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 ひとみの弾いたギターを聞いて驚いた。若干パワーコードに頼りすぎているところはあるとはいえ、まともに曲として成り立っている。

 演奏で金を取れるレベルかと問われたら私も言葉を濁すけど、このくらいの腕前でチケットをたまに売り切っている人もいるくらいだ。


 まだひとみがギターを始めて一週間も経っていないというのに、みちるの指導力の高さには驚かされる。


「すっごい……こんなに早く弾けるようになるなんて」

「ふふん、当然ですわ!!」


 はくりに褒められてどや顔で答えるひとみ。

 こうして謙遜しない姿勢なのもまた、良い方向に作用しているように思えた。一見綺麗なように見えるが、謙遜とはすなわち自分を下に置くこと。それはひいては指導する人間もひっくるめて下げる行為に他ならない。

 それをせずこうして胸を張って威張れるというのは、教える側においてもモチベーションに繋がる。


「何をやってもすぐに習得してしまう天才のわたくしを、天才的ギターテクニックを持つ永井さんが指導してくださっているんですもの!!」

「えっ、えへへ……高橋さん、おっ覚えるの早いですからね」


 ひとみに褒められて照れ笑いしつつも、謙遜しない。良い繋がり、良いコンビになってきている。この調子なら、そろそろ動き始めてもいいかもしれない。


「はくり。そろそろ」

「……うん、そうだね。そろそろ動き始めてもいいかもしれないねー」

「そろそろ?」

「動き始める、ですか……?」

「うん。そろそろ曲作りを始めようと思う」


 私の言葉に、ひとみが目を輝かせて私とはくりを見ている。ふふっ、やっぱりバンドマンたるもの、オリジナルの曲で勝負したいよね。まだギターを始めて浅いみちるも、すっかり魂はバンドマンになってきつつあるみたい。


 ただ少しネックなのは、みちるがあまり乗り気じゃないように見えること。

 幽霊ゴーストの噂は、私とはくりが楽器に触れ始めた頃から聞いていた。私より年下ではあるが、バンドマンの世界に身を置いた年月はみちるの方が長い。そんな彼女が曲作りに少し否定的に見えるのが、どうも引っかかる。


「みちる、どうかした?」

「あっ、えっいっいえ、その……誰が作詞と作曲をするのかなー、って……ほっ、ほら、作詞作曲とただ演奏するだけだと入ってくるロイヤリティが変わって、そこからメンバーでの不仲が始まるっていうの、よっよくある話じゃないですか」

「よくある話なんですの!?」

「残念ながらねー……世の中金と痴情のもつれはいつでも問題を起こす原因だよーひとみん」

「そんな……もっとこう、キラキラとした、お金とか関係のない繋がりだと思ってましたのに……」

「繋がりを維持するのも壊すのもお金だよ」


 はくりの首肯に、ひとみが途轍もなくショックを受けている。

 まあ、世の中はどういう訳か「金目的で演奏するのは悪! 金の話なんてしてはならない!!」なんて風潮がバンドマンに限らずあったりするけど……金のやり取りでいともたやすく崩壊してしまうのが現実だ。


 そして印税の問題として、リリースした曲の印税はは、作詞作曲に大部分が入ることになる。なるほど、みちるはそれを心配していたのか。


 なぜお嬢様であるみちるがその心配を出来るかは置いといて、未だにライブの一つもやっていないバンドだというのにそういった杞憂を持ってしまうのはわかる。


 不平等とはそれだけで軋轢の原因となるもの。それが例え契約に乗っ取ったものだったとしても、金回りというものは決して疎かにしてはいけない。実際、それが原因で解散したバンドも結構見てきたし……私がサポートとして参加したバンドもちらほら、それが原因で解散したし……。

 とはいえ、


「そこはちゃんと考えがある」

「か、考え……ですか?」

「へっ? なんか考えあるのりん?」

「うん。作曲は出来る人が限られているからともかく、作詞の方はみんなで作ればいいんじゃないかな。各々歌詞を書き終えたら、それを見せ合ってって……多数が気に入ったら採用って感じで。一人が全部担当ってなったら、ジャンルが偏っちゃうからね」

「りんが歌詞担当するとフォークっぽいのばっかになっちゃうからね~」

「……はくりに任せてサイケデリックばかりになるのも駄目だからね」

「なっ、なるほど……そっ、それでしたら確かに、平等にロイヤリティをもっ貰えるようになりますね」


 まあその分、作曲担当が作詞もしちゃったらがっぽり貰えてしまうようになるけれども……それに関しては特に引っかからなかったようで、みちるは納得しそれ以上言及してくることはなかった。

 作曲する人間を限定するからロイヤリティに格差が生じる。であれば作詞する権利を全員で共有してしまえば、建前上は平等を作ることができる……筈。これならば、いざ音楽をリリースした後のバンド解散のリスクを大きく減らせる。


 あと単純に、ライブをするにはとにかく曲数が必要ってのもある。私一人、はくりと二人でも方向性が煮詰まりすぎて底が焦げるからね。


「とりあえず、作曲は私がやるけれど、作詞はみんながやる権利がある──って形で進めてもいいかな。私、作曲経験あるし」

「あっ、大丈夫です。わたっ私の家はパソコンが無いのでDTMでデモ音源作ることも出来ませんし」

「私も問題ありませんわ。ふふっ、素人である私でも歌を作る機会を与えてくださるのですから、ええ、反対なんてする理由ありませんわ!」


 ……まあ、語彙力だけじゃなく才能とリズム感という慣れが必要だから、主に私とはくり、みちるの三人が作ることになるだろうけれども。

 これで作詞作曲担当してガッポガッポ稼いで、ついでに作詞する権利は自由という餌を振りまいたことで解散のリスクを分散。そしてついでにはくりとみちるへの収入源もいざとなれば作れるようにできている。完璧。


 みちるはこれで納得がいった。ひとみは……まあ、音楽業界でも金の問題は付きまとうという現実を見たせいで少し目がくすんだような気がする。

 でも今度ははくりが何かを考えているみたい。


「今は曲をとにかく作らなきゃいけないし作詞自由は賛成。でも一つだけ、一つだけ条件をつけてもいい?」

「じょっ、条件……?」

「ですの?」

「うん、条件。多分これだけは守らないと色々とデビューは出来ないだろうから」


 そう言うとはくりが私に近付き、おもむろに私の身体を抱きしめた……なんで!?

 抱き返すべきかと迷っているとはくりの身体が離れ、そして彼女の手には愛飲している煙草の箱が……。


「酒と煙草を歌詞に入れ込むことは、二十歳になるまで禁止とします!!」


 はくりは防音設備の整ったスタジオから声が漏れ出るのではないかと思うくらい大声でそう宣告した。

 みちるは何か思い当たるところがあるのか「あー……」と声を出し、ひとみは何故そのような条件が必要なのか分からないといった感じに首をかしげている。


 ……そして私は、その場で膝から崩れ落ちた。


 つっ、詰んだ……。

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