朝晩のルーティンになりつつある映像神具の閲覧を終えたルドラは、ツークからオマケで貰った赤いグラスコップに水を注ぐと一気飲みした。


「ぷはっ! これは神力チャージのためなんだから! 調子が良くなるし、止めらんないのよねぇ」


 誰に聞かれるでも無く言い訳をした彼女は、ヴィッシュが映された所で映像神具を停止すると、眺めながらベッドでゴロゴロと転がった。


「ほーう。その神力。お主が今代のシャクティか?」


「きゃう! だれ!?」


 突然に声をかけられたルドラは飛び起き、左右を見回すが何も居ない。神具は慌てすぎて取り落としている。


 そんな彼女の頭上から、声が降ってきた。


「妾は上じゃよ上」


「はあ? 何を言って……って、ええ!?」


 声を聞いて訝しげに頭上を見上げたルドラは、どことなく自分に似た赤いドレス姿の半透明な少女が、大股を開いて浮いているので更に驚いた。


「む? 全く、同性じゃろうに、どこを見ておるのじゃ?」


「いや、同じ色のを履いてるなと、思って」


「好みの色が似ていることもあるじゃろうな。何せ同じ血筋じゃし。おっ、此奴は、お主の思い人か? 便利な神具じゃの」


「はあ? 違います~! ていうか、なんて言ったの? 同じ血筋?」


 半透明の少女は音も無くルドラの隣に降りてくると、落ちている神具に大写しとなったヴィッシュについて尋ねる。

 反射的に否定したルドラを面白そうに見た彼女は、胸をはって自己紹介した。


「妾はルヴィア=シャクティ。お主の先祖にあたる。この城についた魂じゃよ」


「先祖ぉ~? スケルトンとかの仲間じゃ無いの?」


「失礼な! 何代も何代も一族を見守ってきた守護霊だというのに、魔物扱いは悲しいぞい? ちょっと前に痴話げんかで全滅するまでは、とても敬われていたのだぞ?」


「生き残りはあたし一人だけとは聞いていたけど、痴話げんかで全滅したんだ……」


 ルヴィアの語るあんまりな全滅理由に、聞かされたルドラの顔がひきつる。


「うむ。皆して好き勝手に血統兵装を打ち合うものだから、仲良く骨になり、この前まで徘徊しておった。さすがに哀れに思っていたから、浄化してくれて感謝するぞ」


「別にあたしがやったわけじゃないし……」


奉仕階級シュードラがここに来る巡り合わせを作ったのはお主じゃろう? 連中は用も無くこんな場所に飛んでこないからの」


 衝撃の事実にベッドに座り込んで睨むルドラと、同じくベッドに着地した半透明なルヴィア。


 ルヴィアは転がっている映像神具をのぞき込みながら、手元にヴィッシュそっくりな炎を生み出していろいろな角度で観察し始めた。


「なかなかの美男子じゃな。本当に気が無いのか? だったらどうして見ていたのじゃ? ん? ん?」


「ちょっとは、気になるだけよ! コイツには婚約者と、怪しげな関係の幼馴染までいるのよ!」


 思わぬ神力の使い方に、ちょっと真似してみたルドラは、実物より二割増し格好良く作られたヴィッシュに顔を赤くして握りつぶしつつ、ルヴィアをにらみ付けた。


「落ち着くのじゃ。むふん。なるほどな。妾は火属性の名門シャクティの死に字引! お主の悩みを言ってみるのじゃ。経験豊富な妾が答えてやるぞ!」


「じゃあさ、夢でコイツが見つからない理由って分かる? あっ、夢って言うのは」


 しばらく睨んでいたルドラだったが、自分に似た半透明な少女について本能的に信頼できると感じたので、気になっている悩みを打ち明けてみた。


「あー、夢見か。また七面倒くさい神術を持っておるの。恐らくは見えている範囲の運命におらんのじゃ。シャクティの夢見は己が中心なのでな。しかし、探しても見つからないほどとは、随分と関わりの薄い運命の男に目を付けたみたいだのぉ」


「あの夢って神術だったんだ……。よく分からないけど、ヴィッシュについては知ることが出来ないって事?」


「うむ。先回りして小ずるく立ち回るより、ぶつかっていくのが良いぞ。夢見持ちは結果ばかり意識して動けなくなるし、思い詰めるからの。しかも、夢見持ち同士でかち合うと、致命的な事にもなるしの。我がシャクティみたいに」


 思いもよらない答えに納得しながら肝心な事について聞くと、ルヴィアの答えになっていない精神論を聞かされてジト目になるルドラ。


「うっ、だって相手のことがわからないのって、不安じゃない?」


「誰もがわからんなりに、関わっておるのじゃ! 当たって砕けろ!」


「砕けちゃったら、だめじゃないの!」


「わはは! 言葉の綾じゃ! で、その様子だと他にも不安ごとがあるのじゃろ。言ってみ、言ってみ。妾が適切、安心、完璧に答えてしんぜよう!」


 以外とそれっぽい事を言ってくる自称祖先に聞くだけ聞いてみるかという気分になったルドラは、最近気になっていることを聞いてみた。


「じゃあさ? 戦士階級クシャトリヤ司祭階級ブラフマナの差って……どのくらいあるの? ヴィッシュの周りの女の子が、二人そろって司祭階級ブラフマナなのだけど」


「むほほ! 恋敵との身分差を気にするか! まあ、確かにうまくいっても身分の差で御破談になるのは、諦めきれないじゃろうからの」


「恋じゃない! でも、知り合いとの差は気になるじゃない? 教えてよ」


「そうじゃな。うんうん、恋じゃないの。まあ、教えてやろうかの。くふふ、差の縮め方も教えてやるぞ」


 勢いづいて否定するルドラだが、彼女の内心は恋多きシャクティの恋愛相談を受けて幾星霜の守護霊には筒抜けのようで、受け流されつつ面白がられている。


 祖先から子孫への知識の伝授で、シャクティの城の夜は更けていった。

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