第10話 戦争と代償
静かになったギルド内。
完成した二人分の登録証を持って戻ったリンベルトは、呟くように言った。
「よかったのですか?」
視線の先にはギルドマスターがいる。
「なにがだ?」
「二人の登録を認めたことです」
「お前がそうするように仕向けたんだろう?」
「私は彼等が飢えて死なないよう、素材の受け入れ先として扉を開けておくつもりでした。ギルド所属なら手数料も取られませんからね。ですが依頼を受けさせ、育てるならば白竜あたりに行かせるべきだと思っています」
「……」
その言葉にギルドマスターは沈黙した。
闇夜の灯火にかつての豪傑達はいない。
今から5年前――魔王の復活に伴い、魔族達によって最初の侵攻を受けたのが[勇者の国 レクディウス]。
遠く離れた王国にも知らせはすぐに届いた。
もちろん、救援要請もである。
冒険者ギルドの雇い先は国ではなく個人。そして依頼を受けるも受けないも冒険者に委ねられる。
行けば未知の脅威である魔族の蔓延る戦場。
得られるものは金ではなく、栄誉のみ。
そしてたくさんの民の命――。
他のギルドが沈黙する中で、闇夜の灯火はレクディウスの救援に名乗りをあげた。
国内最強と名高い金1級冒険者を筆頭に、金2級冒険者のギルドマスター、同じく金2級冒険者のリンベルト、金3級冒険者のブロンガスなどなど、当時最も力と規模のあった国内最強ギルドである。
参加したのは所属する冒険者のうちの実に8割にのぼった――彼等はこのギルドに命と信念を捧げていたのだ。
「リンベルト。俺は今でもあの判断は間違ってなかったと思っている。廃業の一途を辿っている今でも、だ」
「それは私や散っていった皆も同じ気持ちです」
受付リンベルトは目を瞑り、防衛戦争の凄まじさを思い出す。
結果は惨敗。レクディウスは滅亡した。
それだけ魔族の強さは尋常なものではなかった。
参加した冒険者が大量に死に、金1級は深い傷を負い寝たきりとなった。
マスターも利き腕の機能を失っている。
足の腱を損傷したブロンガスをはじめ、冒険者家業に支障をきたす重大な怪我を負った者達は、帰国後、悔しそうに引退していった。
その後、ギルドは戦死・引退した戦士達へ巨額の見舞金を送り、飢えで本人及び家族が死なないよう工面した。
主戦力が一気に減ったことや、資本金が減ったこともあり、戦争非参加だった冒険者達は今後の経営を心配し、早々に別のギルドへ移籍していった。
こうして闇夜の灯火は衰退していったのだ。
「……希望に満ちたあの二人の顔を見ていると教えたくなるんだ、冒険者のノウハウを。その後にいくらでも……どこへでも飛び立つといいさ」
扉を見ながらギルドマスターが呟く。
リンベルトは何も言わず、ゆっくり頷いた。




